上 下
20 / 69

20 帰りは一緒だネ

しおりを挟む
「シャトルリア! お前との婚約は破棄させてもらう!!」
「破棄で、ございますか……」
「お前のような者と私が婚約者であったこと自体おかしいのだ! 新しい婚約者にはこのシェリリア男爵令嬢を迎え入れる!」

 俺は秋生まれで17歳になった次の歳の新年祭で俺は盛大に婚約破棄された。なんかさ宰相まで呼ばれてたからそうかなって思ったんだよね。ある程度予想していたから無様な姿は見せずにいられたと思う。

「しかし、王太子ホルランド様。貴方様とわが国のシャトルリア第二王子との婚約は我が国との平和と友好のために結ばれたもの、それを破棄とは我が国との友好はいかがなさるおつもりか!」

 そうだ、そうだ! それ大事だ!! いいぞ、宰相君平和と友好とても大事もぎ取れ! 俺なんかどうでもいいから。

「ふん、婚約などなくとも攻めなどせぬ!今まで通りだ」

 ヨカタ。それが聞きたかったんだ、我が国弱いから。

「……書面にしたためていただきとうございます」
「そう言うと思ってもうできておる!」

 宰相君が確かめると本当にちゃんとしてたみたいだ。国の判子である玉璽が押してあるって。これは皇帝公認ってことだね……あ、そうですか、はい、分かりました。俺はこの北帝国全体からイラネされちゃったみたい。

「……この書類は大切にさせて頂きます。そして王太子ホルランド様よりの婚約破棄となりますと、わが国のシャトルリア第二王子に非はない。頂きますよ、賠償金を……シャトルリア様の12年、軽くはございませぬ」
「構わぬ! もうその顔を見なくて済むなら安いものだ!」

 ……そこまで嫌われてたのか……。避けられ始めてからこれ以上嫌われないように顔を合わせないように頑張って生活して来たけど、そうもいかなかったみたいだ。しょうがない……ホルランド様がそういうなら、俺に出来ることはもうない。
 俺はほんの少しだけ隣にいてくれる宰相さんに微笑みかけた。

「……宰相、帰りは一緒だね」
「シャトルリア様っ」
「良いんだ。きっと私が至らなかったからだろう」

 こうなることは予想していたから部屋ももう片付けてあるし、侍女ちゃんやメイドちゃんは全部身の振り方を決めてある。俺が懇意にしていたちょっとだけ居る貴族達の家に勤めさせて貰ったり、この国を離れることを決めた子もいるし、俺と一緒に行くことを決めた子もいる。だから、大丈夫だ。自分の後始末は自分でつけられた。たくさん勉強を教えて貰った教授達、それにお世話になったヒッコリー夫人にも別れの挨拶は済ませてある。皆、悲しんだり怒ったり……ホルランド様に陳情しようとしてくれたりしたけど、それはやめてくれるようにお願いした。ホルランド様が決めたことだ、俺はその決定に従いたい。ホルランド様が注いでくれた優しさや笑顔に報いるにはもうそれくらいしか出来ることがなかったんだ。

 それにしても……ホルランド様は壇上で女性を抱き寄せているけれど、シェリリア男爵令嬢? 男爵令嬢でいいのか……? 貴族達の間からざわめきが消えない。はっきりいえば12年この国で地道に活動してきた俺より信頼も実績もないぞ、あの子。そんな子を俺の後釜に据えるの、大丈夫?? 俺に勉強を教えてくれていた教授陣もあの子の事を嫌ってるみたいだし、これから短期間で俺が10年以上かけて覚えて来た事を詰め込むのかな? それとも凄く賢い子なんだろうか。

「ホルランドさまぁ~」
「ああ、大丈夫だよ、しゃと……シェリリア……うっ」

 ホルランド様が頭を押さえて蹲った。あれ? 最近避けるようにしてたから気が付かなかったけど頭痛がするんだろうか?もしかして体調が悪いのかな……?

「そ、そいつを、そいつを追い出して!!そいつのせいよ!」

 シェリリア男爵令嬢は俺を指さして大声で叫んだ。はしたないな……ホント大丈夫かな。でももういいよね、俺と宰相さんと、俺の国の人達は帰る事にした。ものすんごいお高い慰謝料を踏んだくってね。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

主人公の兄になったなんて知らない

さつき
BL
レインは知らない弟があるゲームの主人公だったという事を レインは知らないゲームでは自分が登場しなかった事を レインは知らない自分が神に愛されている事を 表紙イラストは マサキさんの「キミの世界メーカー」で作成してお借りしています⬇ https://picrew.me/image_maker/54346

記憶の欠けたオメガがヤンデレ溺愛王子に堕ちるまで

橘 木葉
BL
ある日事故で一部記憶がかけてしまったミシェル。 婚約者はとても優しいのに体は怖がっているのは何故だろう、、 不思議に思いながらも婚約者の溺愛に溺れていく。 --- 記憶喪失を機に愛が重すぎて失敗した関係を作り直そうとする婚約者フェルナンドが奮闘! 次は行き過ぎないぞ!と意気込み、ヤンデレバレを対策。 --- 記憶は戻りますが、パッピーエンドです! ⚠︎固定カプです

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

上司に連れられていったオカマバー。唯一の可愛い子がよりにもよって性欲が強い

papporopueeee
BL
契約社員として働いている川崎 翠(かわさき あきら)。 派遣先の上司からミドリと呼ばれている彼は、ある日オカマバーへと連れていかれる。 そこで出会ったのは可憐な容姿を持つ少年ツキ。 無垢な少女然としたツキに惹かれるミドリであったが、 女性との性経験の無いままにツキに入れ込んでいいものか苦悩する。 一方、ツキは性欲の赴くままにアキラへとアプローチをかけるのだった。

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

【完結】召喚された勇者は贄として、魔王に美味しく頂かれました

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
美しき異形の魔王×勇者の名目で召喚された生贄、執着激しいヤンデレの愛の行方は? 最初から贄として召喚するなんて、ひどいんじゃないか? 人生に何の不満もなく生きてきた俺は、突然異世界に召喚された。 よくある話なのか? 正直帰りたい。勇者として呼ばれたのに、碌な装備もないまま魔王を鎮める贄として差し出され、美味しく頂かれてしまった。美しい異形の魔王はなぜか俺に執着し、閉じ込めて溺愛し始める。ひたすら優しい魔王に、徐々に俺も絆されていく。もういっか、帰れなくても……。 ハッピーエンド確定 ※は性的描写あり 【完結】2021/10/31 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、エブリスタ 2021/10/03  エブリスタ、BLカテゴリー 1位

気づいて欲しいんだけど、バレたくはない!

甘蜜 蜜華
BL
僕は、平凡で、平穏な学園生活を送って........................居たかった、でも無理だよね。だって昔の仲間が目の前にいるんだよ?そりゃぁ喋りたくて、気づいてほしくてメール送りますよね??突然失踪した族の総長として!! ※作者は豆腐メンタルです。※作者は語彙力皆無なんだなァァ!※1ヶ月は開けないようにします。※R15は保険ですが、もしかしたらR18に変わるかもしれません。

その男、有能につき……

大和撫子
BL
 俺はその日最高に落ち込んでいた。このまま死んで異世界に転生。チート能力を手に入れて最高にリア充な人生を……なんてことが現実に起こる筈もなく。奇しくもその日は俺の二十歳の誕生日だった。初めて飲む酒はヤケ酒で。簡単に酒に呑まれちまった俺はフラフラと渋谷の繁華街を彷徨い歩いた。ふと気づいたら、全く知らない路地(?)に立っていたんだ。そうだな、辺りの建物や雰囲気でいったら……ビクトリア調時代風? て、まさかなぁ。俺、さっきいつもの道を歩いていた筈だよな? どこだよ、ここ。酔いつぶれて寝ちまったのか? 「君、どうかしたのかい?」  その時、背後にフルートみたいに澄んだ柔らかい声が響いた。突然、そう話しかけてくる声に振り向いた。そこにいたのは……。  黄金の髪、真珠の肌、ピンクサファイアの唇、そして光の加減によって深紅からロイヤルブルーに変化する瞳を持った、まるで全身が宝石で出来ているような超絶美形男子だった。えーと、確か電気の光と太陽光で色が変わって見える宝石、あったような……。後で聞いたら、そんな風に光によって赤から青に変化する宝石は『ベキリーブルーガーネット』と言うらしい。何でも、翠から赤に変化するアレキサンドライトよりも非常に希少な代物だそうだ。  彼は|Radius《ラディウス》~ラテン語で「光源」の意味を持つ、|Eternal《エターナル》王家の次男らしい。何だか分からない内に彼に気に入られた俺は、エターナル王家第二王子の専属侍従として仕える事になっちまったんだ! しかもゆくゆくは執事になって欲しいんだとか。  だけど彼は第二王子。専属についている秘書を始め護衛役や美容師、マッサージ師などなど。数多く王子と密に接する男たちは沢山いる。そんな訳で、まずは見習いから、と彼らの指導のもと、仕事を覚えていく訳だけど……。皆、王子の寵愛を独占しようと日々蹴落としあって熾烈な争いは日常茶飯事だった。そんな中、得体の知れない俺が王子直々で専属侍従にする、なんていうもんだから、そいつらから様々な嫌がらせを受けたりするようになっちまって。それは日増しにエスカレートしていく。  大丈夫か? こんな「ムササビの五能」な俺……果たしてこのまま皇子の寵愛を受け続ける事が出来るんだろうか?  更には、第一王子も登場。まるで第二王子に対抗するかのように俺を引き抜こうとしてみたり、波乱の予感しかしない。どうなる? 俺?!

処理中です...