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私がママよ
46 まさかの
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「ん?」
片付けても片付けてもきれいにならない我が家に住み続けて2ヶ月。腹のコロコロが2つに増え
「……転移ってやつかな?」
と、思っていたが更に2ヶ月ほど経つとなんと両方無くなっていた。
「……なんだよ、病気じゃなかったのか?!」
自分の体に腹が立つ。覚悟を決めて死ぬならここだと帰って来たのに、どう言うことだ!俺の体!おかしいだろ!
今日も瘴気にやられて落ちて来る鳥を集めて、食えるものは食い、食えないものは沼に沈める。
住まいを直し、寒くなったらどうしようか?などと考え、冬の間だけ人の街に隠れ住もうかと考えたりしている。
学園の事はあまり思い出さなかったが、ただ料理長の料理だけは恋しいと思った。自分で調理しても、あまり美味しいものでもない。人に作ってもらったものの美味しさは格別だと思う。
と言うか毒ばかり食べている。誰の目も気にする事がないから、好きなことが出来るし何より種類が豊富だ。
この毒沼の周りに辛うじて生えている植物は、この沼に対応して生き延びたらしく、普通の土地のものとは一線を画した猛毒の持ち主達だ。
「通常の黄花イラ草が白い花をつけて……根が肥大して溜め込んでいるんだなぁ」
沼の周りに似つかわしくなく群生している白い可憐な花を手袋をはめて摘む。女の子が花冠でも作りそうなくらい、見た目は可愛い花だが、俺でもそのまま触れば指が焼けるほど痛む。
根が小さな人参のように膨らんでいて、掘り出して酒に漬け込めば大人でも小さじ一杯程度でもがきながら死んでゆく猛毒の完成だ。とても簡単!
奇怪に歪んだ木も多くて見ていて飽きない。
影響はかなり及んでいて、普通の森に出るには長時間飛ばなければならなかった。
「ん?」
珍しく普通の森近くまで来ていたある日に、倒れている旅人を見つけた。久しぶりに発見した人間に、もの珍しさを感じ近くに降り立つ。
「死にかけ……」
かなり離れているとはいえ、風向きなどで毒の風が流れて、それを吸ったのだろう。顔は青く、心臓が止まりかけている。迷ったのなら可哀想だが、何でこの森を通ったんだろうか……。魔獣も動物も寄り付かない場所には何かあると思わなかったんだろうか。
助けたのはほんの気まぐれと、新しく作った解毒剤の効果を知りたかっただけだった。
旅人は男で、青年といったところだ。仰向けにひっくり返し、乱暴に口の中に解毒剤の入った瓶の口を、蓋を開けて突っ込む。
飲み込めないかと思ったが、喉がごくりと動いて、瓶の中身は全て体の中に救出されて行ったようだ。
「浮遊」
男に魔法をかけて、沼から離れる。ここにいたら、普通の人間はすぐに死んでしまうから。薬の結果も見てみたい俺は少しづつ沼から遠ざかって行った。
「う……ん」
30分ほど飛ぶと男は呻き声を上げた。どうやら解毒剤は効き、気がついたようだ。
森の中だが少し開けた場所につき、男を地面に下ろす。見渡すと、焚き火をした後もあり、この森を旅する人々が一夜を過ごす場所になっているようだった。
「へぇ、こんな所あったんだ」
近くに小川もあって、なるほど都合がいい。冷たい水が気持ちよかった。
辺りをぐるりと見回って戻ると、男は座っていた。どうやら回復したようだった。なかなか良い効き目。多種多様の毒が混ざり込んだあの沼の瘴気に効くものを作るのはなかなか大変な作業だったし。
「あの」
「大丈夫ですか?」
ほぼ同時に口を開いた。
「なるほど死の沼の影響で死にかけていたのですね、私は」
「ええ、手持ちの薬が効いて良かったです」
「本当に運が良い……死の沼の毒は万能薬でも治らないし、高名な聖女様でも解毒が難しいと聞いているのに」
「そ、そうなんですか?」
どんだけきつい沼になっちゃったんだ?俺の家は。だれのせいかな?ディかな??俺じゃないよね?
フェルマーと名乗った男は深々と頭を下げた。
「私は冒険者をしているフェルマーと言うものです。職はモンスターテイマーなのですが、手持ちのモンスター達はみな、あの毒で死んでしまいました……私の判断ミスです。死の沼を甘くみていました」
悔しそうに頭を垂れるフェルマーは、モンスター達を可愛がっていたのだろう。そんなフェルマーをモンスター達も必死で助けたのだろうが……俺ん家がすまないねぇ……。
「所で……差し出がましいとは思うのですが、もう少したくさん栄養を取った方が良いのではないでしょうか?」
「え?俺ですか?」
こくりとフェルマーはうなずく。確かに適当な毒しか口に入れてない気はするが、別にガリガリに痩せている訳ではないし、昔とそう変わらない体型をしている筈だ。
「わざとそうしてらっしゃるなら、気が付かず申し訳ありませんが……もし、気がついていらっしゃらないなら……」
なんなんだろう。しかもフェルマーの妙な敬語も気になる。
「何か……あるんですか?」
「やはり、お気付きではいなかったのですね。御身に古代龍の幼体が2体宿っておいでです」
「はぁ?!なにそれ知らない!」
俺は久しぶりに喋った1人相手にすっとんきょうな声を上げた。
フェルマーはゴソゴソと荷物を漁って中から小さな石を2つ取り出した。
「なるほど、無断でしたので隠れていたのですね……しかし、そろそろ腹を減らしているようですよ。きっとすぐ来ると思います」
そう言って、俺の手の甲に石を2つ乗せた。
「これは魔物から取れる魔石です。あ、ほら来ましたよ。」
手の甲に乗せた魔石に向かって、なんと驚いたことに体の方から腕を伝って小さなトカゲのようなものが皮膚の中を通って移動して来る。
「うわ…なにこれ!」
「住み着いてるんですよ、貴方の体に。少し様子をみましょう」
トカゲはちょろちょろと移動する。そして手の甲にたどり着き、魔石の下まで移動すると、乗せていた石がさぁっと砂になって崩れてしまった。
美味しかったのか目を細めて舌を出したり引っ込めたりしていた。
良く見るとこのトカゲの色……まさかまさか。
「ディなの?!」
大きな声で聞くと、俺の小指より小さな汚い腐った沼の色のトカゲは、体に似合わない大きな口を開けてニコッと笑った……ようだった。
片付けても片付けてもきれいにならない我が家に住み続けて2ヶ月。腹のコロコロが2つに増え
「……転移ってやつかな?」
と、思っていたが更に2ヶ月ほど経つとなんと両方無くなっていた。
「……なんだよ、病気じゃなかったのか?!」
自分の体に腹が立つ。覚悟を決めて死ぬならここだと帰って来たのに、どう言うことだ!俺の体!おかしいだろ!
今日も瘴気にやられて落ちて来る鳥を集めて、食えるものは食い、食えないものは沼に沈める。
住まいを直し、寒くなったらどうしようか?などと考え、冬の間だけ人の街に隠れ住もうかと考えたりしている。
学園の事はあまり思い出さなかったが、ただ料理長の料理だけは恋しいと思った。自分で調理しても、あまり美味しいものでもない。人に作ってもらったものの美味しさは格別だと思う。
と言うか毒ばかり食べている。誰の目も気にする事がないから、好きなことが出来るし何より種類が豊富だ。
この毒沼の周りに辛うじて生えている植物は、この沼に対応して生き延びたらしく、普通の土地のものとは一線を画した猛毒の持ち主達だ。
「通常の黄花イラ草が白い花をつけて……根が肥大して溜め込んでいるんだなぁ」
沼の周りに似つかわしくなく群生している白い可憐な花を手袋をはめて摘む。女の子が花冠でも作りそうなくらい、見た目は可愛い花だが、俺でもそのまま触れば指が焼けるほど痛む。
根が小さな人参のように膨らんでいて、掘り出して酒に漬け込めば大人でも小さじ一杯程度でもがきながら死んでゆく猛毒の完成だ。とても簡単!
奇怪に歪んだ木も多くて見ていて飽きない。
影響はかなり及んでいて、普通の森に出るには長時間飛ばなければならなかった。
「ん?」
珍しく普通の森近くまで来ていたある日に、倒れている旅人を見つけた。久しぶりに発見した人間に、もの珍しさを感じ近くに降り立つ。
「死にかけ……」
かなり離れているとはいえ、風向きなどで毒の風が流れて、それを吸ったのだろう。顔は青く、心臓が止まりかけている。迷ったのなら可哀想だが、何でこの森を通ったんだろうか……。魔獣も動物も寄り付かない場所には何かあると思わなかったんだろうか。
助けたのはほんの気まぐれと、新しく作った解毒剤の効果を知りたかっただけだった。
旅人は男で、青年といったところだ。仰向けにひっくり返し、乱暴に口の中に解毒剤の入った瓶の口を、蓋を開けて突っ込む。
飲み込めないかと思ったが、喉がごくりと動いて、瓶の中身は全て体の中に救出されて行ったようだ。
「浮遊」
男に魔法をかけて、沼から離れる。ここにいたら、普通の人間はすぐに死んでしまうから。薬の結果も見てみたい俺は少しづつ沼から遠ざかって行った。
「う……ん」
30分ほど飛ぶと男は呻き声を上げた。どうやら解毒剤は効き、気がついたようだ。
森の中だが少し開けた場所につき、男を地面に下ろす。見渡すと、焚き火をした後もあり、この森を旅する人々が一夜を過ごす場所になっているようだった。
「へぇ、こんな所あったんだ」
近くに小川もあって、なるほど都合がいい。冷たい水が気持ちよかった。
辺りをぐるりと見回って戻ると、男は座っていた。どうやら回復したようだった。なかなか良い効き目。多種多様の毒が混ざり込んだあの沼の瘴気に効くものを作るのはなかなか大変な作業だったし。
「あの」
「大丈夫ですか?」
ほぼ同時に口を開いた。
「なるほど死の沼の影響で死にかけていたのですね、私は」
「ええ、手持ちの薬が効いて良かったです」
「本当に運が良い……死の沼の毒は万能薬でも治らないし、高名な聖女様でも解毒が難しいと聞いているのに」
「そ、そうなんですか?」
どんだけきつい沼になっちゃったんだ?俺の家は。だれのせいかな?ディかな??俺じゃないよね?
フェルマーと名乗った男は深々と頭を下げた。
「私は冒険者をしているフェルマーと言うものです。職はモンスターテイマーなのですが、手持ちのモンスター達はみな、あの毒で死んでしまいました……私の判断ミスです。死の沼を甘くみていました」
悔しそうに頭を垂れるフェルマーは、モンスター達を可愛がっていたのだろう。そんなフェルマーをモンスター達も必死で助けたのだろうが……俺ん家がすまないねぇ……。
「所で……差し出がましいとは思うのですが、もう少したくさん栄養を取った方が良いのではないでしょうか?」
「え?俺ですか?」
こくりとフェルマーはうなずく。確かに適当な毒しか口に入れてない気はするが、別にガリガリに痩せている訳ではないし、昔とそう変わらない体型をしている筈だ。
「わざとそうしてらっしゃるなら、気が付かず申し訳ありませんが……もし、気がついていらっしゃらないなら……」
なんなんだろう。しかもフェルマーの妙な敬語も気になる。
「何か……あるんですか?」
「やはり、お気付きではいなかったのですね。御身に古代龍の幼体が2体宿っておいでです」
「はぁ?!なにそれ知らない!」
俺は久しぶりに喋った1人相手にすっとんきょうな声を上げた。
フェルマーはゴソゴソと荷物を漁って中から小さな石を2つ取り出した。
「なるほど、無断でしたので隠れていたのですね……しかし、そろそろ腹を減らしているようですよ。きっとすぐ来ると思います」
そう言って、俺の手の甲に石を2つ乗せた。
「これは魔物から取れる魔石です。あ、ほら来ましたよ。」
手の甲に乗せた魔石に向かって、なんと驚いたことに体の方から腕を伝って小さなトカゲのようなものが皮膚の中を通って移動して来る。
「うわ…なにこれ!」
「住み着いてるんですよ、貴方の体に。少し様子をみましょう」
トカゲはちょろちょろと移動する。そして手の甲にたどり着き、魔石の下まで移動すると、乗せていた石がさぁっと砂になって崩れてしまった。
美味しかったのか目を細めて舌を出したり引っ込めたりしていた。
良く見るとこのトカゲの色……まさかまさか。
「ディなの?!」
大きな声で聞くと、俺の小指より小さな汚い腐った沼の色のトカゲは、体に似合わない大きな口を開けてニコッと笑った……ようだった。
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