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精霊姫の成れの果て
28 誕生日おめでとう
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「リジェーシャ!ナルジェル様はどうした!!!!お前の精霊姫はどうした!!」
「精霊……姫……一体なんの、事ですか?兄上」
俺はぐらつく頭を振った。俺を支えてくれたリリンが心配そうに見上げている。
「王!せ、精霊が!精霊が!!全て消えました!!」
「王!ナルジェル様が!ナルジェル様が!」
ナルジェル……様?ナルジェル……頭が痛む……。
兄上は立ち上がる。
「ナルジェル様がどうした!!」
「ナルジェル様は……光になって…消えました!!」
「消えた?!精霊姫が消えただと??!」
「残った精霊が泣いています!」
「残った精霊が狂って行きます!」
精霊が見える術師達が悲鳴を上げる。強すぎる精霊達の嘆きと悲しみと狂気に触れる。
「ああ!精霊姫が……精霊姫が……」
「申し上げます……帝国は闇に飲まれるでしょう……お悔やみ申し上げます……」
「ふふ、ふふふ……可哀想な精霊姫……あはは!」
精霊と関わりが深い者達が狂った精霊に同調しておかしくなって行く。
「リジェーシャ!!お前!お前の精霊姫に何をしたんだ!!答えよ!」
血を吐く勢いで、兄上は大声を上げた。
「あ、兄上……私の精霊姫、とは何の、何の事でしょうか……?」
「お前が!!心から望んで!あらゆる手を尽くして!リグロードまで行き無理やり手籠にしたナルジェル様を!お前は忘れたのかっ!!」
ズキン!頭に痛みが走った。ナルジェル様……ナルジェル様……駄目だ、何か、何かが……
「大丈夫でございますか?私がいます、殿下」
「あ、ああ……リリン……」
痛みが引いてゆくーーー。
「あーーーはっはっはっは!魔女だ!!」
「魔女だ!魔女だ!!流石は魔女よ!精霊姫を殺すのは常に魔女よ!」
「おお!精霊の敵よ!恐ろしや恐ろしや!魔女!」
「お黙り!精霊め!忌々しい!!」
俺の腕にぴったりとくっついていたリリンは声を荒げた。
「もう少し使えると思ったのに!バラされてしまったんじゃおしまいよ!まあ良いわ」
リリンは不敵な笑みを浮かべる。
「陛下!」
騎士達は王を守るように立ちはだかり、俺はリリンに突き飛ばされて、尻餅をついた。
「精霊姫を殺せたもの!良い気味よ!凄い美形だったから、楽しみだわ」
リリンは恍惚の表情を浮かべる。
「男の精霊姫。堕ちたらどうなるのかしら!ああ!楽しみ楽しみ!」
「り、リリン……?」
俺は何を見ている?そして何を見えていない……?
「ああ!間抜けな大地の子よ。自分を選んでくれた愛しい愛しい精霊姫を殺して闇に堕とした気持ちは如何かしら?」
「どう……いう……」
本当に愉快そうにリリンは笑う。
「あの子、随分貴方を待ってたみたいね?貴方を愛して待っていた。他の大地の子に抱かれたくなくて、自分の腹まで裂いたのに!」
「腹を……裂いた……?」
「貴方がいない貴方の精霊姫が他の大地の子から狙われて、出来る事なんてそれほど多くないじゃない?」
「俺の、精霊姫……」
馬鹿じゃねーの!悪態をつきながら真っ赤な髪が揺れる。
「大事な大事な、精霊を生み出す腹を裂いた!分かる?分からないわよねぇ、あの子の気持ちが。随分貴方に懐いていたみたいね?」
このクソど変態!それでも緑の瞳が愉快そうに揺れるから。
「あの顔!みたぁ?私が出てきた時の凪いだ顔!凄かったわ!あれが当代最高の精霊姫の実力よ!」
リジェーシャ……俺の名前を恥ずかしそうに呼んだ。
「お前なんか……好きだよ」
「あ、あああ、あああーーーーーー!!!」
バキン!頭のどこかにかかっていた鍵が壊れて、封印された扉に体当たりをする。
「あ、あああ!!ナル……ナルジェルっ!ナルジェルーーーーっ!!」
俺は!俺は何をしていたんだ?!俺は確かに見たんだ!馬車から顔を出した瞬間、目が合った時、ナルジェルは心配そうにそしてとても、とても嬉しそうな目をしていたんだ。
そして、振り返りまた合った目は真っ黒い絶望に沈んでいたのに!!
俺はあの目を見て何を思った?あの真っ暗な目でナルジェルは何を思って、何でもない風を装って何を語った?
混乱と後悔で何も思い出せない!
「自力で魅了を解いたのは良しとしましょう」
つまらない物を見るように、リリンは俺を見下す。ああ、これが目的だったのか、リリンは。俺を献身的に看病してくれたのは、この為か!
「さて、皆さまに素敵な誕生日を一緒にお祝いしに行く権利を差し上げますわ!」
パチン!リリンは指を鳴らす。その場にいた人間全員が屋敷の前に転送された。
「さあ、お誕生日おめでとう。ナルジェル様」
すいっと指を下から上へ。何もない地面から黒い液体がするりと伸び上がる。
それは徐々に膨らみを増し、背の高い人の形を取り始めた。
知っている。その姿を。何度も何度も触って撫でて舐め回し、愛した体の形だ。
「な、ナル、ジェル……?」
「そう、ナルジェル様よ……ただし」
リリンの唇は愉悦に歪んでいる。
「……やり方が性急だな。もっと力を引き出せたはずだ」
ナルジェルの声がする。美しいが感情はない、冷たい声だった。
「やあ、元伴侶殿。やはり伴侶殿の裏切りが1番力になるな……俺はナルジェル。ただし、魔女ナルジェルだがな」
真っ赤な燃えるような緋色の髪はそのままに、瞳だけが黒く昏く濁っていた。
「さあ、死せる我が子らよ。蘇れ……混沌を撒き散らし好きにするが良い」
「精霊……姫……一体なんの、事ですか?兄上」
俺はぐらつく頭を振った。俺を支えてくれたリリンが心配そうに見上げている。
「王!せ、精霊が!精霊が!!全て消えました!!」
「王!ナルジェル様が!ナルジェル様が!」
ナルジェル……様?ナルジェル……頭が痛む……。
兄上は立ち上がる。
「ナルジェル様がどうした!!」
「ナルジェル様は……光になって…消えました!!」
「消えた?!精霊姫が消えただと??!」
「残った精霊が泣いています!」
「残った精霊が狂って行きます!」
精霊が見える術師達が悲鳴を上げる。強すぎる精霊達の嘆きと悲しみと狂気に触れる。
「ああ!精霊姫が……精霊姫が……」
「申し上げます……帝国は闇に飲まれるでしょう……お悔やみ申し上げます……」
「ふふ、ふふふ……可哀想な精霊姫……あはは!」
精霊と関わりが深い者達が狂った精霊に同調しておかしくなって行く。
「リジェーシャ!!お前!お前の精霊姫に何をしたんだ!!答えよ!」
血を吐く勢いで、兄上は大声を上げた。
「あ、兄上……私の精霊姫、とは何の、何の事でしょうか……?」
「お前が!!心から望んで!あらゆる手を尽くして!リグロードまで行き無理やり手籠にしたナルジェル様を!お前は忘れたのかっ!!」
ズキン!頭に痛みが走った。ナルジェル様……ナルジェル様……駄目だ、何か、何かが……
「大丈夫でございますか?私がいます、殿下」
「あ、ああ……リリン……」
痛みが引いてゆくーーー。
「あーーーはっはっはっは!魔女だ!!」
「魔女だ!魔女だ!!流石は魔女よ!精霊姫を殺すのは常に魔女よ!」
「おお!精霊の敵よ!恐ろしや恐ろしや!魔女!」
「お黙り!精霊め!忌々しい!!」
俺の腕にぴったりとくっついていたリリンは声を荒げた。
「もう少し使えると思ったのに!バラされてしまったんじゃおしまいよ!まあ良いわ」
リリンは不敵な笑みを浮かべる。
「陛下!」
騎士達は王を守るように立ちはだかり、俺はリリンに突き飛ばされて、尻餅をついた。
「精霊姫を殺せたもの!良い気味よ!凄い美形だったから、楽しみだわ」
リリンは恍惚の表情を浮かべる。
「男の精霊姫。堕ちたらどうなるのかしら!ああ!楽しみ楽しみ!」
「り、リリン……?」
俺は何を見ている?そして何を見えていない……?
「ああ!間抜けな大地の子よ。自分を選んでくれた愛しい愛しい精霊姫を殺して闇に堕とした気持ちは如何かしら?」
「どう……いう……」
本当に愉快そうにリリンは笑う。
「あの子、随分貴方を待ってたみたいね?貴方を愛して待っていた。他の大地の子に抱かれたくなくて、自分の腹まで裂いたのに!」
「腹を……裂いた……?」
「貴方がいない貴方の精霊姫が他の大地の子から狙われて、出来る事なんてそれほど多くないじゃない?」
「俺の、精霊姫……」
馬鹿じゃねーの!悪態をつきながら真っ赤な髪が揺れる。
「大事な大事な、精霊を生み出す腹を裂いた!分かる?分からないわよねぇ、あの子の気持ちが。随分貴方に懐いていたみたいね?」
このクソど変態!それでも緑の瞳が愉快そうに揺れるから。
「あの顔!みたぁ?私が出てきた時の凪いだ顔!凄かったわ!あれが当代最高の精霊姫の実力よ!」
リジェーシャ……俺の名前を恥ずかしそうに呼んだ。
「お前なんか……好きだよ」
「あ、あああ、あああーーーーーー!!!」
バキン!頭のどこかにかかっていた鍵が壊れて、封印された扉に体当たりをする。
「あ、あああ!!ナル……ナルジェルっ!ナルジェルーーーーっ!!」
俺は!俺は何をしていたんだ?!俺は確かに見たんだ!馬車から顔を出した瞬間、目が合った時、ナルジェルは心配そうにそしてとても、とても嬉しそうな目をしていたんだ。
そして、振り返りまた合った目は真っ黒い絶望に沈んでいたのに!!
俺はあの目を見て何を思った?あの真っ暗な目でナルジェルは何を思って、何でもない風を装って何を語った?
混乱と後悔で何も思い出せない!
「自力で魅了を解いたのは良しとしましょう」
つまらない物を見るように、リリンは俺を見下す。ああ、これが目的だったのか、リリンは。俺を献身的に看病してくれたのは、この為か!
「さて、皆さまに素敵な誕生日を一緒にお祝いしに行く権利を差し上げますわ!」
パチン!リリンは指を鳴らす。その場にいた人間全員が屋敷の前に転送された。
「さあ、お誕生日おめでとう。ナルジェル様」
すいっと指を下から上へ。何もない地面から黒い液体がするりと伸び上がる。
それは徐々に膨らみを増し、背の高い人の形を取り始めた。
知っている。その姿を。何度も何度も触って撫でて舐め回し、愛した体の形だ。
「な、ナル、ジェル……?」
「そう、ナルジェル様よ……ただし」
リリンの唇は愉悦に歪んでいる。
「……やり方が性急だな。もっと力を引き出せたはずだ」
ナルジェルの声がする。美しいが感情はない、冷たい声だった。
「やあ、元伴侶殿。やはり伴侶殿の裏切りが1番力になるな……俺はナルジェル。ただし、魔女ナルジェルだがな」
真っ赤な燃えるような緋色の髪はそのままに、瞳だけが黒く昏く濁っていた。
「さあ、死せる我が子らよ。蘇れ……混沌を撒き散らし好きにするが良い」
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