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赤い竜
10 成った
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国はもう助からない所まで来ていた。僕が13歳になった頃だ。
「呪いだ……毒竜ディアノスの呪いだ……」
人は口々に噂した。異常に強い竜達も倒れていった。当然アリュールも死んだ。半年も前だ。アリュールが死ぬ頃は竜達も死に始めていたので、僕は怪しまれなかった。
僕は今 大量の解毒剤作りに忙しい。この国で解毒剤を飲んでいないのは毒耐性がある僕くらいだろう。作っても作っても足りない。
城下町は死体で埋まっている。呪毒による死なので魔物すら喰いに来ない。たまにタガが外れた奴がやってきては、毒に侵される死んでゆく。死の街が出来ている。
見に行きたいが、忙しくて手が離せない。毎日貴人たちが死んでゆく。その貴人を運び出す役人が毒に当てられ死んで行く。その役人を運び出す者がなく、そこから毒が広がって行く。
ディの恨みの深さに、目頭が熱くなる。スマートかつ大胆不敵の大犯行!地獄の果てまで追いかける鬼みたいな童貞の恨み!あ、卒業したっけ、僕の尻で。
僕は僕の最高にカッコいい旦那さまに惚れ直していた。クソ火竜どもが死に尽くすのを僕に見せてくれるなんて、興奮でどうにかなっちゃいそうだよ!
ブルブル震えながら僕はこの国の1番偉い国王陛下に大して効かない解毒剤と、一時凌ぎの薬をお持ちして、恭しく差し出す。
「ああ、シュガーか」
「はい」
かなり前から視力が消失して、瞳が白く濁っている。
それでも僕は薬を手に持たせ、水を飲ませてやる。飲んでしばらくすれば、少しだけ回復するのだ。
3000年生きたと言われている火竜の王はもうすぐ死ぬだろう。ディアノスと同じくらいの歳だそうだ。
「……シュガーよ、わしはどこで間違ったのだろうな」
これは独白だろう。僕は答えを持っていない、しかし、どうしても聞きたいことがあった。
「陛下…陛下は何故毒竜討伐をご命じになったのですか?」
どうしても聞きたかったこの謎。ディと僕は何者にも近づかず、2人だけの生活をしていた。なのに突然火竜たちは牙を剥いた。
「…あの時……毒竜ディアノスを討たねば火竜の都は滅亡すると……神託が竜巫女より降ったのだよ……」
「神……託…」
「討って……滅びるわけなのだがな……ディアノスには済まない事をした……ここは滅び、毒地になるだろう……」
陛下はゆっくり目を閉じた。死を悟っている。
「神託なぞ……笑い飛ばすべきであったわ……地獄でディアノスに詫びねばな……奴に言うてやるわ。お前の番は言いつけを守っておるとな、シュガリオン。」
「…気がついて……?」
にやり、と火竜王は笑った。
「良い、擬装であったが、流石に緩んでおったわ……王座はそちに……」
「要りませんよ。興味もない」
「ははっ…だろうな……しかし、この地は巨大な毒沼になろう……」
「それは嬉しいですね。僕の大好きな腐って汚い色の沼ができるなんて!」
さもあらん。もう薬の効果が切れ始めたようだ。
「生きよ、シュガリオン。それがディアノスの望み……」
「言われなくても」
僕はくるりと踵を返した。もう演技も要らない。最後の後始末をしてしまおう。
僕は通い慣れた第二王子レッシュの部屋へ向かった。
レッシュへ近づくにつれ、呪いと毒が強く渦を巻き、僕ですら肌がビリビリする。型通り、ドアをノックした。
「王子、シュガーです」
「入れ」
しわがれた返事が聞こえた。ノブに手をかける回して扉を開いた。瘴気がどろりと溢れてくる。末期だ。先ほどまで生きていた付き人が王子の近くで倒れている。口から血泡を吐いて絶命していた。
何毒で死んだのか気になるが、僕は吹き付ける瘴気の中、王子の側までやってきた。
「王子、お加減はよろしいですか?」
「ああ……ここ数年にない程、清々しい。何か薬を変えたか?」
僕は首を振った。何も変わらない。
「ずっとあった頭痛が嘘のように消えていてな。左手も動くぞ」
「そうでございますか」
うぞうぞと左手を動かしているのがみえるが、僕の目は優しい。
「今日ならば自由に動けそうだ、シュガー、手を貸せ」
僕は一呼吸置いて
「断る、控えよ」
僕は命令をした。
「な、なにを!薬師如きが、王子である俺にそのような口を…!」
しかし、レッシュは自分の変化に気がついた。
「か、体が……体が……!」
レッシュの体は毒が回りきった。偏頭痛の原因の脳が変化をし、麻痺した腕がなじんだので動き始めたのだ。毒と親和した体に変化し始めていた。
「わかるかい?レッシュ。新しい毒竜の誕生だ」
僕は限りなく優しい声で教えて上げる。
「は…何を言って……」
「口を慎みたまえ、上位眷属に頭をたれよ」
レッシュの中に新しく組み込まれた力が、シュガーの存在を恐れて、這いつくばった。
「だが、祝福しよう。新しい毒竜の誕生を!千年の孤独を!火竜は死んだ、新しいヴェノの末席に加わる事を許そう」
この時を以て火竜の都は毒に沈み、ディアノス・ヴェノの復讐は成った。
「呪いだ……毒竜ディアノスの呪いだ……」
人は口々に噂した。異常に強い竜達も倒れていった。当然アリュールも死んだ。半年も前だ。アリュールが死ぬ頃は竜達も死に始めていたので、僕は怪しまれなかった。
僕は今 大量の解毒剤作りに忙しい。この国で解毒剤を飲んでいないのは毒耐性がある僕くらいだろう。作っても作っても足りない。
城下町は死体で埋まっている。呪毒による死なので魔物すら喰いに来ない。たまにタガが外れた奴がやってきては、毒に侵される死んでゆく。死の街が出来ている。
見に行きたいが、忙しくて手が離せない。毎日貴人たちが死んでゆく。その貴人を運び出す役人が毒に当てられ死んで行く。その役人を運び出す者がなく、そこから毒が広がって行く。
ディの恨みの深さに、目頭が熱くなる。スマートかつ大胆不敵の大犯行!地獄の果てまで追いかける鬼みたいな童貞の恨み!あ、卒業したっけ、僕の尻で。
僕は僕の最高にカッコいい旦那さまに惚れ直していた。クソ火竜どもが死に尽くすのを僕に見せてくれるなんて、興奮でどうにかなっちゃいそうだよ!
ブルブル震えながら僕はこの国の1番偉い国王陛下に大して効かない解毒剤と、一時凌ぎの薬をお持ちして、恭しく差し出す。
「ああ、シュガーか」
「はい」
かなり前から視力が消失して、瞳が白く濁っている。
それでも僕は薬を手に持たせ、水を飲ませてやる。飲んでしばらくすれば、少しだけ回復するのだ。
3000年生きたと言われている火竜の王はもうすぐ死ぬだろう。ディアノスと同じくらいの歳だそうだ。
「……シュガーよ、わしはどこで間違ったのだろうな」
これは独白だろう。僕は答えを持っていない、しかし、どうしても聞きたいことがあった。
「陛下…陛下は何故毒竜討伐をご命じになったのですか?」
どうしても聞きたかったこの謎。ディと僕は何者にも近づかず、2人だけの生活をしていた。なのに突然火竜たちは牙を剥いた。
「…あの時……毒竜ディアノスを討たねば火竜の都は滅亡すると……神託が竜巫女より降ったのだよ……」
「神……託…」
「討って……滅びるわけなのだがな……ディアノスには済まない事をした……ここは滅び、毒地になるだろう……」
陛下はゆっくり目を閉じた。死を悟っている。
「神託なぞ……笑い飛ばすべきであったわ……地獄でディアノスに詫びねばな……奴に言うてやるわ。お前の番は言いつけを守っておるとな、シュガリオン。」
「…気がついて……?」
にやり、と火竜王は笑った。
「良い、擬装であったが、流石に緩んでおったわ……王座はそちに……」
「要りませんよ。興味もない」
「ははっ…だろうな……しかし、この地は巨大な毒沼になろう……」
「それは嬉しいですね。僕の大好きな腐って汚い色の沼ができるなんて!」
さもあらん。もう薬の効果が切れ始めたようだ。
「生きよ、シュガリオン。それがディアノスの望み……」
「言われなくても」
僕はくるりと踵を返した。もう演技も要らない。最後の後始末をしてしまおう。
僕は通い慣れた第二王子レッシュの部屋へ向かった。
レッシュへ近づくにつれ、呪いと毒が強く渦を巻き、僕ですら肌がビリビリする。型通り、ドアをノックした。
「王子、シュガーです」
「入れ」
しわがれた返事が聞こえた。ノブに手をかける回して扉を開いた。瘴気がどろりと溢れてくる。末期だ。先ほどまで生きていた付き人が王子の近くで倒れている。口から血泡を吐いて絶命していた。
何毒で死んだのか気になるが、僕は吹き付ける瘴気の中、王子の側までやってきた。
「王子、お加減はよろしいですか?」
「ああ……ここ数年にない程、清々しい。何か薬を変えたか?」
僕は首を振った。何も変わらない。
「ずっとあった頭痛が嘘のように消えていてな。左手も動くぞ」
「そうでございますか」
うぞうぞと左手を動かしているのがみえるが、僕の目は優しい。
「今日ならば自由に動けそうだ、シュガー、手を貸せ」
僕は一呼吸置いて
「断る、控えよ」
僕は命令をした。
「な、なにを!薬師如きが、王子である俺にそのような口を…!」
しかし、レッシュは自分の変化に気がついた。
「か、体が……体が……!」
レッシュの体は毒が回りきった。偏頭痛の原因の脳が変化をし、麻痺した腕がなじんだので動き始めたのだ。毒と親和した体に変化し始めていた。
「わかるかい?レッシュ。新しい毒竜の誕生だ」
僕は限りなく優しい声で教えて上げる。
「は…何を言って……」
「口を慎みたまえ、上位眷属に頭をたれよ」
レッシュの中に新しく組み込まれた力が、シュガーの存在を恐れて、這いつくばった。
「だが、祝福しよう。新しい毒竜の誕生を!千年の孤独を!火竜は死んだ、新しいヴェノの末席に加わる事を許そう」
この時を以て火竜の都は毒に沈み、ディアノス・ヴェノの復讐は成った。
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