2 / 11
そんなこと聞いてない
しおりを挟む
「ユーファミア、ステファニーが亡くなって淋しくなったわね。私ではステファニーの代わりにはならないかもしれないけど、いずれはあなたの義母になるのだし、頼ってくれていいのよ」
母が亡くなって初めての登城の日、王妃様は私の頭を撫でながらそう言ってくれた。
「ありがとうございます。まさかこんなに早く母が亡くなってしまうなんて思いもよりませんでした。王太子妃教育では、感情を出してはいけない、涙を見せてはいけないと教えられておりますが、いまだに涙が止まりません。殿下の婚約者失格ですね」
涙が止まらない私を王妃様は抱きしめてくれた。
「いいのよ。ここは私達だけですもの。誰も咎めないわ。何があっても私はあなたの味方よ」
母と王妃様は幼い頃からの親友だった。私が王太子殿下の婚約者に決まったのは王妃様の強い希望だった。
王妃様は私のことをとても可愛がってくれていた。
「ユーファ、大丈夫?」
婚約者のフランシス殿下は私の肩に優しく手を置いた。
「私もいるからね。母ばかりではなく私にも頼ってほしい」
「ありがとうございます」
「義姉上、私も微力ですが力になりますよ」
フランシス殿下の弟のヒューバート殿下もそう言ってなぐさめてくれた。
私は涙を拭いてふたりにお礼を言った。
お兄様は友好国に留学していた。母が亡くなったとの知らせで戻ってきていたが、勉強が忙しく戻らなければならないそうだ。
お兄様がいなくなるのは淋しいが仕方ない。
「ユーファの側にいたいが、戻らなければならない。手紙を書く。元気を出すんだよ」
「私は大丈夫です。お兄様もお身体に気をつけてくださいませ」
お兄様は朝早く旅立った。
お父様は仕事が忙しく同じ屋敷に住んでいながらなかなか顔を合わすことも無くなった。
「ユーファすまないな。ステファニーが亡くなったばかりで、もっとお前の側にいてやりたいが、なかなか時間がとれない。淋しい思いをさせてしまっているな」
「大丈夫ですわ、お父様。メアリーもロバートも側にいてくれます。セバスやイレーヌやみんなもいますもの」
お母様がいた頃もお父様はお仕事が忙しく、夕飯を共にできない日があったが、今はお母様が亡くなった淋しさを仕事で埋めようとしているかのようだ。
「お父様、でも、お身体には気をつけてくださいませね」
「ありがとう」
お母様がいなくなったこの家はバラバラになってしまった。
「お嬢様、いつもお一人でお可哀想に思います。スタンレー坊ちゃまもそんなに急いで留学先に戻らなくてもよろしかったし、旦那様ももう少しお嬢様との時間をお持ちになってくださってもよろしいのに」
侍女のメアリーは小さい頃からずっと私の側にいてくれている。
「私なら大丈夫よ。みんなそれぞれに忙しいのだから仕方ないわ。メアリーとロバートがいつも側にいてくれるから寂しくなんかないわ」
ロバートは私の護衛騎士だ。
本当にメアリーとロバートが側にいてくれるから淋しくはない。
でもやっぱりちょっと、ちょっとだけ淋しい。
それからも、毎日登城し、王太子妃教育を受け、王妃様やフランシス殿下とお茶をする日が続いていた。
15歳になったある日、お父様が見知らぬ女性と女の子を連れてきた。
「ユーファ、今日からうちに来てもらうことになった。新しい母と妹だ。私が仕事ばかりでずっと淋しい思いをさせていたが、これでもう淋しくないだろう。年の近い妹もいるので話し相手になると思うぞ」
新しい母と妹?
私は驚きで思考が止まってしまった。
「ユーファ、挨拶をしなさい」
お父様は私の肩に手を置いた。
「ユーファミア・リプルでございます」
「ユーファミア様、お初にお目にかかります。ライラと申します。こちらは娘のリネットです。よろしくお願いします」
「リネットはお前よりひとつ年下だ。年も近いからよい話し相手になるだろう。仲良くするようにな」
お父様はそう言うと執務室に消えてしまった。
ライラ様とリネット様はセバスに案内され与えられたらしい部屋に入った。
新しい母と妹なんて聞いてない。お父様はまるで私のために再婚したように言った。私の為と言うならなぜ相談してくれなかったのか。
私の母は亡くなったお母様だけだ。お兄様はこのことを知っているのだろうか?
王妃様やフランシス殿下は?
私だけが知らなかったのだろうか。
王太子妃教育で感情を出さないことが身についた私の心の動きがわかったのはメアリーとロバートだけだったようだ。
その日から継母のライラ様と義妹のリネットがこの屋敷に住むことになった。
母が亡くなって初めての登城の日、王妃様は私の頭を撫でながらそう言ってくれた。
「ありがとうございます。まさかこんなに早く母が亡くなってしまうなんて思いもよりませんでした。王太子妃教育では、感情を出してはいけない、涙を見せてはいけないと教えられておりますが、いまだに涙が止まりません。殿下の婚約者失格ですね」
涙が止まらない私を王妃様は抱きしめてくれた。
「いいのよ。ここは私達だけですもの。誰も咎めないわ。何があっても私はあなたの味方よ」
母と王妃様は幼い頃からの親友だった。私が王太子殿下の婚約者に決まったのは王妃様の強い希望だった。
王妃様は私のことをとても可愛がってくれていた。
「ユーファ、大丈夫?」
婚約者のフランシス殿下は私の肩に優しく手を置いた。
「私もいるからね。母ばかりではなく私にも頼ってほしい」
「ありがとうございます」
「義姉上、私も微力ですが力になりますよ」
フランシス殿下の弟のヒューバート殿下もそう言ってなぐさめてくれた。
私は涙を拭いてふたりにお礼を言った。
お兄様は友好国に留学していた。母が亡くなったとの知らせで戻ってきていたが、勉強が忙しく戻らなければならないそうだ。
お兄様がいなくなるのは淋しいが仕方ない。
「ユーファの側にいたいが、戻らなければならない。手紙を書く。元気を出すんだよ」
「私は大丈夫です。お兄様もお身体に気をつけてくださいませ」
お兄様は朝早く旅立った。
お父様は仕事が忙しく同じ屋敷に住んでいながらなかなか顔を合わすことも無くなった。
「ユーファすまないな。ステファニーが亡くなったばかりで、もっとお前の側にいてやりたいが、なかなか時間がとれない。淋しい思いをさせてしまっているな」
「大丈夫ですわ、お父様。メアリーもロバートも側にいてくれます。セバスやイレーヌやみんなもいますもの」
お母様がいた頃もお父様はお仕事が忙しく、夕飯を共にできない日があったが、今はお母様が亡くなった淋しさを仕事で埋めようとしているかのようだ。
「お父様、でも、お身体には気をつけてくださいませね」
「ありがとう」
お母様がいなくなったこの家はバラバラになってしまった。
「お嬢様、いつもお一人でお可哀想に思います。スタンレー坊ちゃまもそんなに急いで留学先に戻らなくてもよろしかったし、旦那様ももう少しお嬢様との時間をお持ちになってくださってもよろしいのに」
侍女のメアリーは小さい頃からずっと私の側にいてくれている。
「私なら大丈夫よ。みんなそれぞれに忙しいのだから仕方ないわ。メアリーとロバートがいつも側にいてくれるから寂しくなんかないわ」
ロバートは私の護衛騎士だ。
本当にメアリーとロバートが側にいてくれるから淋しくはない。
でもやっぱりちょっと、ちょっとだけ淋しい。
それからも、毎日登城し、王太子妃教育を受け、王妃様やフランシス殿下とお茶をする日が続いていた。
15歳になったある日、お父様が見知らぬ女性と女の子を連れてきた。
「ユーファ、今日からうちに来てもらうことになった。新しい母と妹だ。私が仕事ばかりでずっと淋しい思いをさせていたが、これでもう淋しくないだろう。年の近い妹もいるので話し相手になると思うぞ」
新しい母と妹?
私は驚きで思考が止まってしまった。
「ユーファ、挨拶をしなさい」
お父様は私の肩に手を置いた。
「ユーファミア・リプルでございます」
「ユーファミア様、お初にお目にかかります。ライラと申します。こちらは娘のリネットです。よろしくお願いします」
「リネットはお前よりひとつ年下だ。年も近いからよい話し相手になるだろう。仲良くするようにな」
お父様はそう言うと執務室に消えてしまった。
ライラ様とリネット様はセバスに案内され与えられたらしい部屋に入った。
新しい母と妹なんて聞いてない。お父様はまるで私のために再婚したように言った。私の為と言うならなぜ相談してくれなかったのか。
私の母は亡くなったお母様だけだ。お兄様はこのことを知っているのだろうか?
王妃様やフランシス殿下は?
私だけが知らなかったのだろうか。
王太子妃教育で感情を出さないことが身についた私の心の動きがわかったのはメアリーとロバートだけだったようだ。
その日から継母のライラ様と義妹のリネットがこの屋敷に住むことになった。
39
お気に入りに追加
408
あなたにおすすめの小説
傲慢令嬢は、猫かぶりをやめてみた。お好きなように呼んでくださいませ。愛しいひとが私のことをわかってくださるなら、それで十分ですもの。
石河 翠
恋愛
高飛車で傲慢な令嬢として有名だった侯爵令嬢のダイアナは、婚約者から婚約を破棄される直前、階段から落ちて頭を打ち、記憶喪失になった上、体が不自由になってしまう。
そのまま修道院に身を寄せることになったダイアナだが、彼女はその暮らしを嬉々として受け入れる。妾の子であり、貴族暮らしに馴染めなかったダイアナには、修道院での暮らしこそ理想だったのだ。
新しい婚約者とうまくいかない元婚約者がダイアナに接触してくるが、彼女は突き放す。身勝手な言い分の元婚約者に対し、彼女は怒りを露にし……。
初恋のひとのために貴族教育を頑張っていたヒロインと、健気なヒロインを見守ってきたヒーローの恋物語。
ハッピーエンドです。
この作品は、別サイトにも投稿しております。
表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。
愚か者の話をしよう
鈴宮(すずみや)
恋愛
シェイマスは、婚約者であるエーファを心から愛している。けれど、控えめな性格のエーファは、聖女ミランダがシェイマスにちょっかいを掛けても、穏やかに微笑むばかり。
そんな彼女の反応に物足りなさを感じつつも、シェイマスはエーファとの幸せな未来を夢見ていた。
けれどある日、シェイマスは父親である国王から「エーファとの婚約は破棄する」と告げられて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私ってわがまま傲慢令嬢なんですか?
山科ひさき
恋愛
政略的に結ばれた婚約とはいえ、婚約者のアランとはそれなりにうまくやれていると思っていた。けれどある日、メアリはアランが自分のことを「わがままで傲慢」だと友人に話している場面に居合わせてしまう。話を聞いていると、なぜかアランはこの婚約がメアリのわがままで結ばれたものだと誤解しているようで……。
断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる
葉柚
恋愛
侯爵令嬢であるアマリアは、男爵家の養女であるアンナライラに婚約者のユースフェリア王子を盗られそうになる。
アンナライラに呪いをかけたのはアマリアだと言いアマリアを追い詰める。
アマリアは断罪される前に市井に溶け込み侯爵令嬢ではなく一市民として生きようとする。
市井ではどこかの王子が呪いにより猫になってしまったという噂がまことしやかに流れており……。
私は王子の婚約者にはなりたくありません。
黒蜜きな粉
恋愛
公爵令嬢との婚約を破棄し、異世界からやってきた聖女と結ばれた王子。
愛を誓い合い仲睦まじく過ごす二人。しかし、そのままハッピーエンドとはならなかった。
いつからか二人はすれ違い、愛はすっかり冷めてしまった。
そんな中、主人公のメリッサは留学先の学校の長期休暇で帰国。
父と共に招かれた夜会に顔を出すと、そこでなぜか王子に見染められてしまった。
しかも、公衆の面前で王子にキスをされ逃げられない状況になってしまう。
なんとしてもメリッサを新たな婚約者にしたい王子。
さっさと留学先に戻りたいメリッサ。
そこへ聖女があらわれて――
婚約破棄のその後に起きる物語
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる