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キノコと王様

8 上司の横暴

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「主よ……頼む、姿を見せてくれ」

1週間飛ばして違う奴が来た。

「しつこいなー。主なんていないから」

「すまない、話を聞いて貰えないだろうか!どうしても私達には力が必要なのだ」

「松明を振り回して火をつけようとしないなら、聞いても良いよ」

「……ジェルト卿はそんな事をしたのか?」

「したよ!腹が立って出入り禁止にした!」

「だから、森の周りをぐるぐる回っていたのか……」

「あいつの前に森は閉じたからね。もう2度と入れない」

 

「で、なんだって?」

「力を……国を守る力が欲しいんです」

「だからそんな力ないって。あいつは聞いてくれなかったけど、俺は主じゃないし」

「そんな……」

 男はがっかりしているが、だってそんなもの持ってないもん。

「ごめんねー」

「お兄様……」

 後ろからか細い声が聞こえてきた。

「わあ、すごい美少女!」

「え、あ、ありがとうございます…」

 消え入りそうな声でその少女は答えた。

『ヨースケ!ヨーーースケ!』

ん?なんだなんだ。

『その子……わ、私にくれないか……?』

「何言ってるんですかーーーー!」

『是非!わ、私の花嫁に……頼む!ヨースケ!お願いしてくれ!』

「うわぁ……」

 俺は頭を抱えた。

「あの……どうなさったの、ですか……」

 少女は心配そうに俺を見たけど、俺はあなたが心配です。

「あの……非常ーーーに申し訳ないのですが!あっ!勿論急だし、断って貰って構わないんですが…あのぅそのぅですね?俺の上司が、あなたの事を非常に気に入ったらしく…是非、花嫁にと」

「な、なんだって?!そんな事許さないぞ!」

 俺の前にいた男は叫んだ。だよねー!

「俺もそう思ってます。全くごめんなさいねー!よく言って聞かせますから!」

全くいくらなんでもないわー!会ったこともない奴のお嫁さんになんて誰がなりたいもんか!

「わ、私!その方の元に参ります!」

「「えーーーー!」」


「《森よ、開け。御前に頭を垂れよ》」

 樹々が一斉に開き、道が出来る。

「お嬢さん……真っ直ぐ進めば俺の上司がいます。嫌だったら嫌っていうんだよ?」

 こくりと美少女は頷き、道を進んだ。彼女が通り過ぎると道は元通り木に埋め尽くされる。

 しばらくしても美少女は助けを呼ばなかった。

『ヨースケ。お兄さんについて行け。そして彼を助けてこい』

「うそーん!横暴!キノコに何が出来るのさーーー!」

『頼むよ!権利の行使を認めるから!私は彼女との交流に忙しい!』 

く、くそ……

「くそノームがぁあああーーー!」

 理不尽に俺は吠えた。

「と、いう訳でお兄さん。ごめんなさい。妹さんは俺の上司、ノーム様のところです。まじすいません。対価として俺が遣わされました」

 俺は土下座したいくらいだ。

「一応、色々出来るみたいなので、頑張りますが……あまり期待しないでくださいね、俺、ただのキノコなんで」

 頭の上のキノコを指差す。

「これが本体です……」

 お兄さんは何とも言えない表情だが、俺はお兄さんにくっついて森を後にした。はーお兄さんホントごめん。
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