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新しい土地

24 ジュリアスさん

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注意)残酷/流血描写があります。苦手な方は回避お願いします。

ーーーーーーーーーーーーーー


 ジュリアスさんは進む。大股で、俺を抱っこしたまま。すれ違う人、すれ違う人、皆頭を深く下げてからばっと振り返って俺を見る。
 分かるよ。陛下が知らない子供を抱っこして歩き回っているんだもんね。

「あの、自分で歩けるので下ろして」

「……いや、ダメだ」

 ジュリアスさんは、人の目をしっかり見て話すタイプの人だ。でも今はなぜか遠くを見て、俺を見ていない。
 何か気になる事があるんだろうか。視線はすぐに前を向き、俺を抱き上げる腕に少しだけ力が入る。歩く歩幅が少しだけ広くなって、磨かれた床を踏む靴の音がやけに響く。
 俺の肩の上に乗っていたレンの耳がくるんと後ろを向いて音を捉えたらしい。

「陛下!お帰りになられたのですね!わたくし、ずっと陛下のことをお待ち申し上げておらはましたのよ!それなのに陛下ときたら、いつも朝早くから、お出かけに」

 後ろから女の人の声がする。しかしジュリアスさんは完全に無視をした。話しかけられているのは自分ではないという顔。
 良いのかな……?

「陛下!陛下!!お待ちください!わたくし!陛下の事を!是非、父のお話を聞いて頂きたく!お待ちくださいッ!」

 早足で歩くジュリアスさんに追いつくのはドレスをまとった女性には難しい事だ。それでもその女の人は必死で声をかけ、追いかけてくる。
 その鬼気迫る様子に俺は少し怖くなった。

「あの……良いんですか……?」

「何がだ?ああ!どこに行くか言ってなかったか?俺の家になかなかでかい庭があってな?そこに池があって魚がいっぱい泳いでるんだ。捕まえて焼いて食おうぜ」

「おっ!俺、焼いたやつ好きー!10匹は食えるッスよ!」

「猫は魚が好きな奴が多いって本当なんだなー」

 いつもの、俺の知ってるジュリアスさんが目の前に居る。豪快に笑って事あるごとに俺をからかう。
 でもいつもと違うのは

「陛下ッ!陛下ぁ!お待ちくださいっ!どうか!どうか!お話を……ッ!」

 名前も知らないドレスの女性は、必死で駆け寄り……磨き上げられた床に足を取られた。

「あっ?!」

 ドッ!勢い余った女性はジュリアスさんにぶつかる形になってしまった。流石に鍛えてあるジュリアスさんはびくともしなかったが、庭の茂み、物陰から何人もの人が飛び出して来た。

 誰も一言も言わず、ぶつかってしまった女性を取り押さえ、床に引き倒す。

「え」

 突然出てきた男たちに、俺は驚いた。見れば皆お揃いの服……騎士のような感じがする。かっこいい服を着ている!すげえ!あれだ!王様の親衛隊?とかそういう感じがする奴だ!かっこいいなーー!

 その中の1人、一番豪華そうな服を着た人が、ジュリアスさんの前に膝をつき、首を垂れた。

「陛下っ!陛下ぁ!申し訳!申し訳ございません!!どうぞ!お許しをーーー!」

「黙れッ」

 女性は恐ろしい金切り声をあげたが、彼女を取り押さえた騎士が

な、なんだこれ……怖い。

 それ以上、誰も何も喋らなかった。それが何より怖い。

 ジュリアスさんの目の前で、かしこまっていた騎士……だとすると隊長か団長クラスだろうか?その人は青い顔を上げる。
 彼はジュリアスさんを見上げる。俺がジュリアスさんの表情を見る前に、その人は腰に吊っていた短い剣をスルリと抜いた。

 ひえーー?!

 俺がジュリアスさんの服にしがみつくより早く、隊長さんか団長さんか分からない人物はその短剣を逆手に持って

ざっくり、自分の喉を切り裂いた。

 おぅふぅ?!?!?!

 飛び散る血、漂う死の匂い。おれはくらりと気を失いそうになる。な、なにが……何が起こってるんだぁあぁ!
 誰も何も一言も言わない中

「行こうか」

 何事もなかったように言うジュリアスさん。待て待て待て!

「じゅ!ジュリアスさん?!待って!待って!あの人!あの人!!」

「……何をそんなに……どうしたんだ?ヨシュア?」

 のんびり俺に言ってる場合じゃないでしょ!

「降ろして!降ろしてください!あの人死んじゃいます!」

「良いんだよ」

「良くないです!降ろして!お願い!」

「え、やだ」

 何それ!俺の言った言葉真似した?!しかもこのタイミングで?!ないわ!ない!

「降ろしてってば!嫌いになりますよ!」

 すぐ降ろしてくれた。べっとりと血が広がっている。近づくのを一瞬ためらったが、そっと手を伸ばすと、まだ暖かい。
 男の人はヒューヒューと喉から息が漏れて、目はうつろだがまだ死んではいなかった。

 ぽろ、ポロポロ、ぼろろろろろ!玉の大量生産が開始される。

「ほう……凄まじいな!」

 血は元には戻らないけれど、喉の傷は塞がり呼吸は安定した。ふぅ……疲れた。

「大丈夫ッスか?ヨシュア。俺も力が貸すッスけど、やり過ぎは疲れるッスよ?」

「え?これくらいなんともないよ」

 小さい頃ならまだしも、今は大して負担に感じない。


 瀕死がコレで負担もないとは。絶対に他にやれぬな?


「うわ!血!隊長?!死んだ?!」

「生きてますよ!」

 廊下の角から走って来たレギルさんを見て、俺はほっとした。もー何が何だか分からないよ!!

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