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2 誰が為の勇者

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 そんな馬鹿な事が。朝陽は信じたく無かったが、すぐに思い知らされる。

「俺、この世界を救う為に頑張るね!魔法の練習でもしようかな!」

 夕陽が魔法を練習し始めたのだ。

「あうぅ……っ」

 かくん、と全身の力が抜けた。そして物凄い目眩。

「朝陽様っ!!」

 近くにいた騎士が駆け寄って、朝陽は床に倒れる前に抱き留められる。

「始まった!朝陽様を寝室に!」

「魔力欠乏だ!ポーションを大量に!」

 真っ青で肩で息をしている。

「くそっ!表の奴ら最初から何をさせるんだ!!」

「朝陽様が死んでしまう!」


「夕陽さま!おやめください!最初からそんなに魔法などお使いにならないでくださいっ!!」

「えー!だっていくら使っても疲れないもん!大丈夫、大丈夫ー!早く魔族って奴をやっつけた方が良いんでしょ!」

 周りの静止など聞かずに夕陽は一生懸命に魔法の練習を繰り返した。

「はー!疲れた。俺ってチートじゃん?初日からこんなに出来るなんて!」

「む、無茶は、無茶はおやめ下さいっ!!」

「はーい」



「朝陽様!朝陽様ぁ!!」

「精神力委譲だ!急げ!」

「わたくしの命を使ってください!」

「ポーションを!最上級の物を!!」

 朝陽は命を失う事は無かったが、生きる事に絶望した。


「朝陽様の経験も全て夕陽様に吸い取られます。つまり朝陽様が学べばその分夕陽様が強くなり……魔族討伐が早まる……」

「……俺に苦労ばかりしろって言うんだね……」

 朝陽の目は絶望の真っ黒に染まっていた。

「申し訳、ございません……っ」

「謝るしか出来ないんだね」

「そうでございます」

 贄の塔の人達は全員血の涙を流している。朝陽を生かす為に死んでいく者も大勢いる。

「俺を殺してーーー!」

 朝陽は叫び


「今日も勇者として頑張るぞ!」

 夕陽はにこにこと宣言する。夕陽のやる気を無くさぬように、朝陽のとこは丁寧に隠される。夕陽以外、全員が朝陽に多大な負担をかけて居る事を知っているから。
 そしてそこから解放してやるには魔族を倒すより他ないと知っているから。

「俺、経験値2倍のチートあるかも」

 それは朝陽が得たはずの経験値。

「覚えてない魔法使えるし!天才?!」

 それは朝陽が学んだ魔法。

「怪我とか一瞬だよな!」

 夕陽が負った怪我は朝陽に。

「昨日変なキノコ食べたけど、俺ってば丈夫!」

 朝陽は意識が混濁し、生死の淵を彷徨った。

「勇者ってすげー!」

 突然やってくる痛みや怪我に、夜も眠れず、朝陽はどんどん病んで行く。

「殺して」

「申し訳、ございませんっ」

 涙ももう流れない、枯れてしまった。それでも少しでも早く魔族討伐のため、朝陽は懸命に本を読み、剣を振る。



「何もしてなくても、剣が上手くなるとか勇者ってすごいなぁ!」

「お願いですから、無茶な相手にかかって行くのはおやめ下さい!」

「大丈夫!俺が丈夫なの、知ってるでしょ!」

 夕陽の明るい声に、旅の仲間は顔には出さずに罪悪感に苛まれる。きっと今も贄の塔は涙を流しながら、もう一人の勇者の治療に当たっているのだ。

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