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55 いちゃいちゃと

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「面倒なので、寝ている頭に直接入り込むことにしたのだ」

「しゅが!しゅが!すきすき!しゅが!すき!しゅが!」

「ダメだって、やめろって!ディ、聞いてって、やだぁ!あはははは」

「……」

 分かってはいたが、話にならんと赤いトカゲのレイことアデレイドは子供の姿から、トカゲの姿に戻って遠くで丸くなった。

「我、寂しくないもん」

 自分だって可愛いつがいを見つけるもん、と自分の尻尾を枕にしてちょっとだけ涙した。




「シュガー?!具合が悪いのですか?!つわりが酷いのですか?!産まれそうなのですか?!シュガー!」

 バキン、バターン!と店の扉をぶち破ってフェルマーが店内に突入する。外の通りには、心配そうに覗き込む人の顔、顔、顔。ガランゴロンとドアベルが悲しそうな音を立てて床に転がった。


「んへ?」

 なんだなんだ?店に強盗か?売りもんなんて一つもおいてねーぞ。いや、フェルマーの声だな?
 俺は店につながっている扉を開けると、そこには必死な形相のフェルマーが店の扉を右手に持って仁王立ちしていた。

「シュガー!?無事でしたか?!」

「無事も何も、なんでもねーけど……?」

「あなたっ!一週間も店を開けずに何をやってたんですか!私はもう心配で心配で、霊峰から走って帰って来ましたよ!」

「え、一週間?」

 辺りを見渡すと、店の外から窓からにたくさんの人の顔が見える。この辺に住んでいる貧乏人どもの顔だ。ばばぁまで覗き込んでるぞ。
 人の心配より、自分の寿命の心配しろよ。

「マジ?」

 人々はこくこくと一様に頷いた。

「シュガー!」

「えと、あーー、なんていうか、ごめん?」

 ずっと、嬉しくてディと時間を忘れて喋っていたとは、とてもじゃないが言い出せない状況だった……。ほんと、ごめんってば。



『と、言うわけじゃ。こやつら、我がいる事を忘れていちゃいちゃいちゃいちゃいちゃいちゃと……』

「なるほど……」

 フェルマーは今、シュガーの右腕を握りしめながら、レイの愚痴をずっと聞かされていた。触れればフェルマーにもトカゲの言葉がわかるまでに成長をしていた。

 とうのシュガーは左腕を見ながらにこにこと話をしている。

「そうなのか、さすがはディだなあ、うんうん。小さくてもかっこいいよ、え、なにうんうん、俺も好き…じゃなくて、え、いや、やめろよ、恥ずかしいなぁもうばかだなぁ」

 シュガーってこんな奴だっけ?付き合いは10年を超えるはずなのに、初めてみる顔ばかりなのをフェルマーは不思議に思う。
 笑って照れて怒っている。

 フェルマーの知っているシュガーはこんなに陽気な奴ではなかった。なかなか産まれてこないトカゲに焦り嘆き、そして一緒に居られるだけでいい。と母親のように優しく笑う、そんな奴だった。

「レイ……シュガーってこうでした?」

『我も知らんよ。我がシュガーとおうたのはアレが絶望し、ただの生ける屍だった頃だからの。あの頃のシュガーの壊れっぷりは凄まじかったぞ。お主もみたらおののくであろうな?』

 確かつがいと決めたディアノスを失った直後だったか、と昔にシュガーから聞いた話を思い出していた。

『所でフェルマーよ。我と契約せぬか?あやつら、まさかあれほどまでとは我も計算外での……少々気がめいる』

「龍王様と契約など、私には荷が重い事です」

『大丈夫じゃ。顕現したては我々は無力なトカゲと変わらんよ。アレが肉を得たら何をするか、我には止められんしずっと見せられるのもしゃくじゃ』

「そう言われるのならば、私としては光栄の極みでございます」

 まぁ、嫌がっても無理やり食ろうてやるつもりだったがの、とは舌の先程にも見せずにレイは満足そうに目を細めた。

『忘るるなよ?口先だけとは言え、龍との約を違えるでないぞ?』

「御意にてございます」

 今まで散々シュガーとディに空気扱いされたレイはフェルマーの丁重な扱いに気分を良くした。

『しての?フェルマーよ。我らが顕現する際に何処から出ようかと思ってな?アホは尻だと譲らんよの……』

「は、はぁ…」

 フェルマーは疲れた目頭を揉みながら、楽しそうに笑うシュガーを哀れみの目で見るしかなかった。




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