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教えたい

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「転移魔法が使えれば、王都で辺境の地を行ったり来たりするのも一瞬ですわ。ジークも今から辺境の地に戻るのは何日かかかるから大変でしょう? 私が教えます、皆さんは転移魔法を使ってみたくないですか?」

 みんなは目を丸くしている。

「ごめんなさいね。勝手に皆さんを鑑定魔法で見せてもらったのですが、魔力は充分ですわ」

 エミーリアが立ち上がった。

「アイリ様、私のことはエミーとお呼び下さい。私は魔法など全く使ったことがありません。自分に魔力があるなんて初めて知りました。魔法は王家の方々か一部の魔導士しか使えないと思っていました。本当に私も使えるのですか?」

「私もだ。38年も生きているが自分が魔法を使えるなど全く知らなかった」

 公爵も驚いている。38歳だったのね。この世界も前世と同じで結婚適齢期が早いようだな。

「私もです。魔法が使えれば魔獣や魔物とも戦いやすい」

 いや、そこかよ。クマさんはやっぱり戦うことが重要か。

 それにしても、皆こんなに魔力を持っているのに放出しなくて魔力過多でしんどくならなかったのが不思議だわ。

 私は殿下の顔を見た。

「殿下は魔法使えますよね?」

「あぁ、でも簡単な魔法しか使えない。魔法について特に学んでいないしね」

「もったいないです。持っているなら使いましょう。魔法は便利です」

 私はドヤ顔で微笑んだ。


 殿下の話によると、国王はまだ危機的状況というわけではないので、ひと月ほど王都で、この国の事や私にしてもらいたいことを説明してから、ブランケンハイム領に行き、そこで穴を埋めたり、結界を張ったり、魔獣や魔物退治をしてもらおうと思っているらしい。

 確かにまだ穴は綻び始めた感じみたいだし、それほど慌てなくても大丈夫だろうが、私が元の世界に戻ったあとも、もう召喚みたいな馬鹿なことをしなくていいように、この国の魔力のある人に魔法の使い方を教えておきたい。

 私はこの国の精鋭達に、アイリーン時代、子供の頃に魔法を学んだやり方を思い出しながら初歩の使い方から教えてみようと思った。

「殿下、まず、殿下に近い人で魔法を使ってこの国を守りたいと思っている人を集めてもらえませんか。私が鑑定魔法で魔力があるか、私利私欲に使おうとしていないかを判断します。殿下や公爵、ジークやエミーから見て信用できる人をお願いします。適性を見てそれぞれに使える魔法を教えます。まずは一定の魔力がある人なら誰でも使える転移魔法を使えるようにしたいと思っています。せっかく縁あってこの世界に来たのですから私にできることはやりたいです」

 殿下は頷いている。

 みんなも頷いている。

 さぁ、この世界に爪痕を残しはじめましょうかね。

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