【完結】今度こそもふり倒す人生になれなかった平民の男の話〜俺の幸せどこ行った？

10 俺の母親だと言う女

　お願いして初級魔法の本を買ってもらい、俺は部屋に戻った。基本的に毎日過ごしているのは俺の母親に与えられた別邸だ。犬のマークや、猫のライラもいつもはここで飼われている。
　ちなみに母親は犬も猫も……ついでに俺の事も嫌いで、いつも寄り付かない。

　俺の母親は自分の贅沢と、アデレードの関心を引くことと、他の妻達を貶めることしか興味がない。
　まあ、持って生まれた空色の瞳と濃紺の髪だけを見染められて、侯爵に嫁いだ平民だ。降って湧いたような生活に舞い上がっているのだろう。
　醜悪な、とも思うが飢えや貧しさは辛いものだ。その心配が無くなったのだから、少しくらい浮かれても仕方がない事なんだろう。

　はっきり言えば俺は母親の事は好きじゃない。母親、母親言っているのは実は名前を覚えていないからなんだ。フラウ？フロウ？なんかそんな名前。
　母親のやっている事は理解できるが、容認は出来ない。自分より弱そうな奴を狙って叩くなんて最低だ。前世のもふもふに出会う前の俺くらい最低だ。早くもふもふに出会って改心すればいいのに！

　あとはあまり関わらないようにしている。どうせ俺は早いうちにここを出て行く。人間よりもふもふに囲まれて暮らしたい。つまり母親は捨てるという事だ。まあ捨てても良心が痛まないような母親で良かったよ……？
　しかし俺が出て行ったらどうするだろうな？アデレードの愛は母親ではなく俺にある。母親は勘違いして自分が愛されているんだと思っているが、そうじゃない。
　多分母親は捨てられる。いや後始末的な意味でここで飼い殺される。俺しか子供がいないから、アデレードから忘れ去られるだろうな。そうなった時、周りにいばり散らし、喧嘩を売りまくっている母親に待っているのは孤立、孤独。
　分かっていて止めない俺が一番ひどいのかもしれない。

　ジュードは良い子よ？
　ライラ、ありがとう

　猫のライラが擦り寄ってくれる。ああ、しなやかで暖かいもふもふよ！俺の濁った心をいつでも清浄化してくれる。

　この家の空気は悪いわね。ジュード、引っ越す時は勿論私も連れて行くのよ？
　勿論だよ！ライラ

　ああ！やっぱり最高だよ！ライラぁ！もう一もふりしようと思うと

もうおしまい

　ライラははぴょんと棚の上に登ってしまう！うううっ後一回～。ライラの絶妙な駆け引きに弄ばれちゃう！でも楽しい！

　しかし、母親といえば気になる事がある。メイド達の噂話だ。

「ジュード坊ちゃんが産まれるタイミングが早すぎる」

　と、いう奴だ。母親はアデレードに召されてすぐに俺を妊娠したらしいが、どうも俺が産まれるのが日数的に早すぎるらしい。
　その噂話をしていたメイドは母親に見つかってすぐ解雇になったとかで、更に噂が広がった。

「もしかしたらジュード坊ちゃんは旦那様の子供ではなく、嫁ぐ前に仕込まれたどこの誰とも知らない男の子供ではないか？」と。

　非常にまずい話だ。俺とアデレードは親子で、血の繋がりがあるんだとばっかり思っていた。だからまさか「父親が息子にかけるちょっかい」は性的なものを流石に含まないだろうと信じている。
　だが噂通りなら、俺とアデレードに血の繋がりはない。ただ「おっさんと少年」なだけだ。一気に危険度が跳ね上がる。俺の尻の、命が危ない！

「護身術って誰に習ったらいいかな……」

　やっぱり俺は早急に強くなる必要があるのだ。