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50 俺達は下弦で想像力を殺した
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「……何あれ」
「うん……アレはヤバい」
「アレはゴリラ、アレはゴリラ、素手で牛を絞め殺すゴリラ!……駄目だ、アレはズルい」
「呪いって本当に恐ろしいですね」
はぁとため息をつくのは時透のつがいの一人、イルチも三人と一緒にため息を吐く。
「部屋から絶対に出ないから、食い物と水を頼む」
ファイはそう宣言して、人が寄り付かない部屋に閉じ籠った。しかし、時透やくまから様子を見るように言われているレクシー達は放っておく事も出来ず、1日一回は声を掛けているのだ。
初めの方はまだ良かった。
「だ、大丈夫。まだ、平気だから……ああ、差し入れありがとう」
憔悴した顔で扉から姿を見せるファイだったが、まともな応対をしていた。
5日を過ぎる頃からすすり泣く声が聞こえて始めたが、
「ファイ……?生きてる?」
扉を開けずに尋ねると
「ふえ……あ、ぐずっ、だ、大丈夫、大丈夫、生きてる……ぐずっ」
返事はあったし、ファイが閉じ籠った部屋から離れて
「ちょ、ファイ泣いてんだけど?!」
「あのファイがねぇ」
「いやぁ驚きだ!」
と、笑って軽口を叩ける程度だった。そして10日も過ぎた辺り。
「ファイ?ファイ?!」
「ヤバい!返事がねぇ!」
扉を開けると、ぐったりと意識を失ってベッドの上で倒れている。
「ジャナ!回復!」
「はいっ!」
慌てて治癒魔法をかけ、水を飲ませる。
「……きぃす……どこ……?居ない、いないの……」
掠れた声で呼んでいる。
「ファイ!ファイ!しっかりしろ!」
「ファイさん!」
目が見えていないように、ふらふらと宙を腕が彷徨い、たった一人を探している。
「きぃす……どこ?……寂しい……どこ……」
レクシー達の声はどうも耳に届いていない。コレと決めたつがいを求め続けている。
「ファイ!キースはここにはいない!」
求める手を掴んでも
「違う……違う……キースじゃない……うう、どこ……」
ポロポロと涙を零し泣いている。一応生きている事を確認して、何もできない三人は部屋から出た。
「な、なんだあの儚い一途なお姫様みたいなの」
「まさかファイさんをお姫様と呼ぶ日が来ようとは思いませんでした」
「これがヤバいやつですね……!」
たった一人だけを想って求めている。それ以外は目に入らないし、耳にも届かない。とても重たい愛情だろうが、好きな、愛している人からあの眼差しを向けられたらどんなに幸せだろうか。
「ええ、とても幸せな気持ちになります」
イルチは満ち足りた笑顔でそういうが、レクシー達はなんとも微妙な気分だ。何せニコニコ笑うイルチは時透のつがいの一人だ。昔なじみの時透とナニをどうこうしているかと思うと、想像したくないが想像できてしまって苦笑いをするしかない。
「なんていうか、俺も恋人欲しいな。でも出来れば女性がいいな」
「俺も……」
「私もです……」
月が増えて行く上弦までまだ遠く、ファイが寂し死しないように見張りながら、想像力はなるべく殺して見守ることにした。
「うん……アレはヤバい」
「アレはゴリラ、アレはゴリラ、素手で牛を絞め殺すゴリラ!……駄目だ、アレはズルい」
「呪いって本当に恐ろしいですね」
はぁとため息をつくのは時透のつがいの一人、イルチも三人と一緒にため息を吐く。
「部屋から絶対に出ないから、食い物と水を頼む」
ファイはそう宣言して、人が寄り付かない部屋に閉じ籠った。しかし、時透やくまから様子を見るように言われているレクシー達は放っておく事も出来ず、1日一回は声を掛けているのだ。
初めの方はまだ良かった。
「だ、大丈夫。まだ、平気だから……ああ、差し入れありがとう」
憔悴した顔で扉から姿を見せるファイだったが、まともな応対をしていた。
5日を過ぎる頃からすすり泣く声が聞こえて始めたが、
「ファイ……?生きてる?」
扉を開けずに尋ねると
「ふえ……あ、ぐずっ、だ、大丈夫、大丈夫、生きてる……ぐずっ」
返事はあったし、ファイが閉じ籠った部屋から離れて
「ちょ、ファイ泣いてんだけど?!」
「あのファイがねぇ」
「いやぁ驚きだ!」
と、笑って軽口を叩ける程度だった。そして10日も過ぎた辺り。
「ファイ?ファイ?!」
「ヤバい!返事がねぇ!」
扉を開けると、ぐったりと意識を失ってベッドの上で倒れている。
「ジャナ!回復!」
「はいっ!」
慌てて治癒魔法をかけ、水を飲ませる。
「……きぃす……どこ……?居ない、いないの……」
掠れた声で呼んでいる。
「ファイ!ファイ!しっかりしろ!」
「ファイさん!」
目が見えていないように、ふらふらと宙を腕が彷徨い、たった一人を探している。
「きぃす……どこ?……寂しい……どこ……」
レクシー達の声はどうも耳に届いていない。コレと決めたつがいを求め続けている。
「ファイ!キースはここにはいない!」
求める手を掴んでも
「違う……違う……キースじゃない……うう、どこ……」
ポロポロと涙を零し泣いている。一応生きている事を確認して、何もできない三人は部屋から出た。
「な、なんだあの儚い一途なお姫様みたいなの」
「まさかファイさんをお姫様と呼ぶ日が来ようとは思いませんでした」
「これがヤバいやつですね……!」
たった一人だけを想って求めている。それ以外は目に入らないし、耳にも届かない。とても重たい愛情だろうが、好きな、愛している人からあの眼差しを向けられたらどんなに幸せだろうか。
「ええ、とても幸せな気持ちになります」
イルチは満ち足りた笑顔でそういうが、レクシー達はなんとも微妙な気分だ。何せニコニコ笑うイルチは時透のつがいの一人だ。昔なじみの時透とナニをどうこうしているかと思うと、想像したくないが想像できてしまって苦笑いをするしかない。
「なんていうか、俺も恋人欲しいな。でも出来れば女性がいいな」
「俺も……」
「私もです……」
月が増えて行く上弦までまだ遠く、ファイが寂し死しないように見張りながら、想像力はなるべく殺して見守ることにした。
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