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58 恐怖のずんどこ

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「ジュリエッタ、受け取って欲しい物がある」

「なんですか、改まって。気持ちが悪いです。何か変な物を寄越そうとしてるのではないですか?」

 にやり、とラグルさんが笑う。何か嫌な予感しかしません。しかしラグルさんが取り出したのは紙の束でした。

「受け取って欲しい。俺もお前と言う人間を少し理解してきたつもりだ」

 恐る恐るその紙束をみて私は驚愕に打ち震えた。

「こ、これは!王都近郊の土地の権利書と、契約養鶏農家!しかも豚、牛もOKですって?!」

「食品加工会社との契約書もあるぞ?どうだ?受け取ってくれるな?」

「ラグルさん……!ありがとうございます!」

「ではサインをしてくれ。かなり枚数があるから」

 う、嬉しいわ!これで柔らかジューシー鳥の唐揚げにまた一歩近づいたのね!あー!何枚でもサインしちゃうわー。

「ついでにこれも」

「あ、はいはい」

「よし」

 いつから使えるのかしら気になるわね!

「ラグルさん、いつからですか?」

「前からだが、正式には今からだな。ほら左手を出せ、うんピッタリ。絶対取れないようにぐるぐる巻きにしといたから」

「は?」

 何言ってるのかしら?この人。私は農家がいつから使えるのか聞いてるのよ。そろそろキングジュリエッタ3世のデビュー戦もあるのよ?!

「流石ジュリエッタだぜ。よろしくな!婚約者様!式は一年後にしといたから」

「は?!えーー?!」

 わ、私の左手にお高そうな指輪が嵌っている?ようだったわ!ラグルさんの黒糸でぐるぐる巻きになって見えないけど!!

「正式な結婚承諾書にサインしだろ?今」

「は?!嘘」

 ぺろり、ラグルさんは確かに今さっきサインした紙を見せてくれる。か、書きましたとも……中身を見ずに、書きました……。

「これからずっと宜しくな!ジュリエッタ!」

「ぎゃあ……」

 まさかこんな訳の分からない方法でサインしてしまうとは……!

「結婚式が終わった際には隣の敷地もジュリエッタに進呈しようと思う!」

「えっ!農場が倍に?!」

 楽しみだわ!

「お前のそう言う所、嫌いじゃないぞ」


 そして私は一年後に、ラグルさんと結婚してしまった。結婚式は国王様が頑張ってしまったせいで、なかなか盛大でとても疲れたけれど、貴族にも、平民にもラウガラウ殿下は人気があってびっくりしたわ。

「ジュリエッタぁああーーーさまああああ!」

「あ、ありがとう……」

 城下町をパレードした時に、私に声をかけてくれたのは勿論闘鶏協会のおっさん達だわよ……。キングジュリエッタ2世は伝説になっているわ。



 そして、私はとうとうこの国の住民を恐怖のずんどこに陥れる事に成功したのよ!!

「ジュリエッタ!ジュリエッタ!やばい!絶対やばい!あーーー!」

「ほほほ!ざまぁですわ!旦那様!」

 私がプロデュースした鳥の唐揚げ専門店「キングの唐揚げ」には連日長蛇の列ですわ!

「うまーーい!うますぎるー!」

「鶏肉がやわらけーーー!」

「じゅわーーってするー!」

「うめーー!太る!太っちまうー!でもとまらーん!」

 結婚祝いに貰った農場の方で菜種を作って揚げ油も手に入れたのよ!なんと私の魅了は植物にも効き目があって、品種改良がとんとん拍子に進んだわ!

「美味すぎて、俺も最近腹回りが……怖えよ、ジュリエッタ」

「旦那様、そろそろステーキの美味しい所の試食が来ますけど?」

「うわーーー!勘弁してくれ!ジュリエッタ!あの牛の肉、柔らかくてうますぎる!!」

 ざまぁ!圧倒的ざまぁなのです!

「今日は豚さんの様子を見に行きますわよ」

 私がもらった農場は実はもっともっと大きくなって、ただの農場試験場になっているのですけどね?

 最近のこの国は食べ物の美味い国として近隣から有名になりつつあるわ。まあ、私の知ったことではないのですけれどね。

「よし、俺もキングジュリエッタ13世が気になるしな」

「今年は勝てると良いですわね」

「そうだな!」

 まだ闘鶏は流行っていて、ラウガラウ杯とジュリエッタ杯が開催されている。キングジュリエッタ2世の血筋の子達はどれも強いのよ!

 ラグルさんは私に手を差し出したので、それに重ねる。ガサツ過ぎたけれど、少しはエスコートを覚えてくれた。
 指輪は婚約指輪から、結婚指輪に変わったけれど、ぐるぐる巻きは流石にいただけないので止めてもらった。

 仕方がないから、まあ魅了の糸は繋いでおく事にしている。

「キングジュリエッタ2世の子供は強いからなー」

 仕方がないから、私とラグルさんを繋ぐ糸は赤い糸と黒い糸がきれいに交差した組紐みたいになっていた。し、仕方がないからよ!

「きっと私の子供も強いわよ」

「そうだなージュリエッタの子供なら強いだろうな。早く欲しいなー」

「半年後でしてよ?」

「ん」

 さー早く豚さんを見に行かないとねー。何せあんまり動けなくなるからね。

「ジュリエッタ、なんか言ったよな?」

「特に何も~?」

「いや、言った!なんか言った!」

「言ってませーん」

 あー早く美味しいとんかつが食べたいわ~。どんどんこの国の人達に恐怖を与えるのよ~!
 みんなぷくぷくに太ってしまえばいいのだわ!


「なー!ジュリエッタ、なんか言ったろ!」

「知りませんー」


 私は恐怖の魅了使いよ!この国は恐怖のずんどこに叩き込まれたかしら?

「この国以外で肉が食えなくなるーーーー!」

 成功したようね!ふふ!これからもどんどん頑張るわよー!




 終わり
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みんなの感想(13件)

アーニャ
2023.08.03 アーニャ

面白いっ
面白過ぎるっっ
やはりセリフ回しや行間の独白がたまりましぇーん!!
クセになってしまいました!!!
どないしてくれはります!
いやいや、私は一体何を言っているのでしょうかっ。
BLも大好きですが、王国物の王子さまとお姫さまも大好き♡♡♡
好みの全てがぶっ込まれてしまっていて、もう逃げられなくなってしまいました。
って逃げる気なんてサラサラなく、むしろ追っ掛けて捕まえたーい!キャー。
ありがとうございます^ᴗ ̫ ᴗ^
このクソ暑い夏を、ワクワクドキドキにぎにぎと過ごす事が出来まする。
♡❤︎感謝━━━(≧∀≦人)━━━感謝❤︎♡
しかありませぬ。

解除
mokomoon
2022.05.15 mokomoon

こんなに楽しい魅了初体験です( *´艸`)
ありがとうございました(*ov.v)o

鏑木 うりこ
2022.05.15 鏑木 うりこ

 なんだか書いているうちに間違った(?)方向に走ってしまった、そんな気がする作品でしたが、呼んでいただきありがとうございます(*ノωノ)

解除
DiaboloXxX
2021.11.03 DiaboloXxX

魅了の力で品種改良するっておもしろいですね

なんだかんだでイチャイチャしていて、可愛いカップルでよかったです

鏑木 うりこ
2022.05.15 鏑木 うりこ

間違っているけれど正しい使い方('ω')!なのかな……?

 もう少し面白く書けたのでは?とちょっとづつ手直しとかしてます(*ノωノ)

解除

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