53 / 69
53 選択肢は少なく
しおりを挟む
シャトルリアの国、ルーセンからもう一人やってきた。
「シャトルリア様……あのう、私」
「だよねえ、分かってた。マチェット君」
「え? どういうことですか?」
つまりだ。俺が魔力だまりを揉み解し、魔力の循環を良くした男性。その魔力だまりの後に残ったよくわからん袋的な所に赤ちゃんが舞い降りちゃうんだよ……。
「もう遅いかもしれないけれど、魔力だまりがあった男性は……性交の時に注意してくださいと、妊娠の可能性が高いと周知してください」
「……はい」
「特に魔力が多くて魔力だまりが大きかった人は特に妊娠しやすいので、中出し注意と……」
「……はい……」
どうもそういうことらしい。セイル、宰相さん、マチェット君を検診してそんな結果がでた。はは……あはは……笑えない……。なんでかな、どうしてかな? と思った時ふと蘇る言葉。あのクソ神が言ってたやつだ。
「……責任取って貰いますからね、ってこと?」
それが一番しっくりくる答えだ。だって人の業とは思えない現象だもんな。
「とにかく、様子を診て行かないとあとお医者さんにも相談だ……最後どうやって出てくるのかな?」
尻かな……尻なのかな? いろいろ想像はできるけどそれよりなにより殿下の滅茶苦茶いい笑顔が忘れられない。報告してないのになんでこの話知ってるのかな? も、もしかして誰かこの診察室を覗いてるの!? バッと天井を見ると天井の右隅の板がちょっとずれてる?! 誰かそこにいたの?!
「あ!」
誰か見てるじゃねえかあああ!! 誰だーー! せめて諜報員であってくれ、殿下本人ではないことを祈る。まさか御大自ら天井裏に忍び込んで俺を上から監視してたなんて事はないよな?!
しかし俺は暫くはこの珍事に奔走することになってしまった。問題なのは間違いなく結婚後の我が身に降りかかる話だろう……なんせ俺も自分で体の魔力だまりを開けたもん。
「開けた魔力だまりって閉じないのかな? 」
「閉じない! 」
「うわっ! 殿下ー?! 」
俺の診察室の扉が物凄い勢いで開いて殿下が飛び込んで来た。
「シャトぉ私の子供を産んで下さいーお願いします、お願いしますー」
「膝に縋りついて泣かないで下さい! あとただの独り言にもいちいち反応しないで! 」
もう診察室の前で張り込んで聞き耳立てていたことを指摘するのは無駄だと分かっているからね。
何を言っても俺の細い太腿にぐりぐりと顔を擦り付けるのをやめないよ、この人。
「私はもうシャトの前で強いふりをするのはやめたんだ。シャトの前では素直になるんだ。あの時、ちゃんと頭が痛いってシャトに言えば良かったんだ」
「……殿下……」
確かにそうだ、と今なら言える。最初に教えてくれればこんなことにはならなかった。起こってしまったことだけど、後悔しても変えられないことだけれども。
「だからもう間違えない。シャトさえいればそれで良い。でももし、可能ならやっぱりシャトと私の子供はみてみたい。でもシャトと別の人の子供は見たくない……」
「ははは……」
なんとまあ、確かに素直な意見だな。
「本当はシャトがいてくれたらそれで良いんだ。でも立場上何かとうるさい奴は多い。大体は黙らせてあるんだけど、不満はどことからも沸いてくる。私にそれが向くなら何の問題もないんだけれど、シャトに向ける奴らがいる。それが許せない……いややっぱりただ単にシャトの子供が見たい」
短いホルランド様の髪の毛を撫でる。ぱっさぱさだった髪の毛は見苦しくないように切り揃えて貰っているけれど、帽子をかぶってカバーしている所が多い。新しく伸びてきたところは綺麗な昔と変わらない銀色の髪だけど、治療前の髪の毛は色が抜けている。
「困った人だなぁ」
「ごめんね……こんな私でごめんね。でももうシャトがいない時間なんて考えられない。ずっと一緒にいたいんだ。姿が見えないだけで不安になる。おかしいよね、でも自分でもどうしようもないんだ……またシャトには迷惑をかけてしまう」
殿下の祈るような懺悔を聞きながら、俺はため息をつくしかない。俺と殿下はなんだかんだいって長く一緒に居過ぎた。もうお互いにその存在を無視できなくなってしまっているんだ。結局俺は殿下と離れて国に帰っている間も殿下のことを忘れることなんてできなかった。楽しかった話を母上に聞かせたりしながら、殿下のなさりように腹を立てたり悲しんだり。もう無関心でいることが出来ないんだ。
「私も、殿下のことを無視して生きていくことができないみたいなんです。そうなってくると好きか嫌いかになってしまう」
「嫌いって言わないで!」
青い目をうるうるさせて見上げられると、本当にもう……狡いなあ。
「本当に困った人。もし、次に酷い事したら私も手加減しませんからね? 」
「しない、絶対にしない! 大好きなシャトに誓うよー!」
甘い、のだろうか。でも俺は一生殿下を嫌って生きて行く事はできなさそうだ。無視も出来ない、嫌いにもなれないなら好きになるしか選択肢は残っていないんじゃないだろうか?
「シャトルリア様……あのう、私」
「だよねえ、分かってた。マチェット君」
「え? どういうことですか?」
つまりだ。俺が魔力だまりを揉み解し、魔力の循環を良くした男性。その魔力だまりの後に残ったよくわからん袋的な所に赤ちゃんが舞い降りちゃうんだよ……。
「もう遅いかもしれないけれど、魔力だまりがあった男性は……性交の時に注意してくださいと、妊娠の可能性が高いと周知してください」
「……はい」
「特に魔力が多くて魔力だまりが大きかった人は特に妊娠しやすいので、中出し注意と……」
「……はい……」
どうもそういうことらしい。セイル、宰相さん、マチェット君を検診してそんな結果がでた。はは……あはは……笑えない……。なんでかな、どうしてかな? と思った時ふと蘇る言葉。あのクソ神が言ってたやつだ。
「……責任取って貰いますからね、ってこと?」
それが一番しっくりくる答えだ。だって人の業とは思えない現象だもんな。
「とにかく、様子を診て行かないとあとお医者さんにも相談だ……最後どうやって出てくるのかな?」
尻かな……尻なのかな? いろいろ想像はできるけどそれよりなにより殿下の滅茶苦茶いい笑顔が忘れられない。報告してないのになんでこの話知ってるのかな? も、もしかして誰かこの診察室を覗いてるの!? バッと天井を見ると天井の右隅の板がちょっとずれてる?! 誰かそこにいたの?!
「あ!」
誰か見てるじゃねえかあああ!! 誰だーー! せめて諜報員であってくれ、殿下本人ではないことを祈る。まさか御大自ら天井裏に忍び込んで俺を上から監視してたなんて事はないよな?!
しかし俺は暫くはこの珍事に奔走することになってしまった。問題なのは間違いなく結婚後の我が身に降りかかる話だろう……なんせ俺も自分で体の魔力だまりを開けたもん。
「開けた魔力だまりって閉じないのかな? 」
「閉じない! 」
「うわっ! 殿下ー?! 」
俺の診察室の扉が物凄い勢いで開いて殿下が飛び込んで来た。
「シャトぉ私の子供を産んで下さいーお願いします、お願いしますー」
「膝に縋りついて泣かないで下さい! あとただの独り言にもいちいち反応しないで! 」
もう診察室の前で張り込んで聞き耳立てていたことを指摘するのは無駄だと分かっているからね。
何を言っても俺の細い太腿にぐりぐりと顔を擦り付けるのをやめないよ、この人。
「私はもうシャトの前で強いふりをするのはやめたんだ。シャトの前では素直になるんだ。あの時、ちゃんと頭が痛いってシャトに言えば良かったんだ」
「……殿下……」
確かにそうだ、と今なら言える。最初に教えてくれればこんなことにはならなかった。起こってしまったことだけど、後悔しても変えられないことだけれども。
「だからもう間違えない。シャトさえいればそれで良い。でももし、可能ならやっぱりシャトと私の子供はみてみたい。でもシャトと別の人の子供は見たくない……」
「ははは……」
なんとまあ、確かに素直な意見だな。
「本当はシャトがいてくれたらそれで良いんだ。でも立場上何かとうるさい奴は多い。大体は黙らせてあるんだけど、不満はどことからも沸いてくる。私にそれが向くなら何の問題もないんだけれど、シャトに向ける奴らがいる。それが許せない……いややっぱりただ単にシャトの子供が見たい」
短いホルランド様の髪の毛を撫でる。ぱっさぱさだった髪の毛は見苦しくないように切り揃えて貰っているけれど、帽子をかぶってカバーしている所が多い。新しく伸びてきたところは綺麗な昔と変わらない銀色の髪だけど、治療前の髪の毛は色が抜けている。
「困った人だなぁ」
「ごめんね……こんな私でごめんね。でももうシャトがいない時間なんて考えられない。ずっと一緒にいたいんだ。姿が見えないだけで不安になる。おかしいよね、でも自分でもどうしようもないんだ……またシャトには迷惑をかけてしまう」
殿下の祈るような懺悔を聞きながら、俺はため息をつくしかない。俺と殿下はなんだかんだいって長く一緒に居過ぎた。もうお互いにその存在を無視できなくなってしまっているんだ。結局俺は殿下と離れて国に帰っている間も殿下のことを忘れることなんてできなかった。楽しかった話を母上に聞かせたりしながら、殿下のなさりように腹を立てたり悲しんだり。もう無関心でいることが出来ないんだ。
「私も、殿下のことを無視して生きていくことができないみたいなんです。そうなってくると好きか嫌いかになってしまう」
「嫌いって言わないで!」
青い目をうるうるさせて見上げられると、本当にもう……狡いなあ。
「本当に困った人。もし、次に酷い事したら私も手加減しませんからね? 」
「しない、絶対にしない! 大好きなシャトに誓うよー!」
甘い、のだろうか。でも俺は一生殿下を嫌って生きて行く事はできなさそうだ。無視も出来ない、嫌いにもなれないなら好きになるしか選択肢は残っていないんじゃないだろうか?
83
お気に入りに追加
1,540
あなたにおすすめの小説
主人公の兄になったなんて知らない
さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を
レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を
レインは知らない自分が神に愛されている事を
表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346
ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
気づいて欲しいんだけど、バレたくはない!
甘蜜 蜜華
BL
僕は、平凡で、平穏な学園生活を送って........................居たかった、でも無理だよね。だって昔の仲間が目の前にいるんだよ?そりゃぁ喋りたくて、気づいてほしくてメール送りますよね??突然失踪した族の総長として!!
※作者は豆腐メンタルです。※作者は語彙力皆無なんだなァァ!※1ヶ月は開けないようにします。※R15は保険ですが、もしかしたらR18に変わるかもしれません。
その男、有能につき……
大和撫子
BL
俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか?
「君、どうかしたのかい?」
その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。
黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。
彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。
だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。
大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?
更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!
記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで
橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。
婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、
不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。
---
記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘!
次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。
---
記憶は戻りますが、パッピーエンドです!
⚠︎固定カプです
もふもふ獣人転生
*
BL
白い耳としっぽのもふもふ獣人に生まれ、強制労働で死にそうなところを助けてくれたのは、最愛の推しでした。
ちっちゃなもふもふ獣人と、騎士見習の少年の、両片思い? な、いちゃらぶもふもふなお話です。
下級兵士は皇帝陛下に寵愛される
月見里
BL
両親を事故で亡くし、病弱な妹を育てるために兵士となったウィリアム。高額な治療費が必要となる病を発病した妹の治療費のために貴族の男に体を売ることにしたが、高位貴族だと思っていた男は皇帝だった。3度閨を共にした相手は後宮に囲う決まりだと無理矢理召し上げられ……。受けはどちらかと言うと女好き。皇帝は妻子持ち。皇帝(34)×下級兵士(19) ムーンライトノベルズ・pixivにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる