上 下
25 / 71
新しい土地

25 お前だったのか

しおりを挟む
「自分好みの服を、好きな相手に着せるのは良いものだな!」

 ジュリアスさんはご機嫌だ。俺は隊長さんの血でべったり汚れてしまったのでお風呂を借り、着替えも借りた。

「風呂だな?俺も一緒に「却下」」

 レギルさんは早い。たくさんのメイドさんに風呂にかつぎ込まれ、優しく優しく隅々まで磨かれ、香油を塗られ、俺は高級人形も色々辛い思いをしてるんだなぁと、しみじみ思った。
 あと、お尻の穴まで洗おうとするのは、ほんと勘弁していただきたいッッ!

 白くてスベスベした高級そうな服を上から下まで着せられて戻って来た時には、もうぐったりしていた。
 自分で自分の玉を食いたい……だがこの玉、自分には効かないんだった……。

 戻るとほぼ死んでいた隊長さんが床にひれ伏している。良かった死ななくて。
 憮然と機嫌の悪そうなジュリアスさんの膝の上に座らされ、やっとレギルさんが説明してくれる。

「ヨシュア様色々驚かれたとレン殿から聞いております。すいませんでした」

「は、はい……」

「マロードと、帝国では色々な差があります。先程、警護失格の責任を取ったのは親衛隊の隊長です。あのような無礼者が陛下のお体に触れるなど、あってはならぬことなのです」

 その陛下?は俺の頭をくんくんしながら、半ズボンから出ている足を触っているのだが?やめて!くすぐったい!

「ぶつかっただけに見えましたが、それでもダメなんですか?」

「そのぶつかって来た相手が暗殺者かどうか見分ける術は、なかなか難しいことだとは思いませんか?」

「……」

 頭のてっぺんから首までくんくんくんくんしているがこの人は皇帝陛下だった。いまいちピンと来ない。

「……レン殿。あの調子に乗っている男の手をちょっと引っ掻いてきてくださいませんか?」

「任せろッス!」

 ジャキーン!とばかりにレンは爪を光らせた。


「っくぅ~!我が妃「え、やだ」「……」予定が殺すなと言うから生かして置いてやるが、2度目はない」

「陛下と正妃様の過分なるご配慮に感謝のしようもございません!今後はこのような事はないよう、誠心誠意勤めて参りますっ!」

 額を床に擦り付けたまま、隊長さんは言うけど、この真面目そうな人までからかっちゃダメだろう!

 信じたらどうするのさ!皇帝陛下は8歳の男の子に夢中ですって言うのか??なんだっけ、ロリコン?しっかりしろよ!陛下!変な噂が流れちゃうぞ!

 この「隊長さん危なく死んじゃう事件」のせいで庭遊びは中止になった。

「庭……まさか翠花の庭の……翡翠池……?まさか泳ぐ宝石、翡翠鮎を捕まえて食べようとしていた……?」

「あの緑の魚、美味いんだよなー」

 レギルさんが変な汗をかいている。食べちゃダメなやつなのでは……?

「い、いつから……?」

「うーん?兄上が生きてた頃から?あの魚が美味いって教えてくれたの兄上だぜ?」

「……翡翠鮎減少と、翠花の庭の小火事件の犯人を一度に見つけてくださり、誠にありがとうございます……ヨシュア様」

「え?!私?!」

「陛下は後でお話があります……ふふふふ……翡翠鮎は1匹100万ギルの高級魚ですから、さぞや美味しかったでしょうね……ふふふ……うふ、ふふふふふ」

「ひゃっ?!」

 よよよよよ良かった!食べなくて!なんてもの食べてるの!ジュリアスさん!

「100万ギルかー一回食ってみたいッスねー」

 やめてよ!レン!君は一匹100ギルのサマンの丸焼きが最高だって言ってたじゃないか!

「だよなー食ってみたいよなーヨシュアも食うよな?」

 俺は首が吹っ飛ぶくらい激しく横に振って否定の意を伝えた。勢いで飛んで行った玉がレギルさんにビシバシぶつかって、吸い込まれて行く。

「レン殿も一緒にお話しましょうね?」

 もの凄い良い笑顔のレギルさん。あの程度の玉じゃダメみたいだ….。レギルさんに向かって玉を転がしておこう……。
 レン、生きて帰って来いよ?



「そろそろ帰らなきゃ」

 いつしか陽は傾いている。夜になる前に帰らないとお父様が心配する。

「いーや、無理だな」

「え?」

 何言っちゃってるのこの人。初デートでお泊まりなんてないわー。お父様が心配のあまりハゲ上がったらどうしてくれる?ふさふさだけど……。

「行こう、特別図書館だ」

 ジュリアスさんにまた抱き上げられ、肩にレンを乗せて、俺は例の地獄の図書館へやって来た。

 重厚な両開きの扉を開けると、中からひやりとした空気が流れ出す。中は明るいが自然の光りは差し込んでおらず、柔らかい光を放つランプが所狭しと吊り下げられていた。

「ようこそ……特別図書館へ……許可証はお持ちか…?無ければ即刻お帰り願おう……」

「ひい?!」

 真っ暗な扉の横の受付から半透明な男がこちらを睨みつけている!怖い!お化けじゃないか!

「マルクス、俺だ」

「あ、すいません陛下でしたか。どうぞどうぞ」

 態度違う!

「爺とカレル殿は?」

「父とカレル殿とイージス殿は議論室2番です」

 半透明なマルクスさんはお化けなのにニコニコと上機嫌だ。ん?父??

「ジュリアスさん、マルクスさんが父って……」

「ああ、マルクスはマクドルの息子だったんだ。ほら、来る前に爺が言ってただろう?ここから出たくなくて本になっちまった「賢者」がいるって」

「へへっ、僕でーす」

「わあ」

 突っ込みどころが多すぎてパンクしそうだよ!

「ここです。父上ー陛下がいらっしゃったよー」

 かちゃっと小さな音を立てて、議論室のドアを開けると、マクドルさんとカレル兄様と……もう1人、なんか凄い美形が居た。 

 誰よ……?


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

【完結】攻略は余所でやってくれ!

オレンジペコ
BL
※4/18『断罪劇は突然に』でこのシリーズを終わらせて頂こうと思います(´∀`*) 遊びに来てくださった皆様、本当に有難うございました♪ 俺の名前は有村 康太(ありむら こうた)。 あり得ないことに死んだら10年前に亡くなったはずの父さんの親友と再会? え?これでやっと転生できるって? どういうこと? 死神さん、100人集まってから転生させるって手抜きですか? え?まさかのものぐさ? まあチマチマやるより一気にやった方が確かにスカッとはするよね? でも10年だよ?サボりすぎじゃね? 父さんの親友は享年25才。 15で死んだ俺からしたら年上ではあるんだけど…好みドンピシャでした! 小1の時遊んでもらった記憶もあるんだけど、性格もいい人なんだよね。 お互い死んじゃったのは残念だけど、転生先が一緒ならいいな────なんて思ってたらきましたよ! 転生後、赤ちゃんからスタートしてすくすく成長したら彼は騎士団長の息子、俺は公爵家の息子として再会! やった~!今度も好みドンピシャ! え?俺が悪役令息? 妹と一緒に悪役として仕事しろ? そんなの知らねーよ! 俺は俺で騎士団長の息子攻略で忙しいんだよ! ヒロインさんよ。攻略は余所でやってくれ! これは美味しいお菓子を手に好きな人にアタックする、そんな俺の話。

イケメン王子四兄弟に捕まって、女にされました。

天災
BL
 イケメン王子四兄弟に捕まりました。  僕は、女にされました。

拾われた後は

なか
BL
気づいたら森の中にいました。 そして拾われました。 僕と狼の人のこと。 ※完結しました その後の番外編をアップ中です

尊敬している先輩が王子のことを口説いていた話

天使の輪っか
BL
新米騎士として王宮に勤めるリクの教育係、レオ。 レオは若くして団長候補にもなっている有力団員である。 ある日、リクが王宮内を巡回していると、レオが第三王子であるハヤトを口説いているところに遭遇してしまった。 リクはこの事を墓まで持っていくことにしたのだが......?

処理中です...