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帝国風キノコ
47 マリーベル
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死んだアルトの記憶を俺は切れ切れだが継いだ。
その中の古い古い記憶がうっすらと蘇る。アルト……本名はアルティアス・リンド。リンド伯爵家の次男。出来損ない、期待外れと罵られていた。その妹が、マリーベル。アルトが家を出た時まだ小さかったが、アルトには良く懐いていた。
皇帝テイゼルも小さく、アルトにくっついて歩いていたようだ。……なにが出来損ないだ。ゼルはアルトの事が大好きだった。
アルトの錬金術、ホムンクルスの研究をいつも楽しげに見ていたので理論や術式を覚えていたようだ。
運命は別れ、アルトは家を出る。テイゼルは皇帝として学び始め、認められて行く。マリーベルの様子はその後アルトには届かなかった。
しかし、今目の前で項垂れる様子を見ると上手く行かなかったんだろう。
「エドヴァルド様……エドヴァルド様は、兄の作ったホムンクルスだと言うのは本当でございますか」
突かれたくない所を突かれて来た。顔面にキノコ汁をダラダラ溢したい程の衝撃だが、なんでもない涼しい顔で聞き返す。
「マリーベル様、それを何処で?」
「多少ながらわたくしにも伝手というものがあります。そうなのですね?」
どうしたものか。認めては面倒なことになりそうだが、マリーベル様の目は何かを決意した、追い詰められた者の目だ。
何をするか分からないぞ。
「そうであったのなら、どうするおつもりですか?」
マリーベル様は目を閉じ
「わたくしはわたくしの役目を全うするだけ、なのですわ。お願いします!皆様!」
マリーベル様の護衛が部屋に雪崩れ込んで来た。何事!
「御身、失礼致します!」
俺はあっという間に担ぎ上げられ、秋風宮から第7側妃マリーベル様の宮殿にに連れ去られる。
あまり遠くない距離を駆け抜ける。
お粗末な作戦だ。すぐに秋風宮のみんなが追いかけて来るし、痕跡も残し過ぎている。それでもマリーベル様はやめさせようとしない。
ばたん、と扉は締められ
「地下へ、儀式を始めます」
「姫様!お考え直しください!」
「マリーベル様!」
「良いのです。龍巫女の言葉を聞いたでしょう?」
なんだなんだ??俺は抱え上げられたまま、宮殿の地下へ連れてゆかれる。元々非力なキノコは大怪我で更に弱体化が激しい。
中には大きな錬金術の魔法陣が書かれている。ホムンクルスを作る魔法陣に似ているが少し違う。
なんだ、アレ。俺も見た事ないぞ?
「エドヴァルド様」
マリーベル様は近くに立っていた。
「役立たず、出来損ないと呼ばれる続けたわたくしにしか出来ぬお役目があったのです」
目が悲しげだが、何か吹っ切れた色もある。
「わたくしの決心が遅く、エドヴァルド様にお怪我を負わせる事になった事を誠に申し訳なく思っております」
魔法陣の淵に俺は下ろされた。
「そして、これから行うことはあなた様の望む所ではないかとは思いますが、帝国の礎となられますよう、お許しくださいませ」
嫌な予感がする。後退りしたくても、体が上手く動かない。元々ボロボロな所にとどめを刺されたような状態なのだから。イヤー!ヤメテー!女の子に手籠にされちゃううー!
「姫様!秋風宮の使用人が押し寄せております!」
「姫様!陛下もこちらへ向かわれていると」
「急ぎます」
マリーベル様は魔法陣の外にいる俺に近寄って来た。
「エドヴァルド様、失礼します!」
キノコ!キノコ狙ってる!
「やめてください!」
「エドヴァルド様!そのキノコをお渡しください!」
「だめです!本体なんだから!」
「エドヴァルド様!!」
扉を押さえているマリーベル様の使用人が悲鳴を上げる。
「姫様!扉が持ちません!」
「エドヴァルド様!」
「嫌だってー!!」
キノコを守ってマリーベルちゃんと揉み合いになる。キノコだけじゃなく、俺も魔法陣に入ってしまう。
「ルド!」
テイゼルが扉を壊して入ってきた時に既に魔法陣は発動を始めていた。
「お兄様……」
「マリー!なにを!」
「お兄様…帝国を栄させてくださいませね?」
魔法陣から光が溢れて、俺たちの意識を塗りつぶして行く。
うわーマリーベル様、一体何をしたんだ!
「う……」
「ルド!」
どれくらい寝ていたのか分からないが、俺は目を覚ました。目の前にゼルがいる。
「ゼル…一体何があった……?マリーベル様は……?」
「ルド……」
その瞬間気がついてしまった。俺の中にマリーベル様の記憶がある事を。
「ゼル。俺はマリーベル様を食ったのか……?」
なんて事を……。
「合成された、という感じだ。ルドが、マリーベルを取り込んだ。そんな感じだ。マリーは何故そんな事を」
分かる、マリーベル様の記憶があるからわかってしまう。
「……さあね」
伝えたくないな。しかし、マリーベル様の使用人達は理由を知っている。そちらから聞けば全てバレてしまうが、なるべく言いたくない。
それにしてもなんて事をしたんだマリーベル様は。
「ホムンクルスの素体に自分を使うなんて……」
意味のない作成だ。無から、生物を作り出す理論それが錬金術によるホムンクルス作成の意義だ。
それなのに素体に生物を使ってはなんの意味もない。
「テイゼル、多分分離は出来ない。済まない、幼馴染みだったんだろう?マリーベル様の記憶が俺の中にあるんだ」
「そうか……マリーは何故、アルトの残した研究を使ってあんな事をしたんだ?」
言いたくない、凄く言いたくない。だがバレる。結局こんな事になったのは、俺が五体満足でいなかったのも悪い。
「龍巫女だとよ。使用人が知っている。俺の口からは話したくないな……」
俺の頭に鎮座する本体キノコちゃんをもぎ取ってしまいたいくらい話したくない。
そしたらマリーベル様の命は無駄になってしまうが……キノコをどこまで削り取れば気が済むのかな……。菌糸に戻りたい。
その中の古い古い記憶がうっすらと蘇る。アルト……本名はアルティアス・リンド。リンド伯爵家の次男。出来損ない、期待外れと罵られていた。その妹が、マリーベル。アルトが家を出た時まだ小さかったが、アルトには良く懐いていた。
皇帝テイゼルも小さく、アルトにくっついて歩いていたようだ。……なにが出来損ないだ。ゼルはアルトの事が大好きだった。
アルトの錬金術、ホムンクルスの研究をいつも楽しげに見ていたので理論や術式を覚えていたようだ。
運命は別れ、アルトは家を出る。テイゼルは皇帝として学び始め、認められて行く。マリーベルの様子はその後アルトには届かなかった。
しかし、今目の前で項垂れる様子を見ると上手く行かなかったんだろう。
「エドヴァルド様……エドヴァルド様は、兄の作ったホムンクルスだと言うのは本当でございますか」
突かれたくない所を突かれて来た。顔面にキノコ汁をダラダラ溢したい程の衝撃だが、なんでもない涼しい顔で聞き返す。
「マリーベル様、それを何処で?」
「多少ながらわたくしにも伝手というものがあります。そうなのですね?」
どうしたものか。認めては面倒なことになりそうだが、マリーベル様の目は何かを決意した、追い詰められた者の目だ。
何をするか分からないぞ。
「そうであったのなら、どうするおつもりですか?」
マリーベル様は目を閉じ
「わたくしはわたくしの役目を全うするだけ、なのですわ。お願いします!皆様!」
マリーベル様の護衛が部屋に雪崩れ込んで来た。何事!
「御身、失礼致します!」
俺はあっという間に担ぎ上げられ、秋風宮から第7側妃マリーベル様の宮殿にに連れ去られる。
あまり遠くない距離を駆け抜ける。
お粗末な作戦だ。すぐに秋風宮のみんなが追いかけて来るし、痕跡も残し過ぎている。それでもマリーベル様はやめさせようとしない。
ばたん、と扉は締められ
「地下へ、儀式を始めます」
「姫様!お考え直しください!」
「マリーベル様!」
「良いのです。龍巫女の言葉を聞いたでしょう?」
なんだなんだ??俺は抱え上げられたまま、宮殿の地下へ連れてゆかれる。元々非力なキノコは大怪我で更に弱体化が激しい。
中には大きな錬金術の魔法陣が書かれている。ホムンクルスを作る魔法陣に似ているが少し違う。
なんだ、アレ。俺も見た事ないぞ?
「エドヴァルド様」
マリーベル様は近くに立っていた。
「役立たず、出来損ないと呼ばれる続けたわたくしにしか出来ぬお役目があったのです」
目が悲しげだが、何か吹っ切れた色もある。
「わたくしの決心が遅く、エドヴァルド様にお怪我を負わせる事になった事を誠に申し訳なく思っております」
魔法陣の淵に俺は下ろされた。
「そして、これから行うことはあなた様の望む所ではないかとは思いますが、帝国の礎となられますよう、お許しくださいませ」
嫌な予感がする。後退りしたくても、体が上手く動かない。元々ボロボロな所にとどめを刺されたような状態なのだから。イヤー!ヤメテー!女の子に手籠にされちゃううー!
「姫様!秋風宮の使用人が押し寄せております!」
「姫様!陛下もこちらへ向かわれていると」
「急ぎます」
マリーベル様は魔法陣の外にいる俺に近寄って来た。
「エドヴァルド様、失礼します!」
キノコ!キノコ狙ってる!
「やめてください!」
「エドヴァルド様!そのキノコをお渡しください!」
「だめです!本体なんだから!」
「エドヴァルド様!!」
扉を押さえているマリーベル様の使用人が悲鳴を上げる。
「姫様!扉が持ちません!」
「エドヴァルド様!」
「嫌だってー!!」
キノコを守ってマリーベルちゃんと揉み合いになる。キノコだけじゃなく、俺も魔法陣に入ってしまう。
「ルド!」
テイゼルが扉を壊して入ってきた時に既に魔法陣は発動を始めていた。
「お兄様……」
「マリー!なにを!」
「お兄様…帝国を栄させてくださいませね?」
魔法陣から光が溢れて、俺たちの意識を塗りつぶして行く。
うわーマリーベル様、一体何をしたんだ!
「う……」
「ルド!」
どれくらい寝ていたのか分からないが、俺は目を覚ました。目の前にゼルがいる。
「ゼル…一体何があった……?マリーベル様は……?」
「ルド……」
その瞬間気がついてしまった。俺の中にマリーベル様の記憶がある事を。
「ゼル。俺はマリーベル様を食ったのか……?」
なんて事を……。
「合成された、という感じだ。ルドが、マリーベルを取り込んだ。そんな感じだ。マリーは何故そんな事を」
分かる、マリーベル様の記憶があるからわかってしまう。
「……さあね」
伝えたくないな。しかし、マリーベル様の使用人達は理由を知っている。そちらから聞けば全てバレてしまうが、なるべく言いたくない。
それにしてもなんて事をしたんだマリーベル様は。
「ホムンクルスの素体に自分を使うなんて……」
意味のない作成だ。無から、生物を作り出す理論それが錬金術によるホムンクルス作成の意義だ。
それなのに素体に生物を使ってはなんの意味もない。
「テイゼル、多分分離は出来ない。済まない、幼馴染みだったんだろう?マリーベル様の記憶が俺の中にあるんだ」
「そうか……マリーは何故、アルトの残した研究を使ってあんな事をしたんだ?」
言いたくない、凄く言いたくない。だがバレる。結局こんな事になったのは、俺が五体満足でいなかったのも悪い。
「龍巫女だとよ。使用人が知っている。俺の口からは話したくないな……」
俺の頭に鎮座する本体キノコちゃんをもぎ取ってしまいたいくらい話したくない。
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