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「黙れ、裏切りの忌み子の末よ。良くその汚い顔を我が前に出せた物だな。疾く去ね」
「精霊は、ワシの元に跪くのじゃ!ウゲェ!」
側にあった椅子がふわりと浮いて、容赦なくジェスト公爵に飛んで行って当たった。
お爺さんだけど、車椅子みたいな物も壊れて床に倒れた。
「愛し子の遺物で下位供を捕まえて、切り裂いて何が楽しい?ただただ土地に恨みと呪いが蓄積した。この地が死んだのはお前の一族のせいだぞ?」
ウィリーは怒っている。怒ってもいるし、呆れてもいる。そして許す気なんて一欠片もない。
「死んだ?!死んだと言いましたか?!土地はまだ生きております!」
カザル管理官は叫んだがウィリーは冷たく訂正する。
「もう死んでいる。今はセラスの魔力で生きているように見えるだけだ」
青ざめるカザル管理官。
「死んだ?もう手遅れと言うのですか?!この国は、この国はどうなるのですか……?」
「死の汚泥に沈む。精霊の怨嗟が晴れるまで。どうして忌み子を始末しなかった?セラスが言ったろ、忌み子がいて嫌われていると。あの時はまだ土地は死んでいなかったのに」
「ど、どうすれば、どうすれば精霊の怨嗟は晴れるのですか!」
必死で言い募る管理官。冷たいウィリー。
「忌み子の一族を捧げろ。死の汚泥に首だけ出して沈めろ。お前たちが殺した精霊の数と同じだけ忌み子の血を捧げればいずれ怨嗟は解けよう」
「な、何人……何人沈めれば、良いのでしょうか……」
「さあな?ここ近年は狂気なのか何なのか、膨大な数の精霊がその男の一族に殺されたわ。おかげで精霊は減る一方だ……まあ数千は下らんだろうな」
「す、数千……!」
がっくりとカザル管理官は膝をつく。そんな数の人間を泥に沈められる筈もない。しかも、忌み子の一族という。
「無関係な人間を使うなよ?恨みが増えるだけだ。ここまで教えてやるのは今までセラスを生かしておいた礼だと思え」
廊下の方でガタガタとお爺さんが蠢いている。
「せ、精霊が、裏切ったのは精霊だ!ワシは、ワシの一族は正しい!正しいのに何故こんな目に合わねばならん!」
お爺さんは自分は悪くないと言う。いや、悪いよね。どうして精霊を殺して良いと思ってたんだろう?
「精霊を先に裏切ったのはお前たちだ。ジェストは我らの愛し子の下僕であったのに、主人たる愛し子を裏切り殺したではないか。何を思い違いをしておる?」
「い、言い伝えでは、精霊が主人たるジェストを裏切ったと……」
カザル管理官の言葉をウィリーは鼻で笑う。
「何故、精霊がたかが人間に仕えねばならんのだ?冗談も休み休み言え」
「300年前、精霊が人間を裏切ったという事件は……」
「ジェストが我らの愛し子を殺した事件だろう?あれは良く精霊を愛し、精霊に愛されておったのに、嫉妬したジェストに騙され、裏切られ、失意と怨嗟のうちに命を落とした。しかもその体もジェストに盗られ、愛し子を恋しがる下位供を捕まえる餌にするなど。度し難い」
汚いモノを見る目でウィリーはジェスト公爵を一瞥する。
「う、うるさい!うるさい!これさえあれば精霊は私に跪くのだ!」
ジェスト公爵はじゃらり、と拳大のペンダントを取り出す。それは鈍い赤色をしていて……僕が見ても気持ちが悪い塊だった。
「さあ!私の言う事を聞け!私に力を寄越せ!」
ウィリーは静かに怒りを増した。僕は彼に抱き上げられているが、今のウィリーはとても恐ろしい。
「お前はそれが何か知らないのだろうな」
「……我が家に代々伝わる聖遺物だ!」
「そう、それこそがお前達が裏切った我々の最後の愛し子、シェリーの心臓だ」
流石にこの場にいた全員が言葉を失った。
「精霊は、ワシの元に跪くのじゃ!ウゲェ!」
側にあった椅子がふわりと浮いて、容赦なくジェスト公爵に飛んで行って当たった。
お爺さんだけど、車椅子みたいな物も壊れて床に倒れた。
「愛し子の遺物で下位供を捕まえて、切り裂いて何が楽しい?ただただ土地に恨みと呪いが蓄積した。この地が死んだのはお前の一族のせいだぞ?」
ウィリーは怒っている。怒ってもいるし、呆れてもいる。そして許す気なんて一欠片もない。
「死んだ?!死んだと言いましたか?!土地はまだ生きております!」
カザル管理官は叫んだがウィリーは冷たく訂正する。
「もう死んでいる。今はセラスの魔力で生きているように見えるだけだ」
青ざめるカザル管理官。
「死んだ?もう手遅れと言うのですか?!この国は、この国はどうなるのですか……?」
「死の汚泥に沈む。精霊の怨嗟が晴れるまで。どうして忌み子を始末しなかった?セラスが言ったろ、忌み子がいて嫌われていると。あの時はまだ土地は死んでいなかったのに」
「ど、どうすれば、どうすれば精霊の怨嗟は晴れるのですか!」
必死で言い募る管理官。冷たいウィリー。
「忌み子の一族を捧げろ。死の汚泥に首だけ出して沈めろ。お前たちが殺した精霊の数と同じだけ忌み子の血を捧げればいずれ怨嗟は解けよう」
「な、何人……何人沈めれば、良いのでしょうか……」
「さあな?ここ近年は狂気なのか何なのか、膨大な数の精霊がその男の一族に殺されたわ。おかげで精霊は減る一方だ……まあ数千は下らんだろうな」
「す、数千……!」
がっくりとカザル管理官は膝をつく。そんな数の人間を泥に沈められる筈もない。しかも、忌み子の一族という。
「無関係な人間を使うなよ?恨みが増えるだけだ。ここまで教えてやるのは今までセラスを生かしておいた礼だと思え」
廊下の方でガタガタとお爺さんが蠢いている。
「せ、精霊が、裏切ったのは精霊だ!ワシは、ワシの一族は正しい!正しいのに何故こんな目に合わねばならん!」
お爺さんは自分は悪くないと言う。いや、悪いよね。どうして精霊を殺して良いと思ってたんだろう?
「精霊を先に裏切ったのはお前たちだ。ジェストは我らの愛し子の下僕であったのに、主人たる愛し子を裏切り殺したではないか。何を思い違いをしておる?」
「い、言い伝えでは、精霊が主人たるジェストを裏切ったと……」
カザル管理官の言葉をウィリーは鼻で笑う。
「何故、精霊がたかが人間に仕えねばならんのだ?冗談も休み休み言え」
「300年前、精霊が人間を裏切ったという事件は……」
「ジェストが我らの愛し子を殺した事件だろう?あれは良く精霊を愛し、精霊に愛されておったのに、嫉妬したジェストに騙され、裏切られ、失意と怨嗟のうちに命を落とした。しかもその体もジェストに盗られ、愛し子を恋しがる下位供を捕まえる餌にするなど。度し難い」
汚いモノを見る目でウィリーはジェスト公爵を一瞥する。
「う、うるさい!うるさい!これさえあれば精霊は私に跪くのだ!」
ジェスト公爵はじゃらり、と拳大のペンダントを取り出す。それは鈍い赤色をしていて……僕が見ても気持ちが悪い塊だった。
「さあ!私の言う事を聞け!私に力を寄越せ!」
ウィリーは静かに怒りを増した。僕は彼に抱き上げられているが、今のウィリーはとても恐ろしい。
「お前はそれが何か知らないのだろうな」
「……我が家に代々伝わる聖遺物だ!」
「そう、それこそがお前達が裏切った我々の最後の愛し子、シェリーの心臓だ」
流石にこの場にいた全員が言葉を失った。
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