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39 愛されて、愛して。

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「うぇえ……目が回る、吐きそう」
「はあ、勢いが凄すぎて体の中をぐるぐる回ってたと?」
「勇者マジ勇者……」

 俺が宰相さんに抱えられて部屋から出ると早速部屋の中では戦いのゴングが鳴っていた、カーン!

「セイル!セイルーー!」
「は、早く、もう我慢できないよぉ、ミュウ……!あ、あーーーー!」

 声でかい。でもこれでナニが起こっているか、扉の前で控えていたメイドちゃん達にも伝わったらしく皆ニヤニヤしているから、よろしくお世話してくれるだろう。流石プロだねぇ!

「まだぐるぐる回ってる気がする……酔った」
「お仕事ご苦労様です。しかし勇者とは凄まじいものですね」
「……うん、頼もしいよ」

 北川セイル君(足しちゃった!)はきっと大切にされて来たんだと思う。愛されて、愛して。きっとあの公爵令息のことだ、セイルの家族も貧しい暮らしをもうしてないだろう。身の丈にあった、でも空腹感に悩まされないくらいのちょっとだけ余裕がある生活とかしていそうだ。
 クソ伯父に売られてマチェット君に虐められて奴隷にされるなんてとんでもないよ。まじであの神どうかしてるよ。

「こっちのほうが絶対良いだろう……?」

 シャトルリアのお母さんのチェチェーリア様だってまだ国元でご存命だ、というかとても優しい。あんな形でも婚約破棄されて戻ってきたシャトルリアに毎日気を使ってくれてたの知ってる。多分、自分の代わりに帝国へ送ったのを気に病んでたみたいだけど、俺が帝国での楽しかった話をしてやると微笑んでくれてたっけな。
 戻って最初はぎこちなかったけど、最近はとても可愛がってくれてたし。

「セイルが勇者の役目を果たせれば良いんでしょ……聖女が必要だと?ふふ、俺がやってやるぜ! 」
「シャトルリア様、拳を振り回すと危ないのでやめて下さい」
「あ、はい」

 そうと決まれば聖女の使う神聖魔法についていろいろ調べたいな。帝国の図書館をまたみせてくれないかなー?
 
 俺達がよたよた廊下を歩いていると、前の方がまた騒がしい。静かにしたまえ、君達ィ!この先は愛し合う二人の楽園なのだーって、あれ?

「シャトーー!」
「ホルランド様?」

 俺よりよたよたとホルランド様が侍従や医者に止められながらこっちに向かって歩いてくる。おお!歩けるまで回復したんだ、良かった良かった。本格的に帰って良さそうだな。

「シャト! いた! 」
「ホルランド様」

 おい!赤ちゃんより足元が怪しいぞ!?見れば靴も履いていない。王宮の廊下はそりゃ掃除が行き届いているだろうけど、裸足で歩くところじゃないよ!あ、倒れる!俺は死滅した運動神経を叱咤激励して自己最高速度で倒れる殿下を支えに走った。

「シャト!うわ……!」
「ホラン!!」

 前のめりに倒れそうになる殿下を何とか受け止め……負けた。

「うわ、意外と重い……わあああ!」
「シャトー!」

 ずでん、と殿下の下敷きになってしまうけれど、ぶつけたお尻は痛いが他は無事だった。

「いたた……殿下、殿下大丈夫ですか?どこか痛いところは」
「シャト、シャトどこ行ってたんだ、姿が見えないから心配で捜しにきちゃった。シャト、良かった居た。シャト、シャト……」
「……」

 俺に圧し掛かったままスリスリしてる……なにこの人、ちょっと変じゃない?俺は後でもっとしっかり殿下の頭の中を見ないといけないと思った。

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