【完結】キノコ転生〜森のキノコは成り上がれない〜

後日・その他

1 悋気深して

　悋気(りんき)深い: ライバルに押しのけられることを、疑っている、過度に疑っていること。

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「ふぅ」

　ため息をついている。

「どっこらしょ」

　色気も何もない掛け声で座る。しかしどれも文句をつけるつもりはない。

「うっ」

　斜め前にある机の、少し遠い場所に置かれた書類に手を伸ばし……腹が引っかかって手が届かない。

「むぅっ」

　眉を寄せたが、またもやどっこらしょと立ち上がり、書類を手に取るとまた座る。何事もなかったかのように羽ペンを持って確認し、サインを入れた。
　横顔はいつもと全く変わらないが、背を上に伸ばして体を解す回数が増える。

　数枚サインを終わらせると、ひどく優しい顔をしてぽんぽこに膨らむ腹を愛おしそうに撫でる。

「……っ」

　声をかけようとしたが、小声で

「次こそキノコが詰まってないかなぁ」

　と、呟いているのが聞こえて苦笑した。


「エドヴァルド様っ！」

　乱暴に執務室の扉が開き、メイドが5人ドカドカと踏み込んでくる。

「げ」

　嫌そうな顔をするルドを前後左右からガッチリホールドし

「さあ、約束のお時間です！」

　ずるずると連行する。やっとこっちを向いたかと思えば、助けて！と書いてあるが

「行ってこい」

「ひぃ！」

　送り出すしかない。何せルド付きのメイド長に俺が叱られたばかりだ。

「良いですか？！妊娠中のエドヴァルド様に仕事をさせること事態、あり得ないことでございますからね？！あの方の仕事中毒は目に余るものがございますが、働いていない方がイライラするとおっしゃられて、仕方がなく！許可しているのですからね？！」

　自分より年嵩のメイド長にガミガミと一方的に叱り付けられたが、メイド長の言い分の方が最もだ。
　ルドがあんまりにもほいほいぽいぽい卵を産むもので油断しているが、本来卵とはもっと命がけで産まれてくる。

　……俺の母上も俺を産んだ事が原因で儚くなったと聞いている。

　最近の龍は弱くなった。ピアが言っていた言葉を思い出す。ピアは結局ピアルージェ・ディノ・グラフィード第一皇女として、ゼードラウンに赴いた。
　名目は人質。じゃなかった、社会勉強と言う名の、人質の体を取ったセアン王凌辱大作戦なのだが。
　最近、ルドの元に届いた手紙は書き初めはセアン王からの愛の言葉か綴られているが、途中から恨み言のようになり、最後は助けて！と書かれて、締めはピアの手形や落書きが書いてあり。

私は元気よー！ママ！

　だった。つまり、セアン王はピアに隠れて手紙をしたためていたが途中で見つかり、取り上げられそのまま出す羽目になったと言う事だ。
　我が子ながら強すぎる。あの子たちは間違いなく精霊の入った卵を帝国にもたらすだろう。