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56 天才で最強

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 魔王様は部屋にいると言う。その部屋の扉の前に俺は立っている。

「ヨッちゃん、どうするの?」

「ここで良いよ。サーたん」

 サーたんは毛布をたくさんかぶせてくれた。

「床の上に直接座っちゃ駄目よ?」

「分かった」

 サーたんは本当に俺の好きにさせてくれた。
置いてくれた毛布の上にちょこんと乗った。お腹は痛いが寒くはない。

 魔王様に消えろと言われたけれど。

多分だけど、きっとだけど。

 ガチャリと扉が開いた。

「入れ」

「はい」

 部屋の中は荒れていた。カーテンは破れているし、窓はほとんど割れている。家具で無事なものは1つもない。
 掛かっていた絵は原型が分からない程に裂けている。

「座る所がないですね」

「こっちへ」

 唯一生き残っていた椅子がいた。その椅子に魔王様が座り、その膝の上に俺が乗る。
 どうなのかと思うが、この際どうでも良いか。

「庭でアヴリー様に会いました」

「誰?」

 やっぱり忘れてる。興味なさそうだったもんな。

「あなたの封印が解かれるきっかけを作ったこの国の元王太子です。親友って言ってましたよ?」

「知らんな。封印は年月が立って緩んでたから、俺が自分で出てきただけだ。俺に親友なんて居ない。」

 あ、そうなんだ。聖女が居なくなったから、出てきたって言うのはなんなんだろう。アヴリー様をいじめる方便?
 まあ本当にそうなら、ルルカお姉様を連れて王都をでた俺たちの罪悪感も薄れるなぁ。

「そうなんですね。俺、あの人の事結構嫌いだったんですよ。でも、許せちゃいました。そしたら玉がぽろぽろーって出て、ちょっと王子様っぽく戻りましたよ」

「どうでも良い」

「はい」

 膝の上に座ったまま、俺と魔王様は無言だ。なのに魔王様は俺の腹を撫でている。どうにもならないのに。
 俺が玉を操れないように、魔王様も呪いを操りきれていないようだ。

「お前は俺が憎い」

「んー…」

「お前は俺が嫌い」

「んー……」

「お前は俺から逃げたいだろう!」

「今更ですね、明日にも死んじゃうのに」

 ふぅ、俺は息を吐いた。少し疲れて来たのかも。

「ヨシュア、死ぬのか」

「はい」

「俺に殺されるのか?」

「そうなりますね」


「……死ぬな」

「無理っぽいです」


「死ぬなよ」

「手遅れだって」


 短い会話は途切れた。はは!魔王様め!

「魔王様、知ってます?俺って人間なんですよ。魔王様の敵なんですよ!」

「そうだな……すぐ死んでしまう人間だ」

「だから死ぬ前に人間の敵であるあなたをやっつけてから死のうと思います」

 にこっと笑った。

「すぐ死ぬお前に何が出来る?」

「俺に出来る事は一つしかないです」

 ぽろぽろと玉がこぼれた。それはたくさん出て来て、魔王様に吸い込まれて行く。

「知ってました?魔王様は玉のせいでだいぶ弱っちくなってるんですよ!……たかが人間に死ぬなって言っちゃうくらいに」

 ふふん、鼻を鳴らしてみる。

「だから俺が死ぬまで側にいて、玉を吸わせてやります。どうです?良い考えでしょう?」

「お前は、家族の所に帰りたくないのか?」

「俺が魔王様をやっつけて置いた方が、家族は長生きできるでしょ?」

 俺は自分の天才的な考えに、目眩すらしそうだよ!ふふん……血が足りなくて貧血になってるんじゃないぞ?決して!

「帰りたいだろう……。いや……ヨシュア、お前は天才だな」

「ふふっ、そうでしょう!」

「でも、どうするんだ。俺の前では玉が出せないんじゃないのか?」

 甘い!甘いぞ!魔王様!実際さっきも出しましたよ?お忘れかな?

「それがねー見てくださいよ、いっぱい出せるんですよー」

 ぽろぽろ、ぽろぽろと玉はこぼれ落ちる。アヴリー王子の時と同じだ。前は出なかったけど、今は出せる。それはそんなに嫌いじゃなくなったから……。

「どうですか?びっくりでしょう?」

「はは!凄いな。研究もたくさん出来そうだ!」

 ごほっ、咳が出た。あー何か拭くものが欲しいなぁ。手が汚れちゃったよ。

「研究するなら、お早めに」

 魔王様は顔を辛そうにしかめた。

「……研究は後で良い」

 俺にぎゅっと抱きついてくる。ほらね、俺の玉の効き目凄いでしょう?あんなに強い人が、俺にすがってんだよ。

「やっつけられそうでしょう?」

「ああ、ヨシュアは今まで相手をしてきた中で1番の強敵だな」

 ふふふ、やっぱりね!魔王様をやっつける為にも、最後まで一緒にいてあげるよ!



だから、そんな泣きそうな顔をしないで。





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