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とある令嬢物語

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「んもう!アナベル様ったら!あそこは私を庇って、あの令嬢を断罪するところでしょ!!」

 怒りも露わに、リアンは地団駄を踏んだ。

「私の可愛いリアン!どうしたんだ?!身分が低いと虐められたんだろう!大丈夫、私がついているからね?」

 声真似をしながら、くるりと回る。

「これよ!これ!それなのにー!もうっ!腹が立つわーーー!」

 般若の形相で歩くリアンを生徒達は遠巻きにして、見て見ぬ振りをした。




「交流会ダンスパーティー?」

「そうよ。リアン知らなかったの?」

 寮の相部屋のセルフィがドレスの手入れをしていたので、不思議に思い聞いてみると、そんな答えが返ってきた。

「入学した時から楽しみにしてたのよねー。一部マナーやダンスのレッスンなんだけど、パーティーできちんと振る舞えないと、淑女とは言えないしね」

 セルフィはお気に入りの若草色のドレスを体に当てて、くるりと回った。

「まあ……うちもお金がないから新調は出来ないんだけど、アレンジして着るのよ」

 セルフィも同じ貧乏男爵令嬢である。それでもお気に入りというドレスは、セルフィに似合っていてとても可愛らしかった。

「どうしよう……私、ドレスなんかない……。」

 一応1着だけ持たせて貰ったものはある。しかし、正妻が着古した自分には似合わない真っ赤なドレスだ。
 ピンクの髪のリアンに赤いドレスは合わない。しかしレトレイ家の正妻はそれをわかっていても、この型遅れで古臭いドレスを寄越したのだ。

「なければ制服で良いそうよ。男子は制服が多いんですって」

 そう、女子はほぼドレスという事だ。

「あなたのご自慢の彼氏にお願いしたら?婚約者がいる方は、新しいドレスを送っていただく方も多いらしいわよ?」

 セルフィもリアンの事は好きではない。聞いてもいないのに、「今日のアナベルさまはぁ~とぉーってもお優しかったのぉ~!」なんて毎日聞かせられたら、誰でも嫌になる事だろう。

「えっ!ほんと?!お願いしてみる!」

 ウキウキと明日アナベルが

「良いですよ、どんな最新のドレスにしましょうか?お飾りも一緒に見繕いましょう、リアン!」

 と、言ってくれるのを楽しみに眠りについた。




「え?交流会パーティーですか?」

「ええ!そうなんですよ!」

 アナベルは渋い顔をした。

「そう言えば忘れていたなぁ……。パーティーは苦手なんですよね……しまった」

 ぶつぶつと歯切れ悪く呟くアナベルの顔を覗き込んで、リアンは自分で思っている一番可愛い笑顔を繰り出す。

「それでですねぇ…そのパーティーに着ていくドレスがぁなくてぇ」

「パーティーならエスコートする方をお願いしませんと……」

「それなら、私が!それでですね?ドレスが」

「ふむ。大丈夫、リアンなら上手くやれますよ」

 アナベルはそう言い残し、笑顔で去って行った。

「あれ?あれれ……?」

 くすくす……美しい細波のような笑い声が聞こえる。耳障りだったが、リアンは無視した。まだパーティーまでは日にちがある。なんとかアナベルにドレスを買って貰わないと!!

 どすどすと廊下を歩くリアンの後ろ姿をアルナも見ていた。

「まぁあれが令嬢かしら?」

「あらあら、皆様。そんなことを言ってはいけませんわ。彼女も学んでいる途中なのですよ。ここは学び舎なのですから」

「そうですわね、ほほほ」

「ふふふ!」

 どす黒い足の引っ張り合いは減ったと思う。そしてアルナも前よりリアン男爵令嬢をみてもモヤモヤしなくなった。

「あの噂は本当なのかしら?」

「噂のみを信じるのは危険な事と言いますが、アナベル様のご様子をみると、ねえ?」

 うん、アルナも頷く。そう言われると、そうとしか見えない。

「ですわよね」

 今まで、リアンの事が憎らしかったが、今は落ち着いた気持ちで見る事ができる。そしてやはり

「アナベルさまは素敵ね」

 ほう、とため息をついた。
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