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番外編

59 ヨシュアの結婚 前

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 ジュール・セーブルと妻のマリーは悩んでいた。

 数日前に死んだと思っていた末の息子が帰って来た。喜ばしい!非常に喜ばしいのだが。

「……ヨシュアの将来を決める事だ」

「その通りですね、旦那様」

 今度こそ間違いなく、自分達はヨシュアより先になり死ぬ。何かあったら、絶対にヨシュアを庇う。絶対にだ! 
 そうなるとその後、ヨシュアを慈しんでくれる者が必要になる。

「第一候補で……一応約束をしたのはジュリアスだが……」

「ガザスさんが黙っていないでしょうね」

 何せ死んだヨシュアを諦めきれず、一年もドレスを贈り続けた変態2名である。

「かと言って他の者だと、2人からどのような目を向けられるか」

「ヨシュアは女の子と結ばれたいと言っておりますよ!」

「しかしな……」

 言っていたのはガザス殿だった気がする。

処女でなければ玉はでないのかと思ったが、そうではなかったが。童貞であるから出るのでは?

 ……まあこれには色々思う所があるが、あの御仁を5.6度ぶっ飛ばした。が、気の晴れる事でもなかった。

 なんだと言うのだ!そうではなかった!そうではなかっただと!つまりそれは、ヨシュアをををををををーーー!殺そう。

「旦那様、今はヨシュアの将来の事のお話を」

「す、すまん。思い出して腹わたが煮えくり返ったもので」

「問題は女性と結ばれて、玉がでなくなる事。そもそもヨシュアの事を好いてくれる女性がいるのかと言う事。……その方があのお2人の圧に耐えられるかと言う事……」

「う……」

 ジュールは頭を抱えるしかなかった。

「厄介な者達に見初められたものだな……ヨシュア……」




「ああーーー」

 ヨシュア本人も頭を抱えた。この子はまだ10歳だが、見た目はもう15歳を過ぎているし、中身に至っては30近い者では?と感じさせるくらい達観した所がある。
 ……それほどの体験をさせてしまったのは、親として情けない所である。


「あーーーそうだ。私はレンと一緒に暮らそう!ずっと猫と一緒!それが良い。レンならジュリアスさんにもガザスさんにも負けないし」

「ヨシュア!俺頑張る……うっ!」

「どうしたの?レン」

「ううううっ!!お、俺の中の……が、くっ!暴れるなッス!」

 え?!何?もしかしてこれは!

「ううっ!力が抑えられないっ!暴走してしまうっ!くっ静まれっ…」

 レンの邪気眼が?!片目だったのはそこに邪気眼が封じられていたのか?!?!

「だ、駄目だーヨシュア!逃げるッスーーー!」

「えー!どう言う事ー?!」

 ぼん!と音を立ててレンは大きくなった。

「ふ、ふはは!とうとう交代したぞ!レンめ!なかなか主導権を渡さないから!」

 その人はレンと同じ真っ黒な髪だった。顔立ちはジュリアスさんにかなり似ている。兄弟と言われたら、ああ、そうだね!と納得する感じだ。
 それよりも

ピコっ!ピコっ!

 頭の上に猫の耳があって、自在に動いている。そしてお尻から真っ黒な尻尾が生えていた。
 猫と人間の中間辺りの猫獣人といった感じだ。イージスをみているから分かるけど、レンが人型になった?そんな感じ。

 何より

「旦那様?前が見えませんわ。レンはどうなったのかしら?」

「見るものではない!」

 素早くお父様はお母様を目隠ししていた。

「ふる……」

 服をまず着て欲しいです。ぶらぶらしております。

『みぎゃーー!ルーフェルトに主導権取られたーー!ジュリアス!ジュリアス助けにこーーい!』

  心の中の小さな家にレンが押し込まれている。契約で繋がっているジュリアスにならきっと声が届くはず!
 レンは一生懸命呼びかけた。

 答えはなかった。

『みぎゃーーーー!』


「さあ!ヨシュア!私と結婚しよう!そうしよう!今しよう!」

 ひい!初めて会った猫耳ぶらぶら男に迫られている俺!流石にドン引きだ!

「いいいいやです!その前に誰ですか!レンはどこ行ったんです?!ぶらぶらしまってください!」

「いいと言ったか!よし、決まりだ!」

「言ってないし!」

 俺は猫耳ぶらぶら男に追いかけられる!

「おと……!」

 お父様はお母様の視界を塞いでいるので、両手が塞がっている。確かにお母様に見せて良いモノではない!助けて貰えない!

「ヨシュア!逃げろ!」

「ひぃえーー!誰か!誰か助けてーー!」

「逃げるなーー!」

 やめて!俺は相変わらず体力ないんだ!そんなに走れないんだぞ!

「助けてーー!」

「ヨシュアー!お前の夫を呼んだかーー!」

 ジュリアスさんが前方に現れた!

 あなたは夫ではないが。後方のぶらぶら!前方の変態!絶対絶命の俺!

「うううっ!こっちの方がマシーー!」

 ジュリアスさんにぴょんと抱きついた。

「助けて!猫耳ぶらぶら男に追われてるんだ!」

「良し!任せろ。そして結婚しよう!」

「え、やだ」

 しなっ……ジュリアスさんがしおれた。いや!今はしおれないで!

「あああーー!頑張って!お願い!ぶらぶらが追いつくよ!」

「もう……俺は駄目だ……」

 駄目ってなにさ!

「さあ!俺と結婚を!」

 ぶらぶらが距離を詰めて来た!激しく揺れる!

「いやーーー!それならまだジュリアスさんの方がマシだーー!」

「じゃあ俺と結婚するよな?」

「ぶらぶらとするくらいなら!ジュリアスさんと結婚するーーー!」

「よし来た!任せろ!」

ガン!無造作に振り上げた長い足がぶらぶらにヒットする。

「?!ーーーーー」

 一撃でぶらぶらは沈んだ。嘘、強い。

「で、こいつなんなの?」

「レンが……」

 気を失ったぶらぶら男は、音もなく縮んで行って黒猫に戻った。

「戻った!!レン!レン!大丈夫?!」

 玉をぽろぽろレンに吸い込ませる。

「うう……ヨシュア、すまねぇッス……。兄ちゃんが暴走しちまった。いつもなら抑え込めるンスけど」

「レン……あれは誰なの?レンじゃないよね?」

 色はレンだったけど、顔はジュリアスさんに似ていた。

「あれはジュリアスの兄ちゃんのルーフェルトッスよ。俺の中にいるッス」

「「ええええええ!!」死んだ兄上?!」

 あれ?ジュリーに言ってなかったッスか?聞いてねーよ!と言い合いを始めた。

「俺の中にジュリアスの死んだ家族の幽霊がいるンスよ。だから、ジュリアスんちの秘密も教えて貰えるし、二重詠唱もできるンス!今はルーフェルトが伸びてるからできねッスけどね」

「レン……めちゃくちゃだよー!」

「しょうがねぇッス!俺はヨシュアの役にたちたかったンスから!でも迷惑かけっぱなしッス……」

 俺は黒猫を抱き上げて頬擦りした。可愛い奴め!

「馬鹿な事言わないで、レン。お前は最高の猫だよ。ずっと側にいてよね!」

「ヨシュアーーー!」

 レンはいつでも俺を元気にしてくれる、最高の相棒だ!



「旦那様、わたくしはいつまで目隠しなのでしょう……」

「あ、すまん」



「男に二言はないよな?な?な?な?」

「うう……騙された感じがする」

 確かに言った。言ったけど!ぶらぶらよりマシだって言うだけで!

「ジュリアス様、ヨシュアはやはり女の子と結婚したいと言っておりますし……」

「そうだぞ、ジュリアス。ヨシュアと結婚してもヨシュアは子供が産めないんだ。君の子供はさておきとしても、ヨシュアの子供が見られないのは寂しい」

 お父様は意外と辛辣だった。

「ではこうしましょう!ヨシュアに好きな女性が出来て、更にその女性もヨシュアの事を好きになったら、結婚を解消して、その女性と結ばれる。それまでは俺と結婚!」

「え?良いの?」

「良くない!良くないけど!そうでもしないと嫌だって言うんだもん……!」

 口を尖らせてもあまり可愛くないジュリアスさんだが、そんなに俺に甘々でいいのか?俺の都合良すぎない??

「それでも良いなら……」

 思わず頷いてしまった。お父様もお母様もそれなら、という事になる。

そして大きな問題はーーー




「分かった」

「良いんだ?」

 神聖結界内のソール家の居心地の良いサロンでガザスさんはお茶を飲みながら同意した。

 凄く意外!絶対暴れると思ったのに!

 それにしてもこの人、神聖結界をなんだと思ってるの?少しはダメージ受けなさいよ!

「その代わり、俺が2番目の夫ね?」

「2番目とか?!」

 あるの?!

「あるだろ!」「ねーよ?!」

 ぐぬぬぬぬ!2人はおでこを突き合わせて押し合っている。意外と仲良しじゃないの?

「んで?ヨシュアが本当に愛し合う人と巡り合ったら、離婚するって?」

「ああ、それがヨシュアの望みなら!」

 ふーん?ガザスさんは腕組みをする。

「ヨシュアの好みってどんな女?」

 話を突然振られた。

「えーと、背はそんなに高くなくて」

「高くない」「ちょ?!」

「顔は優しい方が良いかな?」

「優しい……」「え?!」

「やっぱり少し出ている所は出てて」

「ふんふん」「マジか……」

「髪の毛は長い方がいいな!女の子っぽいでしょ!」

「こうか?」

「え?」

 顔を上げると、俺が言った理想の女の子が目の前にいた!うそ!
……でもなに、この違和感……。

「んっんーーあー!ヨシュア君♡」

「え……」

 まさか……。ジュリアスさんを見ると首を横に振った。有事の際に備えて一緒にいたお父様はぽかんと口を開けている。
 お母様は

「あらあら……凄いのね」

 だ。

 この可愛い声で俺を呼ぶ理想の彼女は……頭に角が生えていて、さっきまてガザスさんがいた場所に立っている。

 まさかまさか…まさか…!

「私と結婚しましょ♡ヨシュア君♡」

「が、ガザスさん……なの……?」

「外見だけならいくらでも変えられるしなー!どうだ?」

 どうだじゃねぇよ!このすかぽんたん!俺の可愛い夢を打ち壊しやがってええええ!

「ジュリアスさん、俺、凄く悲しい」

 ジュリアスさんは黙って頭を撫でてくれた。しくしく……。これから先、理想の子を見つけても、必ず怪しまなければならなくなったじゃないか……。



 


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