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55 は?私の可愛い子に何してくれちゃってんの?(金髪の神様

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 それは俺らが知らない場所、いや一瞬だけ通過したそういう場所。生きてるうちはいけない場所。空の上の上、神様の会話。



「やっほーい、後輩君。どう?」
「あ、先輩。どうもうまく回らなくて……」
「えーそんな馬鹿な」

 神同士でも神格というものがあって気軽に話しかけてきた金髪の神が「先輩」、黒髪の方が「後輩」らしかった。
 先輩は少しだけ演技がかった仕草で肩をすくめる。

「後輩君が世界の育成に何故か失敗しまくって君に渡した世界がヤバイって聞いたから私の超お気に入りの子を貸してあげたじゃん? あの子、物凄く有能で私の一番のお気に入りなんだ。あの子がいて世界が失敗する訳ないでしょ? どうしたかなって見に来たよ」
「いやそれが……手違いで一緒に送ってしまったヤツが邪魔ばっかりするんで、どうも回らないんですよ。まったくなんだよ、アイツ。邪魔ばっかり! 今、責任を取らせて必要な人材を産ませるつもりです」

 先輩神は首を傾げる。あの子がいてそんなことになるのかな?と。あの子は本当に働き者でびっくりするくらい優しくて自然に世界を整えて行く稀有な能力の子なのに、と。

「ホントにい? 君の世界見せてよ。アドバイスできることがあるかもしんない」
「よろしくお願いします! 」

 先輩神は後輩神が作り直している世界を覗き見る。悲鳴のような報告書から比べてみてもそこまで酷い様子ではない。戦争もなければ飢餓が起こっている訳でもない……ただあちこちに悪魔の暗躍が見られて黒く塗り潰されている箇所がある……少しは改善されているとみて間違いない。
 先輩は自分のお気に入りの子がきちんと仕事をしていることを感じて嬉しくて目を細める。

「あのあたりに先輩から借りた使者がいます」
「どれどれ~? ……え、どういうことかな? 」

 雲の上、遥か高みから見られている事など、シャトルリアは気が付かない。ただその時ちょうど教会にきていて神像に祈りを捧げていた所だった。祈りは響き、先輩と後輩がいる場所まで届いた。

〈なんで無理やり連れてきた俺達……いや、俺はまだ良いよ? 北川君にあんなひどいことすんだよ、ホント神とかって意味わかんねえよ! それになんだよ、野郎を妊娠させたのあんたの仕業か? マジしんじらんねえんだけど!!〉

 シャトルリアの怒りの訴えは良く響いていて、先輩と後輩の耳にも飛び込んでくる。その訴えを聞いて後輩神は腐った食べ物を間違えて口に入れた時のような、ものすごーく嫌な顰めっ面をした。
 意味が分からず、先輩は後輩に声をかけた。

「……後輩君、どういうことかな? 」
「え、先輩からお借りした使者はきちんと勇者として送り込んでますよ。ちょっと試練を与えたけれど先輩の育てた使者なら大丈夫でしょう? だって試練を与えないと強くならないですもんね?」

 後輩がつい、と指を指すと雲を突き破って次にセイルが見える。こっちは体を鍛えようとしてミュゼルに必死に止められていた。
 先輩はちょっと真顔になってからこの世界の管理レポートを持ってくるように言い、受け取るとペラペラと巡る。
 隅から隅までよくよく目を通す先輩の眉間の皺がページを捲るごとに深くなっていった。

「……勇者……勇者ってあの子? あの子誰? 試練……ってこの性暴力をあの子に与えようとしてたの? そしてそれを試練って思ってるの? あり得ない君、一体神として何をしてたの、何を学んできたの?!」

 先輩は後輩の書いていた管理レポートをパンッ右手で叩く。目を通したそこにはあり得ないことが自慢げに書かれていて酷い有様だったからだ。

「まず、このルーセン地方の人間の体を弄る件、完全に管理規約違反だよ。こんなに大量に人間を特別な体にするなんて世界のバランスが崩れて当然だ。もしかして君の世界はこんなことを何度もやってるの? そりゃ世界が崩壊する訳だ」

 後輩はさあっと青褪めるが、もう取り返しがつかない。管理規約違反は大きな罰則がある……それを思い出したのだ。

「あとさあ……こっちの都合で無理やり世界を渡らせた人間になんて非道なことしてるんだ? これも見逃せない……ああ、頭が痛いよ。こんなのが後輩にいるなんて」
「え、え、え……だって、皆これくらいやってるって」
「皆って誰だよ、あ? 言ってみろ!」
「う……」

 誰だといわれると答えられない。それは誰でもないということ。いつも穏やかな先輩の語気が荒くなるり、発する怒気に気圧される。

「そんで……君、自分の使者であるいとし子をこんな風にして。世界が直る訳ないよね。あと……私のいとし子をなんだと思ってるの? 君を信じて貸してあげた私が馬鹿だった。こんな酷い目に合わされてるなんて、信じられない!」
「せ、先輩のいとし子はきちんと勇者として……」
「私のいとし子は佐藤君だよ!佐藤塁君!君の世界でシャトルリアと名乗っている、君が肉体も与えず、ゴミのように捨てて、本体が3センチしかない、寄生虫みたいなシャトルリアだよ! 馬鹿にするな!」
「え、あっち……? 嘘……だろ」
「君は査定委員を待つまでもない、クビだ。神の称号をはく奪する。ミミズからやり直せ!」
「ひ……」

 金髪の先輩がそう宣言すると、黒髪の後輩は光の粒になって一瞬で弾け飛ぶ。そして足元に一匹のにょろにょろと憐れに這いずり回るミミズが残っているだけだった。

「ふん!」

 そのミミズを摘まみ上げ、ぽいっと放り投げる。ミミズは空中をふよふよとのたうち回りながら、ゆっくり下へ落ちてゆく。きっとそのままどこかの土地の土の上に着地して大地に潜り込むだろう。

「あーあ、もうっ佐藤君、ごめんね! でも佐藤君のおかげでこの世界は崩壊の危機から免れたらしい。あんなちっちゃな体でよく頑張ったね……君たちが何とかした悪魔は放っておけばもっともっと大きくなった奴だった……やっぱり佐藤君は最高だな、流石私の一番のお気に入り、一番のいとし子」

 先輩が空から下をみればシャトルリアの隣に立つ背の高い人物にじゃれついているのが見える。その様子に先輩はホッと安堵のため息を漏らす。

「流石佐藤君。周りとの仲も良好……ちょっと口が悪い所がまたチャーミングなんだよねえ~。これからは私が見守るから安心して欲しいな。佐藤君はやる事が面白くて見てても飽きないしー! もうちょっとこの世界のために頑張ってね、お願いだよ」

 先輩は元後輩が残したとんでもレポートをさらに上の神へ送り、この先の担当は自分がすると申し送りを済ませる。下の不始末はやはり上が取らないといけないものだ。

「はあ、なってしまった血筋は中々治せないから、ルーセン地方の子供達は特別なコだと認識して貰わないとなあ……世界を正常化させるために働いて貰うよ。もちろんちゃんと対価は払うからねー。もうわが国弱いなんて俯かせたりしないからねっ」

 佐藤塁……シャトルリアは知らない。遥か高みでそんな交代劇があったこと、これから辛い事大変なことはぐっと減るということも、何も知らない。

 ただ世界には優しい風が吹き始めた。


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