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リュディガー

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 まずはジークヴァルトが言っていた辺境の地での怪我人の治療を優先させたい。

 ブランケンハイム領に行ったら、綻んだ結界も見てみたい。

 殿下に承諾を得ないとダメだろうな。私は殿下の顔を見た。

「殿下、まず東の辺境の地、ブランケンハイム領に行き、先程ジークが言っていた怪我人の治療をしようと思いますの。その時に結界の綻びの状態も確認したいですわ。行ってもよろしいかしら?」

 殿下は眉間に皺を寄せている。

「いいのはいいが、ブランケンハイム領までは遠い……」

「転移魔法ですわ。私がジークを連れて転移します。あちらではジークがいれば問題はないでしょう。治療が終わり次第またこちらに戻ります。日帰りで充分ですわ」

「ひ、日帰りか?」

 殿下は驚いているようだ。

「その、転移魔法は何人まで行けるのだ?」

「私の手が触れていれば一緒に行けるので、左右で二人は確実に大丈夫ですわ」

 殿下は腕を組み何かを考えているようだ。

「私も一緒に行きたい。転移魔法を体験してみたい。それに沢山の者達を治療する様子を見てみたい。結界の綻びもこの目で確認したい」

 殿下の突然の発言にお付きの人達は慌てている。

「で、殿下、おひとりでは無理です。護衛もいりますし……」

「護衛はジークがいるではないか。向こうに行けば辺境の騎士団もある。日帰りなら私が行っても問題ないであろう」

「しかし、陛下の許可を頂かなくてはなりません」

「公爵、父上に伝えておいてくれ」

「承知いたしました。私も一緒に行きたいところですが、今回は我慢いたします。アイリ殿、こちらに戻ったら私にも転移魔法を教えてくだされ。楽しみにしておりますぞ」

 トゥルンヴァルト公爵は口角を上げた。

「もちろんですわ。では、殿下、ジーク行きましょうか? こちらに」

 私は右手を殿下、左手をジークと繋ぎ、転移魔法を発動した。

 目の前の景色が歪み真っ暗になる。そしてまた歪んだ景色が見え、だんだん普通の景色に戻る。



「兄上!」

 誰だろう? 長身のイケメンだ。目を見開き固まっている。

「リュディ」

 ジークヴァルトが声を出した。

「兄上、これはいったい?」

「魔法だ。聖女アイリ殿の魔法で王城からこちらに今転移してきた?」

「兄上、頭は大丈夫ですか? 王城から転移してくるなんてそんなことできるわけないではありませんか」

 そりゃそうだろう。誰でも疑うはずだ。

「リュディガー、久しぶりだね」

 殿下が声をかけた。

 リュディガーと呼ばれたその人は殿下に気がついたようでピシッと背筋を伸ばした。

「王国の若き太陽、レオナード殿下に拝謁をお許しいただき恐悦至極に存じます」

「堅苦しい挨拶はいい。今日は忍びだ。ジークの言う通り聖女アイリ殿の魔法で転移してきた」

 さすがに殿下の言葉は信じるようだ。

「リュディ、紹介するこちらは召喚で呼ばれた聖女アイリ殿だ。怪我人を回復魔法で治すために来てくれた。アイリ殿、これは弟のリュディガーです」

 リュディガーはジークヴァルトとは雰囲気が違う。

 細マッチョでシャープな感じのイケメンだ。ジークヴァルトがクマならリュディガーは豹。顔はよく見ると似ていないこともないが、それ以外はあまり似ていない。

「それより兄上、顔の傷はどうしたのですか?」

 気がついたようだ。

「アイリ殿が治してくれた。顔だけでなく、背中もな。それに痛みや痺れも綺麗さっぱりなくなった。お前の左腕も治してもらえる」

 そういえばリュディガーは左腕の肘から下が無い。それで四肢欠損は治るのかと聞いていたのだな。

 リュディガーは疑いの眼差しを浮かべている。

「傷ならともかく欠損した手がはえてくるとでもいうのですか? あり得ない」

 投げやりな感じだな。

「欲しい? 生えてくるなら欲しい?」

 私は聞いてみた。

「欲しいさ、欲しいに決まっている」

「じゃあやりましょう」

 私はリュディガーの左腕に手を添え祈る。

 私から光が溢れ出てきてリュディガーの左腕だけでなく身体全体を包みこむ。

 部屋にいるみんなは突然の出来事に頭がついてこないようだ。

 光が薄くなっていき、全て消える頃にはリュディガーの左腕はもとどおりになっていた。


「戻ったな」

 ジークヴァルトがぽつりとつぶやいた。

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