上 下
28 / 161
連載

【閑話】国王陛下ジャックに会う1(国王陛下視点)

しおりを挟む
*長くなりそうなので何話かに分けますね。貯めずに書きながら投稿しているので、何話になるか? 国王視点が終わったらミディアパパ視点を書いてミディア視点に戻す予定です*


「モダフィニル辺境伯、急にごめんなさいね」

「いえ、王妃殿下においでいただいていて恐悦至極にございます」

「この人は今日から3ヶ月国王じゃないので、不敬なんて気にせず、ただの50歳のおじさんだと思って働かせて。3ヶ月経ったら迎えにくるわ」

 王妃がモダフィニル辺境伯と話をしている。モダフィニルは元々は宮廷騎士団で団長をしていた。子供の頃からの私の側近だ。今は王妃の手前難しい顔をしているが、きっと私を客人としてもてなしてくれるだろう。

「陛下、逃げない様にサボらない様に監視に影をつけておりますので3ヶ月、自分と向き合い平民になった気分で生きてください。だれもあなたを助けてはくれないわ。私は国王だなんて言っても頭のおかしなおじさんだと思われるだけよ。辺境伯、あなたはこの人とは最後の日まで会ってはだめよ。甘やかしちゃうでしょ。では、私はこれで」

 王妃には私の考えていることなど手にとる様にわかるみたいだ。
 きつく念押しをし風の様に消えてしまった。監視がつくのか。影だとさぼれないな。私はがっかりした。



「辺境伯、それで私は何をするのだ?」

 痛っ、何かで打たれたように痛い。

「陛下、辺境伯閣下に偉そうにしたら警策で打てと王妃様に言われております。謙虚な態度でお願いします」

 影が抑揚のない話し方で言う。

「陛下、どうかされましたか?」
「いや、なんでもない」

 影の声が聞こえていないであろう辺境伯の問いに私は慌てて誤魔化した。

 私は辺境の地で見張りの仕事を与えられた。
 辺境伯は恐縮していたが、王妃にああ言われ、影までつけられては仕方ない。
 
 国境の高台でただ外に変化はないか双眼鏡で見張る仕事だ。簡単だし、私でもできる。
 何かあれば、伝書で連絡する。それだけだ。
 暇で眠くなる。しかし、居眠りをすると影に警策で打たれる。影に話しかけても無視される。
 いつも人に囲まれていた私はひとりでいることが恐怖になってきた。

 仕事は基本休みはない。朝になると、夜勤の者が起こしに来て交代する。夜になると夜勤の者を起こし交代する。食事は時間になると所定の場所に置かれている。移動魔法で運んできているのだろう。それを食べるだけだった。


 1週間くらい経ったある日、見覚えのある男が現れた。

「今は、国王陛下じゃないそうだから、敬わないぜ」

 なんだこいつ。

「俺はリカルドに随分世話になった。あんた、リカルドを国王にしたいらしいな」

「お前はだれた?」

「誰でもいいだろ。国王陛下じゃないただのおっさんが俺の名前なんて知らなくていい」

 そいつはそう言って私の隣に腰を下ろした。

「俺は子供の頃からずっとリカルドに庇ってもらっていたことに気がついていなかった。それが普通だと思っていた。だから何をやっても許されると思っていた。まぁ、悪く言えば俺のやらかしはリカルドが頭を下げて揉み消してくれていたんだよ」

 何を言っているのか? 何が言いたいのかよくわからん。

「あんたもさ、あんたのやらかしを王妃様やリカルドや宰相あたりがもみ消してるんだよ。知らなかったか?」

「知らないも何も私は別にやらかしてなどいない」

「裸の王様だな。知らないのはおっさんだけだ」

 不敬なやつだ。3ヶ月が過ぎたら絶対捕らえてやる。

「俺はやらかしちまった時に罰として廃籍されてよ、平民の中に放り出された。きっとまたリカルドが助けてくれると思っていたのに、あいつは助けにこなかった。何をやってもうまくいかない。あいつは俺を見捨てたんだ。そもそも俺がこんな目になったのはあいつのせいだとリカルドを恨んだ」

 思い出した。こいつは……。

「けどよ、流れていったフェノバール領であいつに再会したんだ。あいつは俺を見つけて喜んだ。俺を一度捨てたことをすっかり忘れていた様だった。俺はリカルドによっかかって生きることにした。適当に働くふりをしていればなんとでもなる。でもな、しばらくして、あいつ若い女と結婚したんだ。その女が生意気でうるさい女だった」

 ミディアローズか、確かに生意気でうるさい、痛いところをついてくる奴だ。

「あの女が来てからリカルドは変わった。昔馴染みの俺よりあの女を大事にした。気がついたら俺は弟に見つかりここに連れてこられた。またリカルドが迎えに来てくれると思ったんだけどあいつはこない。今度こそ本当に捨てられたと思った」

 何が言いたいんだ? リカルドの悪口を言いたいのか?

「ここに来てから俺はリカルドの悪口を言いまくった。でもな、ここには王都から流れてきたやつも沢山いてな、そいつらからリカルドの話を聞かされたんだ。あいつは魔法が解けたあと、1年経っても意識が戻らず、意識が戻ってからも身体が動かず3年も寝たきりだったと、王家はそのままリカルドを王太子にしていたが、あいつは自分から廃籍を申し出た。仕方なく王家は廃嫡にした。廃籍にはしなかった。そして自ら災害でどうにもならなくなっていたフェノバール領の領主になったと」

「そうだ。廃嫡すると決まった時、私たちは温暖で豊かな南の領地を与えるつもりだった。しかしあいつはそんな生ぬるいことではダメだとまだ身体が治っていなかったのに、酷い頭痛や身体の痛み、めまいや吐き気があったのに、ひとりでフェノバールに行った」

 私はリカルドの責任感と強い気持ちが眩しかった。
 私ならあんな目に遭って、あんな後遺症を負いながらフェノバールになんかいかない。その時も次期国王はやっぱりリカルドしかいないと思った。
 
 弟のクリストファーは私に似て怠惰で依頼心が強い。母の様な妃を娶らねば国王などつとまらない。身に余る役目はつらいものだ。

「俺は何にも知らなかった。リカルドは恵まれている。だから俺ひとりくらいどうにでもできる。俺はあいつにずっと依存して、そして思い通りにならなかったらあいつを罵っていた。リカルドは形ばかりの領主で誰かがやっていると思っていた。でもみんなあいつがやっていた。痛む身体を騙しながらあちこちに行って頭を下げて助けてもらい、自ら領民に混じり、体を動かした。そうやってフェノバールを立て直したとここに来た時に父や弟やクリストファーにさんざん言われ、なじられたよ」

 あの姿を知っている者はリカルドを悪く言うやつを許せないだろう。

 そもそもリカルドは何も悪くない。謀反を起こそうとした奴らは私が間抜けな国王だからつけいる隙があると思ったのだろう。
 謀反犯は魅了の魔法でリカルドや側近を取り込み、王宮に入り込み私に魔法をかけようとしていたそうだ。
 あの時、宰相が諜報のために学園に潜入させていた息子があの女の違和感に気づかなければ、我が国は大変なことになるところだった。
 そのことで宰相の息子に褒美をとらすと言ったら『魔法にかけられていることまで突き止められなかったのに褒美などいらない。自分にもっと諜報の力があり、魅了の魔法だと気がついていたらリカルド様をこんな目に合わせる事はなかった。本当なら罰を受けなくてはならないくらいだ』と言っていた。
 いや、私が間抜けな国王でなかったらそんな事は起きなかった。
 悪いのは全て私なのだ。

 私はこの時初めて自分の罪に気がついた。

*警策とは座禅の時にお坊さんが持っている棒です。国王はサボったり偉そうにすると影にこれで打たれます*
しおりを挟む
感想 533

あなたにおすすめの小説

絵姿

金峯蓮華
恋愛
お飾りの妻になるなんて思わなかった。貴族の娘なのだから政略結婚は仕方ないと思っていた。でも、きっと、お互いに歩み寄り、母のように幸せになれると信じていた。 それなのに……。 独自の異世界の緩いお話です。

【完結】巻き戻してとお願いしたつもりだったのに、転生?そんなの頼んでないのですが

金峯蓮華
恋愛
 神様! こき使うばかりで私にご褒美はないの! 私、色々がんばったのに、こんな仕打ちはないんじゃない?   生き返らせなさいよ! 奇跡とやらを起こしなさいよ! 神様! 聞いているの?  成り行きで仕方なく女王になり、殺されてしまったエデルガルトは神に時戻し望んだが、何故か弟の娘に生まれ変わってしまった。    しかもエデルガルトとしての記憶を持ったまま。自分の死後、国王になった頼りない弟を見てイライラがつのるエデルガルト。今度は女王ではなく、普通の幸せを手に入れることができるのか? 独自の世界観のご都合主義の緩いお話です。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

【完結】巻き戻したのだから何がなんでも幸せになる! 姉弟、母のために頑張ります!

金峯蓮華
恋愛
 愛する人と引き離され、政略結婚で好きでもない人と結婚した。  夫になった男に人としての尊厳を踏みじにられても愛する子供達の為に頑張った。  なのに私は夫に殺された。  神様、こんど生まれ変わったら愛するあの人と結婚させて下さい。  子供達もあの人との子供として生まれてきてほしい。  あの人と結婚できず、幸せになれないのならもう生まれ変わらなくていいわ。  またこんな人生なら生きる意味がないものね。  時間が巻き戻ったブランシュのやり直しの物語。 ブランシュが幸せになるように導くのは娘と息子。  この物語は息子の視点とブランシュの視点が交差します。  おかしなところがあるかもしれませんが、独自の世界の物語なのでおおらかに見守っていただけるとうれしいです。  ご都合主義の緩いお話です。  よろしくお願いします。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

溺愛されたのは私の親友

hana
恋愛
結婚二年。 私と夫の仲は冷え切っていた。 頻発に外出する夫の後をつけてみると、そこには親友の姿があった。

【完結】好きになったら命懸けです。どうか私をお嫁さんにして下さいませ〜!

金峯蓮華
恋愛
 公爵令嬢のシャーロットはデビュタントの日に一目惚れをしてしまった。  あの方は誰なんだろう? 私、あの方と結婚したい!   理想ドンピシャのあの方と結婚したい。    無鉄砲な天然美少女シャーロットの恋のお話。

探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?

雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。 最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。 ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。 もう限界です。 探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。