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キノ殺
25 シャラ*
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「ルド、どこかに遊びに行こう」
「行かなくて良いよ。シャラの部屋にいよう」
それは理想だったはず。
「何か食べるかい?」
「大丈夫、お腹は空いていないんだ」
透明な笑顔。
「ルド、欲しいものは?」
「そばに居てくれたら良い」
身を寄せて、肩に頭を乗せる。
「ルド!ルド!」
「シャラ……」
熱を込めて呼び、視線と指を絡め合う。自身を埋め込んで、荒い息の体を撫でれば笑っている。
「いい?」
そう聞けば
「いいよ」
と、答えは返ってくるのに、キノコの傘はほんの少しも開く事は無かった。
「シャラ」
熱量のほぼない声が、呼ぶ。
外部との接触を全て絶った。大地や土、植物を全て排除した。水も最低限。炎も気に入られているので、直接触れ合うことがないように、目を光らせたのに。
10年前に狩った大きな美しい鳥は、再び返って来て手に入り、鳥籠の中で自ら歌い始めた。それはそれは甘美な歌を。私がずっと聞きたかった歌を。
なのに、その歌はどこか空々しい。
「ルド……ルド……」
「なぁに?シャラ」
腕の中にいる。枷も嵌ったまま、太い楔も打ち込んである。真っ白い夜具に張り付けて、風切羽も全部切ったのに。
「ルド、中に……中に出したい」
「良いよ、ちょうだい?」
早くなる動きに登り詰めても、その瞳が劣情に濡れる事はなかった。
「ルド……どうしたの……私の事が嫌い……?」
私のルドは静かに笑って
「そんな事はないよ」
と、言ってくれる。優しい顔で。
「ルド、私のことを愛しているよね?」
10年前の言葉を
《くそっ……!何で…何で…!これからなのに!私はまだ何も為せていないのに!悔しい……っああ、ヨルム済まない……後は……頼む……》
「ああ、愛しているよ」
あの時望んだ言葉を。あの時と同じ顔、同じ声で私にささやくのに!
「ルド……痛いよ」
「大丈夫かい?シャラ。おいで、私の愛しい人」
抱き締める体は暖かいのに!
その二つの目は木のウロのように何も映していなかった。
「何て事、何て事……」
「どうしたの、シャラ」
まだ、何も伝えず拐ってきた時は良かった。ルドは笑い、泣き、怒り……乱れた。
ドレスを着せれば理不尽だと怒り、子供でも壊せそうな装飾品のような枷に身を封じられ拗ねていた。
火の精霊王の前でも、感情を露わにして
「焼きキノコにする気か!」
と、怒っていた。
それなのに。私の理想的なルドは私の理想通り、私の側だけにいて、私の理想通り私だけに微笑む。
「シャラ」
私の名前だけをその唇から紡ぎ、私の前に易々と足を開き、隅々まで愛でさせる。私の望む通りに。
「シャラ」
「シャラ」
「シャラ」
違う。
違う、違う。
「どうした?シャラ」
違う
「苦しいのか?シャラ」
違う
「痛いのか?シャラ」
違う
「一体どうしたんだい?私のシャラ」
違う違う違う違う!!!!
「ルド……ルド……!お前は!お前はルドじゃないっっっ!!!」
私はルドをベッドに押し倒し、あの10年前と同じように、心臓に長い針を突き刺した。
「シャ……ラ……」
針による死は傷口が小さい故に体を損なわない。
挿し貫かれた心臓はビクビクと震えるがやがて静かになり、動きを止める。
死んだ!死んでしまった!
私はもう1度エドヴァルドを殺してしまった!私の愛しいルド!ああ!私は何て事を!!
「……ルド……」
ゆっくり針を抜く。まだ暖かい体はあの時と変わらない。またあなたに愛をささやこう。死んでしまったあなたに、永遠の愛を。
「愛しのエドヴァルド様。前はすぐに無粋者に見つかってしまい存分に語り合えませんでしたが、今日は違います。私の愛を心ゆくまで聞いていただきたい」
夜通し話していたと思う。空が白み始め、朝日がのぼる頃、私は信じられない声を聞いた。
「シャラ」
それははっきり私の名を呼ぶ。
「おはよう、シャラ。今日は早いのだな」
何事もなかったかのようにルドは目を開けて、微笑んだ。
「行かなくて良いよ。シャラの部屋にいよう」
それは理想だったはず。
「何か食べるかい?」
「大丈夫、お腹は空いていないんだ」
透明な笑顔。
「ルド、欲しいものは?」
「そばに居てくれたら良い」
身を寄せて、肩に頭を乗せる。
「ルド!ルド!」
「シャラ……」
熱を込めて呼び、視線と指を絡め合う。自身を埋め込んで、荒い息の体を撫でれば笑っている。
「いい?」
そう聞けば
「いいよ」
と、答えは返ってくるのに、キノコの傘はほんの少しも開く事は無かった。
「シャラ」
熱量のほぼない声が、呼ぶ。
外部との接触を全て絶った。大地や土、植物を全て排除した。水も最低限。炎も気に入られているので、直接触れ合うことがないように、目を光らせたのに。
10年前に狩った大きな美しい鳥は、再び返って来て手に入り、鳥籠の中で自ら歌い始めた。それはそれは甘美な歌を。私がずっと聞きたかった歌を。
なのに、その歌はどこか空々しい。
「ルド……ルド……」
「なぁに?シャラ」
腕の中にいる。枷も嵌ったまま、太い楔も打ち込んである。真っ白い夜具に張り付けて、風切羽も全部切ったのに。
「ルド、中に……中に出したい」
「良いよ、ちょうだい?」
早くなる動きに登り詰めても、その瞳が劣情に濡れる事はなかった。
「ルド……どうしたの……私の事が嫌い……?」
私のルドは静かに笑って
「そんな事はないよ」
と、言ってくれる。優しい顔で。
「ルド、私のことを愛しているよね?」
10年前の言葉を
《くそっ……!何で…何で…!これからなのに!私はまだ何も為せていないのに!悔しい……っああ、ヨルム済まない……後は……頼む……》
「ああ、愛しているよ」
あの時望んだ言葉を。あの時と同じ顔、同じ声で私にささやくのに!
「ルド……痛いよ」
「大丈夫かい?シャラ。おいで、私の愛しい人」
抱き締める体は暖かいのに!
その二つの目は木のウロのように何も映していなかった。
「何て事、何て事……」
「どうしたの、シャラ」
まだ、何も伝えず拐ってきた時は良かった。ルドは笑い、泣き、怒り……乱れた。
ドレスを着せれば理不尽だと怒り、子供でも壊せそうな装飾品のような枷に身を封じられ拗ねていた。
火の精霊王の前でも、感情を露わにして
「焼きキノコにする気か!」
と、怒っていた。
それなのに。私の理想的なルドは私の理想通り、私の側だけにいて、私の理想通り私だけに微笑む。
「シャラ」
私の名前だけをその唇から紡ぎ、私の前に易々と足を開き、隅々まで愛でさせる。私の望む通りに。
「シャラ」
「シャラ」
「シャラ」
違う。
違う、違う。
「どうした?シャラ」
違う
「苦しいのか?シャラ」
違う
「痛いのか?シャラ」
違う
「一体どうしたんだい?私のシャラ」
違う違う違う違う!!!!
「ルド……ルド……!お前は!お前はルドじゃないっっっ!!!」
私はルドをベッドに押し倒し、あの10年前と同じように、心臓に長い針を突き刺した。
「シャ……ラ……」
針による死は傷口が小さい故に体を損なわない。
挿し貫かれた心臓はビクビクと震えるがやがて静かになり、動きを止める。
死んだ!死んでしまった!
私はもう1度エドヴァルドを殺してしまった!私の愛しいルド!ああ!私は何て事を!!
「……ルド……」
ゆっくり針を抜く。まだ暖かい体はあの時と変わらない。またあなたに愛をささやこう。死んでしまったあなたに、永遠の愛を。
「愛しのエドヴァルド様。前はすぐに無粋者に見つかってしまい存分に語り合えませんでしたが、今日は違います。私の愛を心ゆくまで聞いていただきたい」
夜通し話していたと思う。空が白み始め、朝日がのぼる頃、私は信じられない声を聞いた。
「シャラ」
それははっきり私の名を呼ぶ。
「おはよう、シャラ。今日は早いのだな」
何事もなかったかのようにルドは目を開けて、微笑んだ。
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