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リカルド様には困ったものです

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 実家での居候生活はなかなかの苦行だった。

 別にメグ先生は絶対安静と言ったわけではないはずなのだが、絶対安静の方がまだマシかもしれない。

 私はとりあえず寝台で寝たり、座ったりしているのだが、寝台の横には椅子があり、その椅子にはずっとリカルド様が座っている。

「リカルド様、領地でお仕事があるのではありませんか? 私のことなら大丈夫ですよ」

「ダメだよ。私は産まれるまでそばにいると約束したんだ」

 誰と? 誰と約束したのよ。

「またそんなことをおっしゃって。リカルド様が子供のことを気にしてくれるのは嬉しいですが、お腹の子供はまだ話しませんわ」

 リカルド様はふふふと楽しそうに笑う。

 私は小さくため息をついた。

「動きたいです!」

「困ったな。まぁ、ちょっとくらいならいいかな?」

 リカルド様はお腹に耳を当てる。

 不可解な行動だ。

 私を抱き上げたリカルド様は部屋を出て中庭のガゼボで私を下ろした。

 メアリーがすかさず膝掛けをかける。

 お茶の用意ができていたようですぐにお茶とお菓子がでてくる。

「今日はお嬢様の好きなアップルパイにしました。りんごが沢山はいっております」

 メアリーはにっこり笑う。

 逃すもんかみたいな笑い顔だ。

 動きたいと言うのは歩きたいということなのに、これでは移動しただけだ。

 メグ先生は歩いてはいけないといったのだろうか?


 あの日からリカルド様の過保護具合が酷くなった。
 さすがの私もちょっと引く酷さだ。

 とにかく抱っこ。一歩も歩かせてくれない。
 どれだけ鍛えているのかと聞きたいくらいだ。
 いくら私が小柄だといっても妊婦なんだ、それなりに体重はある。それなのにひょいと抱き上げる。
 食事もなぜか食べさせてくれる。手は動くしひとりで食べられるのに。

 恥ずかしいのはお花摘みに行く時も湯浴みに行く時もリカルド様の抱っこで行く。そして甲斐甲斐しく世話をされる。甲斐甲斐しくの内容? そんなの恥ずかしくて言えません。
 お花摘みはひとりでできるし、湯浴みはメアリーにお願いしたいと言っても絶対聞き入れてくれない。

 私が座っている時はずっと腰をさすってくれているし、横になっている時はずっと手を繋いでいる。
 眠る時はお腹が大きいので横向きになるのだが、絶対背中から抱き締める。そしてお腹に手を当てている。魔力でも送っているのだろうか?

 と言うことで私はリカルド様がお花摘みに行く時と湯浴みをするとき以外は必ず身体のどこかが触れている状態でべったりくっつかれている。お花摘みも湯浴みも恐ろしく早い。
 私はリカルド様が好きだけど、いくら好きでもほぼ24時間ずっとべったりはどうよ。
 本当に密着なのよ。密着。近いの。美形に密着されるのって心臓に悪い気がする。結婚してもうすぐ5年。子供を作る作業もしているんだけど、それでもドキドキしちゃうし、カーッと身体が熱くなっちゃうわけ。

 今もさ、もう寝ようかって一緒に寝台の上で座ってるんだけど、後ろからぎゅっと抱きつかれてるわけよ。
 私の肩の上にリカルド様の顎が乗っかってるの。ほっぺなんでくっついてるんだからね。
 私はリカルド様の足の間にすっぽり入っているの。
 守るからって言うけど、これちょっと過剰じゃないかしらね。

 赤ちゃんが産まれるまで続くのかしら。

 赤ちゃんが産まれたらまた鍛錬したいな。剣の稽古もしたいな。

 騎士団のみんな元気かな。

「ミディア、今ほかの男のこと考えてなかった?」

「ほかの男? 考えてなんかないですわ。さぁ、寝ましょう。明日は産まれるかな?」

 あ~怖い怖い。リカルド様は私の心が読めるんじゃないかと時々思うわ。

 さぁ、寝よう。

 赤ちゃん、そろそろ産まれてきてよ。
 
 パパをお願いするわ。赤ちゃんが産まれればきっと赤ちゃんの世話を焼くはず。パパはなんでもママより上手にする人だから、あなたの世話もちゃんとしてくれると思うよ。
 もちろんママもがんばっちゃうよ。

 だから赤ちゃん、いつでも産まれてきてね。パパもママもあなたを愛してるわ。

『それじゃあ、そろそろ出ようかな』

 ん? 

「リカルド様何が言った?」

「いや、何も」

「空耳かな。お休みなさい」

 それからしばらくして陣痛が始まった。

 魔力の大きな赤ちゃんの出産ということで、メグ先生の他に魔法助産師、アーサー様が呼ばれた。

 アーサー様は部屋の前から魔力をコントロールするそうだ。

 陣痛と陣痛の間の時間に母がひと口サイズのサンドイッチを差し入れしてくれたので食べた。

 王妃様まで到着したそうだ。

 ルビー姉様やエレノア姉様、アリシア様まで来ているらしい。

 ランドセン侯爵家はちょっとしたお祭り状態になっているようだ。

 リカルド様は隣でずっと私の手を握りっぱなしだ。

 陣痛と陣痛の間隔が短くなってきた。

 いよいよだな。

 頑張って出ておいで。ママは頑張っていきむよ。

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