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赤い竜

8 腐ったスライムの死体を煮詰めたような

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 第二王子の薬を作りながら、僕はある事に気がついた。毒が変化して来ているって。解毒剤として作り続けているのは確かに弱い解毒剤だ。僕にとっては試作品とたいして変わらないくらいの効き目なのだが、僕の男を殺した奴にもっとよく効いてすぐに治る薬がありますよ、なんて教えてやる義理もない。

 ただ、生きるため、殺されない為に使える薬屋の皮を被っているだけなんだから。
 王子の体を触診する機会に気がついた。巡る血の中に、黒い呪いが紛れていることに!
 凄い、やっぱり僕の旦那様はスパダリだ。なかなか死なないと思って、毒まで変容させて来た!しかも死んでもなお、相手を毒殺しようとしてくるなんて!

 重くて、嫌らしくて気持ち悪くて最高だ!

 3000年の童貞を卒業して、これから始まるイチャイチャ甘々生活を1日目で強制終了させられた恨みは深いよなー分かるよー。僕だって散々慣らして1日しか使わなかったんだからね。もうがっかりだよ。

 あの黒いモノはなんなのか、夜に小屋に戻って考えていると、すぐに分かった。僕にだけ優しく輝いて見えた毒の血が染み付いた大地から、何が黒くて粘性のドロリとしたものが滲み出ているではないか!
 はっきりいって汚くて、嫌悪感しか感じないがーーそっとその黒くて汚くてドロリとした、腐ったスライムの死体を煮詰めたような気持ちの悪いものに、恐る恐る指を近づけてみる。
 それは小刻みにブルブルと震え、僕の指に寄って来て…なめくじのような粘体でちゅるんと巻きついた。

 か

可愛いいいいーーーー!

 そっと持ち上げると、ブルブルと気持ち悪く震える。しかし、僕には分かる!この子は喜んでいると!

「色も黒いようでいて、腐った色で…ああ~可愛い!臭いはなしっと…」

 鼻を近づけると、風がかかるのが嫌なのかブルブルする。

「明確な意識はなくて、原生生物っぽい…呪毒だ。はーやっぱ最高!」

 呪い毒に進化させるなんて、相当恨んでるんだなぁ…可愛すぎる。
 そしてこの子の可愛すぎる所はーー僕以外の全てを呪って毒にしていく所だ。

 この子が染み出して来た大地も真っ黒にただれている。この子は火竜達が住む大地を呪っている。少しづつ少しづつ、大地を腐らせていた。
 僕が居たから、近くから集まってきて、気持ち悪いなめくじみたいになって、指にくっついている。
 流石ディアノスの血から生まれて変化した呪い。僕の事が好きすぎるんだなぁ~ホント可愛い!ずっと遊んでいたいけど、誰かに見られたら厄介だから、大地に放してあげる。
 元気に呪い腐らせておいで!応援してやると、また気持ち悪くぶるんと震えて染み込んで行った。可愛すぎる!

 この僕以外には気持ち悪くて、最高にタチの悪い毒が、細かく第二王子の血の中に溶け込んで身体中を巡っている。もって3年だろうか。
 あの時生き残った火竜達も同じような事が起こっていたはずだ。

 ディアノスに手を出した方が悪い。火竜達に何もしていないディアノスに前触れもなく、突然大勢で襲いかかって来た方が悪い。
 殺しに来たんだ、殺される覚悟はあったんだろう。
 ああ、早くこんな所から逃げ出して僕たちの巣に帰りたいよ、猛毒の沼地だけど。汚い色の鱗を大切に抱きしめながら、その日は眠りに落ちた。

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