上 下
48 / 71
ん?キノコの様子が……?

48 新しい仕事?

しおりを挟む
「マリーがそんな役割を押し付けられたとは」

「色々言いたい事はあるが、マリーベル様の事、俺は嫌いじゃなかった」

 俺にしてみれば最悪なんだが、俺が食ってしまったマリーベル様の事を考えると胸が痛い。
 何せアルトの妹さんだった。俺は妹と言う生物にとことん弱いようだ。マリアンヌちゃんもマリーベル様も。

「で?どうなんだ?」

 頭も痛い。

「俺が分かると思うか?」

「やはり試さねばならんかな?」

「最低だな!!」

 少しは故人を偲べ!……とは思うが占いを信じている帝国皇帝としては気になるんだろう。

「何せ、男が混じったんだからなぁ。本当にその体で子が産めるのか?」

「聞きたくない聞きなくない!!」

 マリーベル様が龍巫女から受けた指示は俺にはとんでもないものだった。

「帝国千年の礎の為にその身を捧げよ。ゼードラウンから来た礎の種はそのままでは子が成せぬ。女の胎が必要だ……」

 とんでもない。しかしマリーベル様は実行してしまった。本当はキノコだけもいで行きたかったらしいが俺が抵抗したからこうなった。
 
 大体、見た目は変わらない俺。しかし、認めたくないが!マリーベル様成分が多大に溶け込んでいる。
 認めたくないが!とても認めたくないが!!!多分、ある。何か今まで無かったものがある……。

 龍巫女ってなんなの!もうやだ!



「でも犠牲になったマリーベルの事を考えると休眠もできないと」

「ううっマリーベル様、何故一言相談してくれなかったんだ……!」

 そうすれば色々方法があったのに……。多分。

「まあ試してみれば分かるだろう?」

 ゾワっとする。こいつ本気か!

「ま、まて!ホムンクルスだぞ!キノコだぞ!しかも毒キノコだぞ!そ、それに子供産ませようなんて馬鹿だろ!アホだろ!どんな合成生物が産まれると思ってんだ!やめろ!顔がキノコのキノコ人間とか出来たらどうするんだ!!!」

「頑張って、俺の子供だと育てるさ」

「変な覚悟決めてんじゃねーよ!!」

 逃げろ!キノコ!今までとは訳が違うぞ!俺は妖怪の母にはなりたくない!というか母にはなりたくない!
 これがマスターに隠し事した罰かーー!いやー!助けてーごめんなさいーーー!素直に素体で体を直して優秀なオスキノコでいたかったー!
 なんで雌雄同体にならなきゃならんのだーーー!……あれ?キノコには元々オスメスなかったか?

「ぜ、ゼルっ!ゼル!や、やめて……」

 思わず涙目で訴える俺に

「?ルド、誘ってるんだ?」

 と、最悪な返事を返して来やがった!このあほがーーー!



「処女だ」

「奥がある」


「陛下、良き子が孕まれました。帝国の繁栄は約束されました」

 最悪だ。

 俺は正妃に格上げされた、最悪だ。最悪の大安売りだ。

「森に帰りたい」

「駄目だ」

「地面に埋まりたい」

「無理だ」

「ジメジメしたところに菌糸を伸ばしたい」

「やめろ」

「胞子で増えたい」

「今夜好きなだけ飛ばせ」

「休眠したい」

「好きに可愛がるぞ」

「……泣きたい」

「ベッドで鳴け」

 頭の上のキノコは傘が開きっぱなしで、もう胞子が残っていない。
 皇帝テイゼルの付き纏いは苛烈を極め、俺は1人でどこにも行けない。
 暗殺の矛先が俺に向き、1度頬をちょこっと斬られてから、王宮の取締りは恐ろしい精度になった。ここの所不埒な輩を見ることはない。
 庭も完璧に美しく、沢山の庭師、しかも帝国全土から集められた緑の手達がそれはそれは美しい庭を作っていて、植物達も大満足だ。

「ゼル」

「……」

 くそっ!



「……あなた、だろう」

 くそめが!

「……っ!あなた!土の精霊王に連絡させてください!」

「……嫌だ」

 心狭いっ!!!
 絶対にどこにも行かないと約束させられて、久しぶりに上司に連絡を取り、思う存分愚痴ってやった。

「……キノコちゃん……スーパーキノコちゃんになったのね……?」

 マリアンヌちゃん、なんか違うわぁ。とりあえず2人とも無事は喜んでくれた。

「大丈夫!キノコの一体や二本、メスになっても森は元気だけど、セアン達には知らせないでおくな!」

「是非その方向でお願いします……」

 
 30日後にぽんぽこりんのお腹から、大きな卵を一個産み落とした。

「立派なお世継ぎです!」

「卵やん……」

「卵ですよ!龍の子ですもの!」

 そう言えばそうだった。

「ルド!でかした!!可愛いな!お前も卵も!」

 卵は薄いピンク色でウスベニ裏毒茸の色だった。

「.…うん、間違いなく俺のだわ」

 凄く納得してしまった。卵ちゃんは色々な人に抱っこされちやほやされ、そして何処かに連れて行かれて戻って来なかった。

「……ゼル、俺には卵に会う資格があると思うんだが……」

「……ああ!そうか、お前は知らないんだったな。こっちだ」

 王宮の奥へ奥へと案内される。初めてくる場所だった。

「俺でもほとんど来ることはない。それほど厳重に管理された場所だ」

 ゼルは中のは人と話をして

「説明のないままに連れてきてしまったからな」

 と、案内してくれた。窓を隔てた向こう側の少し薄暗いが暖かそうな部屋の中に俺のピンクちゃんがころんと鎮座していた。

「ピンクちゃん……触れないのか?」

「すまんな。保卵室に入れたら、よほどの事がない限り出せないんだ。全て卵を守る為だ」

 そうなのか……卵をみると、特に不満も無さそうで、すやすやと眠っている……気がする。

「昔はたくさんの卵でこの部屋も埋め尽くされていたらしいが、今は俺たちの卵が1つきりだ。ルドが産むまで100年、卵は増えなかったからな」

「100年?!」

「ああ、俺が産まれた後、王族の卵は1つもなかったんだ」

「お前、100歳だったのか」

 龍の100歳なんて若い方だ。しれっとゼルは言うが、俺は龍についてほぼ何も知らないと言う事にやっと気がついた。
 忙しくすぎたし、龍と言ってもみんな人型で生活しているから、何も変わって見えないんだよな。

「王族の卵はここで大切に育成され、卵が必要だと感じた時に、割って出てくる。必要を感じなければ何百年でも眠り続ける」

「そうなのか……」

「昔の龍は卵を産んで放置だったそうだ。龍の数が減って来てからは皆、育てるようになったそうだが」

 産みっぱなしで大きくなるのはすごいな。

「この卵が孵るのはいつか誰にも分からんが、お前が生きてるうちに会えると良いな」

「……そうだな」

 お前と違ってキノコは100年も生きたりしないだろうからな。

 次に会えるかどうかも分からない卵ちゃんに手を振って別れを告げた。名残惜しいがそう言うものならば仕方がない。

 中身はちゃんと龍が詰まってると良いな。キノコだったらごめんな?流石にそこまで責任取れないからなあ。


 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

神獣ってモテますか?(モテないゲイは、魔法使いを目指す!@異世界版)

ビーバー父さん
BL
モテないゲイは、魔法使いを目指す!のシリーズ? 少しだけリンクしてます。 タイトル変えました。 片思いの相手が、実は自分をイラつくほど嫌っていたことを、大学の不合格の日に知った。 現実から逃げるように走ったら、何かにぶつかって、ごろんと転がったら知らない世界でした。 あれ? これ、ラノベとか漫画にある感じ? 神獣として生まれ直して新しい生を送る アホな子を生ぬるく見守ってください。 R18もしくは※は、そう言う表現有りです。

距離を置きましょう? やったー喜んで! 物理的にですけど、良いですよね?

hazuki.mikado
恋愛
婚約者が私と距離を置きたいらしい。 待ってましたッ! 喜んで! なんなら物理的な距離でも良いですよ? 乗り気じゃない婚約をヒロインに押し付けて逃げる気満々の公爵令嬢は悪役令嬢でしかも転生者。  あれ? どうしてこうなった?  頑張って断罪劇から逃げたつもりだったけど、先に待ち構えていた隣りの家のお兄さんにあっさり捕まってでろでろに溺愛されちゃう中身アラサー女子のお話し。 ××× 取扱説明事項〜▲▲▲ 作者は誤字脱字変換ミスと投稿ミスを繰り返すという老眼鏡とハズキルーペが手放せない(老)人です(~ ̄³ ̄)~マジでミスをやらかしますが生暖かく見守って頂けると有り難いです(_ _)お気に入り登録や感想、動く栞、以前は無かった♡機能。そして有り難いことに動画の視聴。ついでに誤字脱字報告という皆様の愛(老人介護)がモチベアップの燃料です(人*´∀`)。*゜+ 皆様の愛を真摯に受け止めております(_ _)←多分。 9/18 HOT女性1位獲得シマシタ。応援ありがとうございますッヽ⁠(⁠*゚⁠ー゚⁠*⁠)⁠ノ

オーリの純心

シオ
BL
【軍人×革命で打倒された国の王子】 ◆ 年上×年下 ◆ 王子を敬愛する軍人×傷付いた王子 ◆ 序盤に暴力(性的表現含む)表現有り 《予告無くR18表現が出てくるので、18歳以下の方は閲覧をお控え下さい》 18世紀ヨーロッパ風の世界観。王国の第四王子であったオリヴィエは、王朝打倒の革命によって幸福な生活を奪われる。果てしない暴力を受け傷ついたオリヴィエと彼を守りたいと願う軍人、テオドール。

蜜空間

ぬるあまい
BL
人気俳優に、おでぶ平凡人。 俺様性格に、ネガティブ。 容姿も性格も正反対な二人。 そんな二人は現実からの逃亡者。 出会いは、密室な空間だった。 ……これから二人の共同生活が始まる。 Keyword:甘/シリアス/鬼畜/無理矢理

性奴隷は泣かない〜現代ファンタジーBL〜

月歌(ツキウタ)
BL
性奴隷として生きた青年の物語です。 完結しました。

恋に臆病な僕らのリスタート ~傷心を癒してくれたのはウリ専の男でした~

有村千代
BL
傷心の堅物リーマン×淫らな癒し系ウリ専。淫猥なようであたたかく切ない、救済系じれじれラブ。 <あらすじ> サラリーマンの及川隆之は、長年付き合っていた彼女に別れを告げられ傷心していた。 その手にあったのは婚約指輪で、投げやりになって川に投げ捨てるも、突如として現れた青年に拾われてしまう。 彼の優しげな言葉に乗せられ、飲みに行った先で身の上話をする隆之。しかしあろうことか眠り込んでしまい、再び意識が戻ったときに見たものは…、 「俺に全部任せてよ、気持ちよくしてあげるから」 なんと、自分の上で淫らに腰を振る青年の姿!? ウリ専・風俗店「Oasis」――ナツ。渡された名刺にはそう書いてあったのだった。 後日、隆之は立て替えてもらった料金を支払おうと店へ出向くことに。 「きっと寂しいんだよね。俺さ――ここにぽっかり穴が開いちゃった人、見過ごせないんだ」 そう口にするナツに身も心もほだされていきながら、次第に彼が抱える孤独に気づきはじめる。 ところが、あくまでも二人は客とボーイという金ありきの関係。一線を超えぬまま、互いに恋愛感情が膨らんでいき…? 【傷心の堅物リーマン×淫らな癒し系ウリ専(社会人/歳の差)】 ※『★』マークがついている章は性的な描写が含まれています ※全10話+番外編1話(ほぼ毎日更新) ※イチャラブ多めですが、シリアス寄りの内容です ※作者X(Twitter)【https://twitter.com/tiyo_arimura_】 ※マシュマロ【https://bit.ly/3QSv9o7】 ※掲載箇所【エブリスタ/アルファポリス/ムーンライトノベルズ/BLove/fujossy/pixiv/pictBLand】

茶番には付き合っていられません

わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。 婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。 これではまるで私の方が邪魔者だ。 苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。 どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。 彼が何をしたいのかさっぱり分からない。 もうこんな茶番に付き合っていられない。 そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。

銀色の精霊族と鬼の騎士団長

BL
 スイは義兄に狂った愛情を注がれ、屋敷に監禁される日々を送っていた。そんなスイを救い出したのが王国最強の騎士団長エリトだった。スイはエリトに溺愛されて一緒に暮らしていたが、とある理由でエリトの前から姿を消した。  それから四年。スイは遠く離れた町で結界をはる仕事をして生計を立てていたが、どうやらエリトはまだ自分を探しているらしい。なのに仕事の都合で騎士団のいる王都に異動になってしまった!見つかったら今度こそ逃げられない。全力で逃げなくては。  捕まえたい執着美形攻めと、逃げたい訳ありきれいめ受けの攻防戦。 ※流血表現あり。エリトは鬼族(吸血鬼)なので主人公の血を好みます。 ※予告なく性描写が入ります。 ※一部メイン攻め以外との性描写あり。総受け気味。 ※シリアスもありますが基本的に明るめのお話です。 ※ムーンライトノベルスにも掲載しています。

処理中です...