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番外編

帰郷(メリーアン視点)

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 管理職になった私にフェノバール公爵夫人の申し出は有り難くもあり魅力的でもあった。

 あの事件はもう風化しているはずだ。ノルスバン王国に戻っても好奇な目で見られることも腫れものに触られるような事もないだろう。

 あの事件で婚約を解消した令嬢達はそれぞれ幸せになっているようだ。

 殿下の婚約者だったポーレッタ様はエリスバン商会の会頭夫人に収まっている。元々好きだった人と結婚できたのだし、最近はなんだったか忘れたけど爵位をもらい貴族になったらしい。王家はやっぱりポーレッタ様に気を遣っているのか? それとも商会が大成功しているからか私にはわからないけどね。

 チャーリー様の婚約者だったステファニー様は隣国に公爵家に嫁ぎ、今ではバリバリの公爵夫人だ。今でも当時と同じように仲良くしてくれている。

 オーウェン様の婚約者だった方はどうなったのかわからない。どんな人だったか思い出せないわ。

 アルダール様はそのまま婚約者と結婚したんだったったけ?

 私はあの後、王妃様のお力添えで隣国の魔法医療病院に入院した。
 なぜかあの日の記憶と婚約者の記憶だけがすっぽり抜け落ちていて、思い出せない。
 回復し、魔法看護師になってから元婚約者のジャック様と再会したが、ジャック様は目を怪我していて私を元婚約者だと気がつかなかったようだ。元婚約者に対しての贖罪のようなことを語っていたが、特に心は動かなかった。

 チャーリー様とはあれ以来お会いしていない。30年ぶりか。

 チャーリー様には何もされていない。嫌な思いもさせられていない。個人的に恨みもないし、チャーリー様の病院で働いても構わないと言えば構わないけど、私のこと覚えてるかな? 気を使われたら嫌だしなぁ。

 メグ先生ってどんな人なんだろう? 同世代かな? 私はフェノバール公爵夫人にチャーリー様とメグ先生に会ってみたいと連絡した。

 フェノバール公爵夫人はすぐにセッティングしてくれた。

「メリーアン様、チャーリー先生とは面識があるのよね?」

 いきなりきたか。

「はい、子供の頃に。チャーリー様ご無沙汰しております」

「メリーアン、まさか魔法看護師になっていたなんて驚いたよ。私とこんなふうに会って不快ではないか?」

 相変わらずチャーリー様は優しいな。

「大丈夫ですわ。チャーリー様には何もされていませんもの」

「あの頃はすまなかった」

「チャーリー様は悪くないわ」

 私はチャーリー様を前にしても、特に不快な気分になったり恐怖を覚えることもなかった。


「ひょっとして、メリー? やっぱりそうね」

 私をメリーと呼ぶのは身内だけのはずだが? 

「もう、覚えてないの? ひどいわ! 従姉妹のマーガレットよ!」

 マーガレット? マーガレットお姉様なの?

 マーガレットお姉様と私は従姉妹だ。あの事件のあと私は隣国に行き入院した。その時、マーガレットお姉様は結婚して他国にいたので、音信不通のようになっていた。

「マーガレットお姉様、伯爵夫人なのに、なぜお医者様に?」

「離縁したの。自立の為に医者になったのよ。私頭がよかったでしょ。それにしても大丈夫なの? 隣国で静養してると聞いていたわ」

「噂よ。隣国で魔法医療を受けて身体の傷も心の傷も治して、病弱だった体質まで変わっちゃったの。だから慰謝料で勉強して看護師になったの」

 まさかマーガレットお姉様が離縁して医者になってるとは驚いた。

「ミディア様、メリーはうちの病院で引き取るわ。チャーリーには渡さない」

 マーガレットお姉様はそう言って私の手を引っ張る。

「そうだな。従姉妹ならそれがいい。しかし、ベテランの魔法看護師は我が国では貴重だから、うちの病院にも時々手伝いに来てくれると嬉しいな。看護師達にも教えてやって欲しい」

 チャーリー様は笑顔でそう言った。

「はい。私は現場が好きなので、移動魔法でノルスバン王国を飛び回る魔法看護師になりたいわ。そしてこの国で魔法看護師を沢山育てたい。フェノバール公爵夫人、チャーリー様、マーガレットお姉様、よろしくお願いします」

 なんだかウキウキしてきた。

やっぱり現場がいいわね。

 しかし、この年になってまたノルスバン王国に戻るとは夢にも思わなかった。マーガレットお姉様と一緒に働けるのもうれしい。

 呼んでくれたフェノバール公爵夫人に感謝しなきゃね。

 私は移動魔法で隣国に戻ってすぐ働いている病院に辞表を出し、ノルスバン王国に戻ってきた。
 そしてマーガレットお姉様の屋敷に転がり込んだ。
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