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61 ああ、いいぜ
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なんだか新しいMMOが話題になっている。なんと男同士でも女同士でも割と濃密に絡めるとか。良いのか?倫理的に。なんて思ったが、俺はそれに手を出さなかった。
「結構好きじゃないですか?MMO。やらないんすか、今話題の奴?」
会社の後輩がスマホの画面を見せながら言うが、俺は首を振った。
「もう、アリゲで痛い目見たからなあ……MMOは嫌だな」
後輩は、苦笑いする。
「あーーーアリアゲートオンラインっすか!あの突然サ終しちゃった奴?」
サ終はサービス終了。しかも突然だった。大型メンテ後ログインしようとしたら誰も入れなくなったんだよ。
「そう、それ。俺、アレにどんだけ課金したと思ってんだぁ?言いたくない万円を何度も何度も……くっ俺の竜騎士しかも騎竜の黒を出すのに……ああ、考えただけで頭が痛いぞ」
「錬金術師で寝落ちして終わった奴でしたっけ?」
「そうだよ!ちくしょう!どうなってんだ、運営!って今でも思うわ」
つらいっすね~……じゃあMMOは暫く見ない方がイイッスね。後輩はスマホの電源を落とした。
「ああ、ゲームならスマホでやる簡単なのがいいな」
「じゃあ、これなんておすすめっすよ。やりません?」
どれどれ……なんて覗き込む。ま、ゲーム自体は好きなんだよな。
しかし、さっきちらっと見えた新しいMMOのイメージキャラクター。消えた俺のアバターに似ていた気がする。水色の髪に、目の色が片一方づつ違う。ま、どこにでもありがちな美形キャラだから被ったんだな。
あー俺のキャラは電子の藻屑になっちまったのかー!俺のつぎ込んだボーナスもおおお!くそー運営どうなってんだ!
「ゆめ……」
真夜中に俺は目を覚ました。月は欠けている最中、下弦が始まったばかりの夜だった。隣でキースが幸せそうに寝ている。尻に違和感はあるが、パジャマは来ているし体はベタついていない。きっときれいに拭いてくれたんだろう、マメな奴。
夢の中で俺は俺だった。現実世界で生きているサラリーマンの俺。むきになってアリアゲートオンラインに課金していたっけ。ボーナスを全部吹っ飛ばしたこともあった。
「……おれは……」
あの夢の俺が俺なら……俺は現実世界で生きているのか?アリアゲードオンラインはサービスを終了して、もう誰もログインできない状態なのか?すると俺達は……?
「……電子の……データの蓄積に過ぎない?」
俺達は可能性の一つにあった、ただのゲームキャラのセーブデータに過ぎないのか?
「ん……ファイさん……?起きてたんですかぁ」
むくり、とキースが身を起こした。
「ファイさんっ!!」
ぎゅっとキースが抱きついて来る。苦しい。
「ファイさんっ何処にも行かないで!僕と一緒にいて!」
「あ……?なんだよ、急に」
「ファイさんが……消えちゃいそうだったから……僕を一人にしないで!お願い、ファイさんっ!」
「消える……訳、ねぇだろ。俺達はここ、で生きてるんだから」
そうだ。俺達はここで生きている、泣き笑い怒って。腹が減り物を食い、眠くなって寝て、月が欠けてヤる。
もう、それで良いじゃねぇか。
実は少しづつ気がついていた。ゲーム内機能がどんどん使えなくなっている事。メッセージを飛ばす機能も「念話」として置き換わっていっている事。
闇魔族の目撃もほとんどなくなり、プレイヤー達はどんどんこの世界に溶け込んでいる事。
俺達はこの世界の住人になっている事。
「……ありがとう、ファイさん。僕の為に生きて」
「ああ、いいぜ……」
ーーーーありがとう、君。僕の為に生きて。
ああ、いいぜーーーー
新しいMMOゲーム「ルーナファンタジア」のイメージキャラの巨大な広告が駅に張り出された。
ピッタリと寄り添うのは、二人の男性で、片方が金髪に黄緑色の瞳が綺麗だった。もう片方は水色の髪に、金と紫色の瞳。物憂げな顔は「これから」なのか「事後」なのか話題を呼んだが、運営は
「それはゲーム内にて」
と、回答を避けた。ネットの情報では亡国の王子と、最強のNPCらしいと噂は広がって行った。
「ね?ルーナやんない?」
「良いよ!」
気軽に始められるが、割と課金がえぐいらしい。
「ホントに男の人が子供産んでるのよ!割となんでもありなの。私の国の王様がね……王妃様なのかなー?王様が3人兄弟で、王妃様が1人。んで全員男の人なんだけど、王子様がかわいーのー!」
「あの広告の二人を見たよ!すっごい可愛い赤ちゃん抱っこしてた!」
「まーじでーーー!?」
「自由過ぎて規制入りそうだから、遊ぶなら早くした方が良いよ!」
新しい世界で俺達は生きる。誰かの為に。
それが作られた世界でも構わない。
「ファイさん!愛してます」
「ああ、そうだな」
「うぶーーー!」
「シャーリーもだって!」
キースが娘のシャーリーを高い高いしている。世界の常識が少し塗り代わり、誰でも子供が産めるようになった。
「ファイさん、僕の子供を産んで……?」
「……ああ、いいぜ」
少し悩んだ。俺の中にはまだ昔の常識が残っていたから、あり得ないと思う。それでもこの世界に溶け込んだ部分はそれが普通だと言う。
俺は、この世界で生きている、だからキースの提案を受け入れた。
ずっと一緒に生きる為に。
終
「結構好きじゃないですか?MMO。やらないんすか、今話題の奴?」
会社の後輩がスマホの画面を見せながら言うが、俺は首を振った。
「もう、アリゲで痛い目見たからなあ……MMOは嫌だな」
後輩は、苦笑いする。
「あーーーアリアゲートオンラインっすか!あの突然サ終しちゃった奴?」
サ終はサービス終了。しかも突然だった。大型メンテ後ログインしようとしたら誰も入れなくなったんだよ。
「そう、それ。俺、アレにどんだけ課金したと思ってんだぁ?言いたくない万円を何度も何度も……くっ俺の竜騎士しかも騎竜の黒を出すのに……ああ、考えただけで頭が痛いぞ」
「錬金術師で寝落ちして終わった奴でしたっけ?」
「そうだよ!ちくしょう!どうなってんだ、運営!って今でも思うわ」
つらいっすね~……じゃあMMOは暫く見ない方がイイッスね。後輩はスマホの電源を落とした。
「ああ、ゲームならスマホでやる簡単なのがいいな」
「じゃあ、これなんておすすめっすよ。やりません?」
どれどれ……なんて覗き込む。ま、ゲーム自体は好きなんだよな。
しかし、さっきちらっと見えた新しいMMOのイメージキャラクター。消えた俺のアバターに似ていた気がする。水色の髪に、目の色が片一方づつ違う。ま、どこにでもありがちな美形キャラだから被ったんだな。
あー俺のキャラは電子の藻屑になっちまったのかー!俺のつぎ込んだボーナスもおおお!くそー運営どうなってんだ!
「ゆめ……」
真夜中に俺は目を覚ました。月は欠けている最中、下弦が始まったばかりの夜だった。隣でキースが幸せそうに寝ている。尻に違和感はあるが、パジャマは来ているし体はベタついていない。きっときれいに拭いてくれたんだろう、マメな奴。
夢の中で俺は俺だった。現実世界で生きているサラリーマンの俺。むきになってアリアゲートオンラインに課金していたっけ。ボーナスを全部吹っ飛ばしたこともあった。
「……おれは……」
あの夢の俺が俺なら……俺は現実世界で生きているのか?アリアゲードオンラインはサービスを終了して、もう誰もログインできない状態なのか?すると俺達は……?
「……電子の……データの蓄積に過ぎない?」
俺達は可能性の一つにあった、ただのゲームキャラのセーブデータに過ぎないのか?
「ん……ファイさん……?起きてたんですかぁ」
むくり、とキースが身を起こした。
「ファイさんっ!!」
ぎゅっとキースが抱きついて来る。苦しい。
「ファイさんっ何処にも行かないで!僕と一緒にいて!」
「あ……?なんだよ、急に」
「ファイさんが……消えちゃいそうだったから……僕を一人にしないで!お願い、ファイさんっ!」
「消える……訳、ねぇだろ。俺達はここ、で生きてるんだから」
そうだ。俺達はここで生きている、泣き笑い怒って。腹が減り物を食い、眠くなって寝て、月が欠けてヤる。
もう、それで良いじゃねぇか。
実は少しづつ気がついていた。ゲーム内機能がどんどん使えなくなっている事。メッセージを飛ばす機能も「念話」として置き換わっていっている事。
闇魔族の目撃もほとんどなくなり、プレイヤー達はどんどんこの世界に溶け込んでいる事。
俺達はこの世界の住人になっている事。
「……ありがとう、ファイさん。僕の為に生きて」
「ああ、いいぜ……」
ーーーーありがとう、君。僕の為に生きて。
ああ、いいぜーーーー
新しいMMOゲーム「ルーナファンタジア」のイメージキャラの巨大な広告が駅に張り出された。
ピッタリと寄り添うのは、二人の男性で、片方が金髪に黄緑色の瞳が綺麗だった。もう片方は水色の髪に、金と紫色の瞳。物憂げな顔は「これから」なのか「事後」なのか話題を呼んだが、運営は
「それはゲーム内にて」
と、回答を避けた。ネットの情報では亡国の王子と、最強のNPCらしいと噂は広がって行った。
「ね?ルーナやんない?」
「良いよ!」
気軽に始められるが、割と課金がえぐいらしい。
「ホントに男の人が子供産んでるのよ!割となんでもありなの。私の国の王様がね……王妃様なのかなー?王様が3人兄弟で、王妃様が1人。んで全員男の人なんだけど、王子様がかわいーのー!」
「あの広告の二人を見たよ!すっごい可愛い赤ちゃん抱っこしてた!」
「まーじでーーー!?」
「自由過ぎて規制入りそうだから、遊ぶなら早くした方が良いよ!」
新しい世界で俺達は生きる。誰かの為に。
それが作られた世界でも構わない。
「ファイさん!愛してます」
「ああ、そうだな」
「うぶーーー!」
「シャーリーもだって!」
キースが娘のシャーリーを高い高いしている。世界の常識が少し塗り代わり、誰でも子供が産めるようになった。
「ファイさん、僕の子供を産んで……?」
「……ああ、いいぜ」
少し悩んだ。俺の中にはまだ昔の常識が残っていたから、あり得ないと思う。それでもこの世界に溶け込んだ部分はそれが普通だと言う。
俺は、この世界で生きている、だからキースの提案を受け入れた。
ずっと一緒に生きる為に。
終
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