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私がママよ

50 普通とは?

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「普通とは」

 俺とフェルマーはこの世界の常識について話し合った。
 出会って間もないフェルマーだが、トカゲ育成の良きアドバイスを貰わなければならない。俺は彼を信用できると感じている。直感を大事にしよう。断じて考えるのをやめたとか、諦めたとかそう言うことではない。

「つまり、シュガーは異世界からの転生者であり、神から何らかの使命を受けてこの世界にやってきたと」

「そして最初に沼に落とされて死にかけた」

「その沼はあの死の沼で、毒竜様に拾われたと」

「だいたいそんなところ」

「……納得しろと?」

「よろしくお願いします」

 フェルマーは俺が「ごめんね」と言った回数と同じくらい目の「頭を抱えてうずくま」った。

「つまりは最初から世界の常識がない所に、常識が通用しない人達の間で育った。と、言う事ですね?」

「そうなのかな?最初がディアノスの所で、次が火竜の王宮だった。その後は盗賊から暗殺ギルドになったところ」

「……シュガー、聞いてくださいますか?私は魔物使いモンスターテイマーの端くれとして、魔物の頂点の一角を担うドラゴンの幼生を宿しているあなたを丁重に扱いたいと

 聞きますと言わないうちから、フェルマーは話し始めた。

 ねぇ今、もう過去形じゃなかった?ねぇ!いました、って言ったよね?!もう、過去形ね?!

「しかし!はっきり言います!ダメです!ダメダメです!どうしようもないくらいだめです!今日からしっかりきっちり、常識ってやつを教え込んであげるので覚えて下さい!!」

 ひぇ……そこまで言わなくても……フェルマーの剣幕に俺は後ずさる。

「シュガー!返事っ」

 ピシィッとテイマー鞭が床を打った。

「ひぃ!は、はいいい!」

 こ、これは鬼教官の予感がひしひしします!2匹のトカゲも殺気を感じたのか、ブルブル震えている。

「さあ!まずは足がつきそうですから、どんどん移動しましょう。船で海を渡った方がいいかもしれませんね!」

「よ、よろしくお願いします……教官殿……」



 俺たちは港のある街で、美容液を売りさばき船賃を作って船に乗り込んだ。

「こんなもの、こんな値段で売れるわけないでしょう?」

 走り回る赤トカゲより小さい……つまりは小指より小さい瓶にほんのちょっぴり入っている美容液を1万ギルで売ると言うので、流石に俺も驚いた。

「大丈夫です。100本ほど作ってくださいね」

「100……」
 
 俺は作れはするが、製薬は得意ではない。いっぺんにたくさん作るとか、素早く作るとか器用な事はできない。

「早速、鬼かよ……」

 普通の薬師ならちゃちゃーっと作ってしまう所なのだろうけれど、俺はモタモタ、ちびちび数を増やすしかない。

 まぁ 普通の薬師とやらに会ったのとはないんだけれどもね。会ったことがあるのは火竜の都の三流薬師だけだ。

 1日がかりで作った美容液の瓶を箱に詰め、フェルマーは出かけていった。

「しばらく、ピンクのトロトロは見たくない……!」

 女性向けなら色をつけるべきと言われて、薄いピンク色にして匂いバラの香りもつけた。アスティード様の母上様に作っていたものはもっと大きな瓶に入れた物だったけれど、中身は大して変わらない。

「売れるのかなぁ?」

 俺は手の甲の上に魔石を乗せて、トカゲたちに餌をやりながら、フェルマーが帰るのを待つことにした。
 トカゲたちは遠慮なく魔石を砂に変え、満足すると眠りまた起きて魔石を食べる。たまに2匹で走り回っていて、俺の体のあちこちから尻尾を見せている。

「……お前ら、意外と仲が良いんだな」

 片方は殺すと決めた王で、片方は殺された方なのに何故なんだろう。俺だったら絶対に許さない。世界の終わりまで恨んで憎むと思うのに、俺の愛するきったねぇトカゲは腹を上に向けて、平和そうに寝ている。
 元凶である赤い方は俺が自分で見えない所…背中の方に隠れているようだ。
 俺の感情はこの2匹に伝わるようで、俺が不機嫌だと隠れているし、楽しいと目に止まる場所に出てくる。

 はぁ、と一つため息をつくしかない。片一方だけ育てるという選択肢は存在しない。ならば両方可愛がってやらないと。

「納得はしてないんだぞ!でもな……俺はえこひいきとか、ネグレクトみたいなことはしたくない」

 ディが腹を出して寝てるのにレイは怖がって隠れている。だめだ、そんなのだめだ。
 望んで親みたいな存在になった訳じゃないが、なってしまったのだから俺も腹括ろう。

「昔のことは変えようがないもんな。早く大きくなって、俺を養ってくれよ」

 それまで頑張るかー!
ふん!と気合を入れて伸びをする。旅の途中で行商出来そうなものでも作っておきますか!

 俺は愛用の元料理用小鍋を取り出した。
 
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