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19 一年のヤバいやつ

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「ねージュリエッタ!リカルド様っめば私のこと何か言ってなかった?可愛いとか好きだとか婚約者にしたいとか!」

「……行きましょう、リーナ」

「そうね」

「あっ!ちょっと、どこいくのよ!!」

 何よ!何よ!モブ妹のくせに私を無視して!世界のヒロインを無視できるなんてあの子相当おかしいわ!マリーンはイライラしていた。
 おかしいと言えば平民出の勇者候補の子もおかしいのよね?と首を捻る。「ルート」には勇者とのラブラブエンドもあるんだから、勇者だって自分の事を好きなはずなのに。

「同じ平民だし、仲良くしましょ?ね、ショーン君」

「ごめんなさい。僕、忙しいので。仲良くするなら同じクラスの人の方が良いですよ?」

 ショーンは走って行ってしまった。彼の行く先には2年生っぽい男子が立っていて、とても仲が良さそうに腕を組んで歩いて行った。
 ……距離近すぎない?まるで恋人みたい。マリーンはべえ!と舌を出した。下品過ぎて、視線を外す生徒が沢山いるがマリーンの目には入っていない。
 美少女の私より上級生と一緒が良いなんておかしな子!もう、攻略は後でいいや!と、マリーンは気持ちを切り替える。

「それよりリカルド様よねー。あんまり好感度が上がってる気がしないのよねぇ。好感度グラフがあれば簡単なのに……ううん!私は好感度グラフを消したハードモードもオールクリアした女よ!このくらい屁でもないわ!」

 マリーンの独り言は彼女が思っているより辺りに響いていて、真っ当な貴族の子供達は距離を取る。アレに巻き込まれては家名に傷が、泥が……とにかく将来に暗雲が立ち込めそうだ。


 おい、あいつが一年のヤバい奴だ。

 アースル子爵家の兄妹が狙われてるらしい。

 可哀想に。教師に泣きついてるの見たぞ

 あれは酷いなー。

 いなくなったけど、2年にいたアンナとか言う奴並みだなぁ!


 自分の声が大きいから、人の声は聞こえない。それにマリーンは自分が世界の中心のヒロインであると信じて疑っていない。世界はマリーンの為にあるとおもっている。
 マリーンは放課後にリカルドを探す。リカルドの自分を待っているのだから!


 学園に特例はあまりないのだが、学園にも規則はあり、1年生は立ち入りを許可されていない図書館がある。
 そこの自習室の一つでジュリエッタとリカルド、フローラと付き合わされたリーナが勉強している。

 1年生は入れないのに、ジュリエッタとリーナは特別に許可されていた。

「勉学に支障をきたすとは……」

 リカルドの顔色は悪い。千切っても千切ってもたこ足が絡み付いてくるのだ。リカルドにタコ足は見えていないけれど、不穏で粘っこく気持ち悪い感覚が拭っても拭っても取れなくて、学園に来ると酷くなる。
 あまりにしつこく恐ろしい執念だとジュリエッタも顔を青くしている。

「無視しても無視しても話しかけて来るんです」

「最近、腕を掴まれて……怖かった。フローラ様も十分に注意してください。あのマリーンと言う子、何をするか本当に分かりません」

 ジュリエッタとリーナは静かに勉強する場所まで奪われている。

「まぁ……怖い。私も一人にはならない様にしますが、ジュリエッタもリーナも怖かったでしょう?」

「三人とも済まない……私もどうしたら良いか分からないんだ……」

 リカルドは青い顔を更に青くして項垂れるが、ジュリエッタ達も慰めるしかない。何せキッパリハッキリ断っているのに、人の話を聞かないのか、何度も何度もやって来て、何度も何度も同じ事を言うのだ。
 まるで何度も何度も同じ選択肢を繰り返し、自分の望む答えが出るのを待っているように。

 もはや狂気を感じるわ。

 この図書館には学園の緊急措置として、私達が避難させて貰っていた。それなのに

「あー!マリーンを除け者にしてみんなでなんかしてるぅ!ずるいずるーい!!いくらマリーンでも怒っちゃうんだからねー!」

 入れないはずの図書館にたこ足がぬるりと入り込み、聞きたくない無遠慮な声が響く。図書館にいるのだ、「なんか」ではなくて勉強してるのだが。

「「ひっ!!」」

 リカルドととフローラは低い悲鳴をあげ、ジュリエッタとリーナは顔がひきつる。フローラは気を失い、図書館は大騒ぎになるのである。


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