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キノコ転生

1 秋の森

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 さわさわと気持ちの良い風が吹いている。夏の暑さを超えて、涼しい季節になってきた。
 夜の間に降った雨は明け方にあがり、
今は朝日に露が反射して煌めいている。

 ぴちょん

 つめて!でも気持ちいい。俺の頭の上に朝露が落ちてきた。ふーやっと地上に出てこれた。暑い時はずっと我慢して土にこもってたんだ。
 やっと伸び伸び成長出来るぞーー!


ーーーーー?

ーーーー?

 あれ?俺、川口洋介22才。人間・男・うだつの上がらない会社員。なのになんで森に居るんだ?
 俺は目をパチパチさせた。森だ。秋の森だ、秋の森に俺は立っていた。

どういうことなのーーー!?

 声は出なかった。は?どういうこと??
 それどころか手もない。え、身動きできないんですが!?

 俺は思い出せる限りの事を思い出そうとした。


「洋介君の馬鹿ーーー!このシメジ以下ーーー!」

 バチーン!付き合って1年の亜実ちゃんに平手打ちを食らって、俺たちは破局した。
 記念日が残業で潰れたからだ。

「話しくらい……」

 聞く耳も持ってもらえなかった。働いて彼女の為に買った指輪の箱をポケットに入れたまま、コンビニでアルコールを買う。

「はは……なんだよシメジ以下って……」

 そのままフラフラと家まで帰る途中、やられた。長距離トラックめ!
 

 それしか思い出せなかった。



 まさかまさかまさか!
そう言えば足元は地面だ。地面のふかふかな上に俺はニョキッと……ニョキッと生えてる……。生えてるんだ!!!!


亜実ちゃん呪うぜ……


 俺は森のキノコになっていた。そりゃ手がないわ!!



「アーニャー?帰りますよ」

「はーい ママ」

 声が聞こえる。ガサガサと音がして、太陽が見えた。でかい子供の顔も見えた。

「ママーキノコあったよー」

俺がキノコだ!

「まあ、アーニャはキノコ名人ね」

 子供・アーニャはなかなか可愛い。5歳くらいか?次に大人・ママが見えた。
 俺、キノコなのに見えるんだ!ミラクルだろ?

あんな美人のママに食べられるなら悪くないキノコ人生だったな……。たぶん覚醒して5分くらいの命だったけど、立派に生きたよ!
 ははは!儚い。

「あら、ダメよ。アーニャ。それはウスベニ裏毒茸よ。食べられないわ」

「どくきのこー?」

「そうよー。可愛い色だけど食べるとお腹が痛くなっちゃうわ」

「はーい」

 俺、毒キノコだった。
ウスベニ裏毒茸だって。
お腹痛くなるって。

ーーーこのシメジ以下ーーーー

 亜実ちゃんは呪いの預言者だったか……。

「そっかーバイバイ!毒キノコさん」

 アーニャは行ってしまった。俺は草の陰に残された。

スン寂しくないぞ。

 それから俺はキノコ人生?を全うした。成長して、背を伸ばし、傘を開いて胞子を飛ばした!以上終わり!

……キノコだもん……

 しかし、俺は萎れなかったし、乾燥しなかったし、溶けなかった。幸いなことに虫にもかじられず、辺りは寒くなってきた。

冬!冬が来る!流石に死ぬ!

 俺は一計を案じた。一応死にたくない。シメジ以下だが。

そうだ 菌糸に戻ろう

 やってみた。出来た♡

 俺はあったい土の中の葉っぱにくっ付いてスヤスヤ眠った!葉っぱのおふとん気持ち良いです。

 目を覚ましたら秋だった。寝過ぎた。

「ママーこれは毒キノコだよねー?」

「流石ね。アーニャはもうキノコを見分けれるようになったのね」

 一歳大きくなったアーニャとママに会った。今年もアーニャは

「バイバイ」

 と、行ってしまった。俺は背を伸ばし、胞子を飛ばし……菌糸に戻って寝た。
 
 今年も秋になって俺は起きた。キノコ人生3年目ともなれば立派な先輩キノコだ。ふふん!

「お母さん!」

 おっ!アーニャの声じゃねーか!また大きくなったかな?小学生くらいになったアーニャが草を掻き分ける。
 良き良き。アーニャは美人になる。ママが美人だからなー。来年はもっと大きくなるだろうなーと孫を見守る爺さんのような気分になってたら、今年は異変が起こった。

 アーニャのまだ小さな手が伸びてきて、俺のボディを鷲掴みしたのだ!あん!やめて!繊細なの!

「お母さん、ウスベニで良いかな?」

「いいんじゃないない?なんでも良いって言ってたし」

「はーい」

 俺はアーニャのカゴに入れられ、秋の森に別れを告げたのだった。お、おれどうなるの?俺、毒キノコだよ!食べられないよ!

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