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帝国風キノコ

45 使えば汚れる訳でして

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「ゼル、俺はもう駄目だ」

「そんな事言わないでくれ!おまえ無しで俺はどうすれば良いんだ!」

「……夜の相手は別の奥さんにしてくれ」

「それが一番大事だろう!」

「……一番かよ」

 閨でする会話ではないが、素っ裸でゼルに抱かれている時が分かりやすいから。

「見て、斬られ過ぎて体が治らない。いくらホムンクルスとは言え、もう限界だよ」

 刺し傷、切り傷。毒や酸を掛けられた跡もある。汚れて汚い体だ。動かすのにそろそろ支障が出てきそうだった。

「嫌だ。これが良いんだ」

 がさがさの傷痕を1つ1つ指でなぞられる。

「……まだ、体の動くうちは良いけど……動けなくなったら、そこまでだからな?」

「嫌だ」

 子供でもないのに困ったものだ。

「頼むよ、陛下。俺を失望させないでくれ」

「……ずるいな、ルドは」

 おいおい、17歳の甥と同じ扱いで良いのかよ。ずるいな、と言われたら俺もずるく行くしかないよな。

「しょうがないだろう。出来る男が好きだからな」

 男が好きな訳ではないけどな!

「じゃあこんなでかい帝国の皇帝なら愛して貰えるだろうな?」

「どうかなぁ……あまり国民に好かれていなさそうだからなー。怠慢なんじゃないかなー」

「調子に乗りやがって!鳴かせてやる!」

「あっ!馬鹿、急に……やんっ」

 甲高く鳴く自分の声をやっぱり気持ち悪いな、とどこかで冷静に思いながらも、広い背中に手を回した。

 どこの王も結局は孤独だ。



 側妃の数はどんどん減っている。父親が失脚したり、俺に害をなそうとしたり、色々だが今は半分の4人だ。

 俺の代わりに隣に立てるよう努力すれば良いのに誰もしない所を見ると、所詮そこまでなんだろう。
 俺は特に難しい事をやっている訳ではないんだがなー。まあ、暗殺者の盾になるのはやはり怖いか。
 他の外交はちゃんと勉強すれば誰でも出来ると思うんだがなぁ。

「俺が死んだらどうすんのかね?」

「え、エドヴァルド様!居なくなられては困りますよ!ずっと帝国を支えて貰わねば!」

 真剣な顔で俺の独り言に宰相が答えるから驚いてしまった。

「いや、無理な事を言わないでください。元々戦争回避の人質ですよ。いつまでも居るわけないじゃないですか。今、陛下のお側にいる事がおかしいんですから」

「いえいえ!あなた様は陛下のお妃様ですから!どの方より1番……」

「宰相殿。側妃は皆平等ですよ。たまたま、今の事を言ってもしょうがありません」

「……そうですな。失礼致しました」

 迂闊な事を言ってはいけないよ、と釘を刺す。どちらにせよ、俺はかりそめの客なのだから。


 それからすぐに大規模な貴族の反乱が起こり、ゼルも命に別状は無かったが、怪我をするほどだった。

 俺は隣に立てなくなった。
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