上 下
10 / 15

10 分かれた袂

しおりを挟む
「げっ!」

「やあ……夕陽、久しぶりだね」

 朝陽と久しぶりに顔を合わせた夕陽は、思わず変な声が漏れた。

「あ、兄貴だよな?な、何があったの??何もしてねーよな!俺と違って!!」

「……」

 朝陽は目を伏せる。その朝陽は真っ青な顔をしていて、目は落ち窪み死人に近い。同じ歳なのに、夕陽よりグッと老け込み、30も半ばのようになっている。
 自力で歩くことも出来ないのか、レイアの兄だという騎士に抱き抱えられていた。

「マジでどうなってんだよ!本当に兄貴かあ?なんかやばい事に手ェ出したの??俺、勇者何だけど??勇者の兄がやばいとかマジ勘弁してよー!!」

「っ!貴様ぁ!」

「アストル、やめて」

 夕陽に掴みかかろうとする第二王子のアストルを弱々しく止めて緩く微笑んだ。

「魔王、倒してくれてありがとう、夕陽。帰ろうか……」

「……帰るけど、そんな格好で帰るの?母さんになんて言うの?!何もしないで遊んで、勝手に体壊したんでしょ?!ったく兄貴のくせに何やってんだよ!」

「夕陽っ!!朝陽様に……贄の勇者様になんて事を言うんだ!!」

「レイア??なんで朝陽に様なんてつけんのさ、朝陽は何にもしてなかったんだよ??」

 更に口を開こうとしたレイアを朝陽は手を上げて制する。

「夕陽、帰るんだ、ろ?」

「あ、ああ!こんな世界もうやだし。兄貴も帰るんだろ?でもそんな格好で帰れんの??」

「……帰る、つもり」

 まあ、良いや!夕陽はそう言い、

「さあ!もう良いでしょ!元の世界に返してよ!」

 命を捧げる魔導士が10人、自らの命を使って、元の世界へ繋がる魔法陣を作り出す。

「夕陽。いつもお前はそうだった」

「朝陽?どうしたの?」

 静かに口を開く、朝陽を振り返る。

「俺がどうやって何をしているかなんて、どうでも良いんだろう?弟の特権かな?たった何分かこの世に出るのが遅かっただけで」

「朝陽、どうしたのさ」

「もう、良いよな?お前に全て吸い取られる人生、もうやめても良いよな?」

「あ、朝陽?」

「ナイアス。俺はこの世界に残る。夕陽だけ帰してくれ」

「分かった」

 良いのか、そう聞かなかった。ある程度予想していたのか、魔導士達が魔法陣を書き換える速度はとてつもなく早かった。

「両親の期待とか、将来とか、全部お前に託すよ。これからは全部一人でやってくれ。俺の上前なんかはねずにさ。俺はこの世界で俺みたいな贄が選ばれないように見守って行く」

「な、な、な、何?!どう言う事?!」

 夕陽は帰り、朝陽は残る。この決断を決めた時、夕陽に吸い取られていた朝陽の力が全て朝陽に戻ってくる。

「え?え??」

「ああ、これが力、なんだ」

 それ以上に夕陽の力も朝陽に上積みされる。

「え?何?!俺の力が、あ、朝陽に?!」

「今まで、俺の力を吸い取ってたのは夕陽だろ?どうだった?何もしなくてもレベルは上がったろ?魔法は覚えたろ?全部俺が学んで努力して得た力だよ」

 朝陽の顔色が良くなって行く。年老いたように見えた顔も少し若さを取り戻している。

「お前が受けた傷も一瞬で無くなったよな?俺に来てたんだよ。お前はたくさん魔法も使えたよな?全部俺から吸い取って使ってたんだ……でも、それは仕方がない。そう言うシステムだったんだもんな」

 ジェラールから、地上へ立たせて貰った朝陽の顔はスッキリしていた。

「バイバイ、夕陽。お前と言う枷が無くなって俺は自由だ。お前も俺が居なくて自由だろ?これでよかったんだよ」

「あ、朝陽?!あさひぃ!あにきーー!」

 魔法陣は発動し、夕陽は元の世界に戻り、朝陽はこの世界に残った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺に告白すると本命と結ばれる伝説がある。

はかまる
BL
恋愛成就率100%のプロの当て馬主人公が拗らせストーカーに好かれていたけど気づけない話

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

溺愛

papiko
BL
長い間、地下に名目上の幽閉、実際は監禁されていたルートベルト。今年で20年目になる檻の中での生活。――――――――ついに動き出す。 ※やってないです。 ※オメガバースではないです。 【リクエストがあれば執筆します。】

伯爵家のいらない息子は、黒竜様の花嫁になる

ハルアキ
BL
伯爵家で虐げられていた青年と、洞窟で暮らす守護竜の異類婚姻譚。

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

王子様のご帰還です

小都
BL
目が覚めたらそこは、知らない国だった。 平凡に日々を過ごし無事高校3年間を終えた翌日、何もかもが違う場所で目が覚めた。 そして言われる。「おかえりなさい、王子」と・・・。 何も知らない僕に皆が強引に王子と言い、迎えに来た強引な婚約者は・・・男!? 異世界転移 王子×王子・・・? こちらは個人サイトからの再録になります。 十年以上前の作品をそのまま移してますので変だったらすみません。

【完結/R18】俺が不幸なのは陛下の溺愛が過ぎるせいです?

柚鷹けせら
BL
気付いた時には皆から嫌われて独りぼっちになっていた。 弟に突き飛ばされて死んだ、――と思った次の瞬間、俺は何故か陛下と呼ばれる男に抱き締められていた。 「ようやく戻って来たな」と満足そうな陛下。 いや、でも待って欲しい。……俺は誰だ?? 受けを溺愛するストーカー気質な攻めと、記憶が繋がっていない受けの、えっちが世界を救う短編です(全四回)。 ※特に内容は無いので頭を空っぽにして読んで頂ければ幸いです。 ※連載中作品のえちぃシーンを書く練習でした。その供養です。完結済み。

処理中です...