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殿下の事情

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*諸事情により元王太子の名前を変アロイスに更しました。


 部屋に戻ってから、ハンナに聞いてみた。

「殿下と婚約者のご連絡の間には何かあるの?」

 ハンナは大きなため息をついた。

「婚約者のエミーリア様は元々はレオナード様のお兄様のアロイス様の婚約者であらせられたのですが、ちょっと事情がございまして、アロイス様は廃嫡となり、婚約者のエミーリア様はそのまま王太子となったレオナード様の婚約者になられたのです。まだおふたりは婚約されてから日も浅く、お互いに遠慮していると申しますか……」

 なにやらややこしい事情がありそうだな。

「でも、エミーリア様がアイリ様とお近づきになることでおふたりの距離が縮むかもしれません。このことが良き方に向いて欲しいですわね」

 ハンナはまた大きなため息をついた。


 ハンナがお茶の用事をするために席を外した。

「アイリ様、先程の話なのですが……」

 ハンナの娘で、同じく私の侍女になったメラニーが話しかけできた。メラニーは18歳くらいだろうか、明るい感じの侍女だ。

「我が国では少し前に大変なことが起こったのです」

「大変なこと?」

 召喚以上に大変なことなんてあるのだろうか?

「実は先の王太子殿下のアロイス様が学園で出会われた男爵令嬢と恋に落ちまして、子供の頃からの婚約者のエミーリア様を無実の罪をきせて断罪し、婚約を破棄し、その男爵令嬢を妃にすると、卒園のパーティーで宣言なされたのです」

 はぁ~、まるで悪役令嬢小説だな。前世の私の元婚約者の馬鹿王太子以外にもそんなことをする奴がいるんだな。

「でも、その時に颯爽とレオナード殿下が現れ、エミーリア様の冤罪をはらされました。レオナード殿下が男爵令嬢の悪事を全て白日の元に晒し、エミーリア様の名誉を回復したのです」

 メラニーの目はハートマークになっている。

「それでそんな女に簡単に騙されるような者は王太子の資格はないと廃嫡されたのかしら?」

「その通りです。アイリ様ご存知でしたか?」

 知らん。そんなの知らんけど、だいたいそんな感じでしょ?

「そう思っただけ。で、元の王太子はどうしているの?」

「北の塔におられます。男爵令嬢に騙されていたことがショックだったようで心を壊されたらしいです」

 なんだそれ、弱っちい奴だな。

「それでレオナード殿下が王太子になって、エミーリア様がスライドして婚約者になったわけね」

「はい。エミーリア様はもう王太子妃教育を終えられていて、王家の秘密までご存知なので、他家へ嫁ぐことはできず、毒杯か王太子妃しかなかったようですよ」

 それも私と同じか。私はエミーリア様の気持ちが知りたかった。

「エミーリア様は元の王太子のアロイス様のことが好きだったの?」

 私の問いにメラニーは首を傾げた。

「どうでしょうか? 元々、殿下はエミーリア様を嫌っていたようで、エミーリア様にはいつも冷たい態度でしたしね。エミーリア様はいつも暗い顔をされていましたが、アロイス殿下に対する気持ちはどうだったのてしょうね」

 メラニーは眉根を寄せた。どうやらメラニーは元王太子が嫌いなようだ。

 
 ハンナがお茶のワゴンを押して戻ってきた。

「メラニー、またあなたはつまらないことを言っていたのね。アイリ様、お気になさらないで下さいまし、この子はまだ未熟でお恥ずかしいかぎりです。噂話など侍女には不要ですのに申し訳ございません」

 確かにデキる侍女は噂話はしないな。

「大丈夫よ、ハンナ。噂話も今の私には重要だわ。エミーリア様の話も大体わかったし、お会いできるかしらね?」

 私はハンナに微笑んだ。

「そうですね。エミーリア様は気持ちが沈んでいらっしゃるようなので、アイリ様と交流することが気分転換になると思いますし、殿下がうまく引っ張り出せるといいのですが……」

 難しいようだな。

「元々はどんな性格の方なの?」

 私はハンナの顔を見た。

「アロイス殿下と婚約される前は朗らかで無邪気で可愛らしいお嬢様でしたわ。婚約してからは徐々に言葉も表情も少なくなりました」

 王太子妃教育に潰されたな。元に戻ったら楽なのに。話がしたいな。

「ねぇ、私が会いに行くのだったらどうかしら? もう一度レオナード殿下にプッシュしてみるわ」

 ハンナは少し怪訝な顔で私を見た。

「どうしてそれまでにエミーリア様にこだわるのですか? 最初はレオナード様が教えるとお聞きしておりました。レオナード様では何か不都合がおありだったのでしょうか?」

 不都合あるあるよ。私はハンナに向かってにっこり微笑んだ。

「私がレオナード殿下と距離を近くすれば、良からぬ噂を流す者もいるでしょう? 中には聖女と王太子を添わせようと考える者もいるはずよ」

 ハンナもメラニーも驚いた顔で頷いている。

「私はそんな気は全くないの。それならレオナード殿下の婚約者と懇意にする方が得策だと思うのよ。痛くない腹を探られることもないじゃない? それにどこの世界も王太子の婚約者は優秀でしょ? 私はこの国の聖女になるなら王太子殿下の婚約者や王妃様と仲良くしたいの。男はイマイチ信用できないからね」

 私の言葉にハンナは喜んでいるようだ。

「アイリ様、ありがとうございます。実は私も殿下はエミーリア様との婚約を解消し、アイリ様が王太子妃になられるのてはないかと思っておりました。そうなった時のエミーリア様はどうなるのかと思い胸を痛めておりました。アイリ様のお気持ちは素晴らしい、さすが聖女様です。至極まともな方が聖女様で安堵いたしました」

 ハンナは私に頭を下げた。


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