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アロイス殿下

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 結局、陛下は私の言葉に何が思うところがあったようで、アロイス殿下に会うことを許してくれた。

 私は、レオナード殿下、ゲオルグ、そしてジークヴァルトと一緒に北の塔の螺旋階段を登る……訳がない。そんなことしたら目が回るし、明日は足が筋肉痛だわ。もちろん転移魔法でアロイス殿下のいる場所まで移動する。

 私達が来ると聞いていた見張りの騎士達も突然私達が何もないところから湧き出るように現れたので驚いて腰を抜かしたようだった。

「驚かせてすまない。これも魔法なんだ」

 殿下は騎士達に種明かしをする。騎士達は目を丸くしている。騎士な一人が静かに答えた。

「驚きました。さすが聖女様とロンメル卿。私達では考えもつかない魔法を繰り出されますな」

 苦笑いをしている。

「今日来られることは陛下から聞いております。しかし、アロイス様はかなり塞ぎ込んでおられます。お話しできるかどうか……」

 目を伏せた。彼らも元々はアロイス殿下についていた騎士達なのだろう。やっぱりアロイス殿下は慕われているようだ。

ガチャリ

 扉を開け部屋に入る。別に罪人ではないので囚われている訳ではない。鍵はかけられていない。部屋は普通の貴族の部屋くらいの広さで家具や調度品も素敵な感じだった。

 アロイス殿下の姿を探す。

「あ、兄上……」

 レオナード殿下が呟く。見つけたのか? どこにいるのだろう?

 私は隣に立つジークヴァルトを見た。

 ジークヴァルトは部屋の奥の角を指し示す。

「あそこにうずくまっておられるのがアロイス殿下です」

 あの塊がアロイス殿下なのか。私は鑑定魔法でアロイス殿下の中身を見てみたかった。

 早く見たい。しかし、殿下の状態はかなり悪そうだ。はやる気持ちを抑えた。

 見張りの騎士達に声をかけた。

「アロイス殿下は食事は?」

 騎士団は首を横に振る。

「ほとんど召し上がっていらっしゃいません。頭痛がひどいようで、時々嘔吐をされておられます」

 頭痛と嘔吐か。

「医師には診せたのですか?」

「いえ、殿下がいらないとおっしゃるので……」

 うずくまった塊のままでとりあえず鑑定魔法でこのアロイス殿下を見てみた。

 やはり思っていた通りだ。

 レオナード殿下は私をじっと見ている。

「アイリ殿何がわかったか?」

「はい。これは薬ですわね。魔法ではなく薬です。アロイス殿下は一般には惚れ薬と呼ばれている、心が惑わされ、幻影を見せられ混乱する作用のある薬草から取り出したエキスを何かに混ぜて摂らされたのでしょう。早く浄化しないと手遅れになるわ」

「そういえば、あの女はいつも手作りのクッキーを持ってきてみんなに食べさせていた。殿下に得体の知れない物を食べてはいけないと言ったが。あの女が泣きながら、殿下やみんなに喜んでもらおうと一生懸命作ったと言ったら、殿下は他のやつらも食べてなんでもないから大丈夫だろうと食べたんだ。クッキーは毎日持ってきていたからきっとあれにその薬を混ぜていたんだろう。私がもっと止めるべきだった」

 ゲオルグは拳を握りしめている。

「あなたは大丈夫だったの?」

「私は食べるふりをして捨てていた。あんな気持ち悪い女が作ったクッキーなんて腹を壊しそうで食べる気がしなかった」

「正解だわ。あなただけでも助かって良かったわ」

私はゲオルグの肩に手を置いた。

「頼む。兄上を助けて欲しい」

 私の前に来たレオナード殿下に頭を下げられた。

「アイリ殿、浄化とはどんな魔法をかけるんだ?」

 ゲオルグが私の顔を覗き込む。

「やってみるので見ていて。私が浄化をし解毒がすんだら、身体が楽になるので、その後でゲオルグが回復魔法をかけてあげて」

 私は少し離れたところに立ったまま、アロイス殿下に向けて浄化の魔法を繰り出した。

 私の手からグリーンの光が溢れてきた。部屋の隅でうずくまっているアロイス殿下を背中からすっぽりと包み込む。しばらくするとアロイス殿下の首の後ろから黒いモワッとしたものがもくもくと出てきた。

 私は魔法で袋のような形の物を出し、その中に入れていく。

 何時間くらい経っただろう。黒いもくもくの入った袋は30個くらいになった。

 アロイス殿下は身体を伸ばし眠っているようだった。

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