上 下
73 / 80
IF編 闇へ

8

しおりを挟む
「しんじらんない!!」

 リリーシュアは自分が創造した大地の上に立っていた。

「……でも悪くないわね。何せ自分で作ったんだし!」

 鼻歌を歌いながら、歩き出す。ガマの穂みたいなものを振り回しながらご機嫌だったが、すぐにうずくまった。

「靴とかないし……」

 足が痛んだ。なんとか道らしき場所に出ると、遠くから馬車が来るのが見えた。

「のせてー!」

 リリーシュアは手を振って、馬車を止める。

「へぇ、可愛いじゃねーか!」

 野蛮そうな男達だったが、リリーシュアは気を良くした。

「そりゃそうよ!私は女神だからね!」

「女神ぃ?へぇ……なるほどなぁ……」

「ん?」

 男達の下卑た笑いが深くなる。

「じゃ、女神様の御慈悲でも貰おうかぁ?」

「え?い、いやあああーーー!」

 この世界で女神といえば、娼婦の事だ。リリーシュアは堕ちて行く。

 自分の身を証明する物がない。お金もない。そして顔が良い若い女。リリーシュアはすぐに娼館に売られた。

「……嫌だけど、悪くない、かも?」

 リリーと呼ばれるようになり、娼館でも人気者になった。リリーには貴族の客もつき、贈り物も貰った。

「ふふん、やっぱり私ってば女神じゃない?」

 ただ、リリーシュアは忘れていた。人は老いると言うことを……。

「なんでよ」

 リリーは歳をとっていった。娼館の一番は若い子に移る。リリーに贈り物をくれた貴族も他の若い子に移る。

「何よ!私の事を身請けしてくれるっていったのに!」

「うるさい!」

 薹が立ったリリーに見向く者はない。

「何で早目に貰われておかなかったのよ」

「だって、私可愛いからまだいけるって思ったんだもん」

 そういうと、娼館の仲間はギャハハ!と下品に笑った。

「ババァが可愛いとか!終わってるー!」

 とうとうリリーは娼館からも追い出される。何せ周りと上手くやる事が出来ないのだ。
 空気は読めない、自分勝手。

「出ておいき!」

「うっさい!こっちから出てってやるわ!」

 リリーは放り出され街角に立つ生活を強いられる。

「なんで、何でこんなことに……」

 寒さに震えて、飢え、暴力に涙する。

「もう嫌だ……誰か、誰か……」

 そう言いながら、食べ物を買わず酒を浴びる。

 痛みも苦しみも老いも、怪我もするし病気もするのに、リリーは死ななかった。

「し、しんじらんない……」

 リリーはある日、子供ができた事を知った。

「私が、子供を??ありえないわ!」

 リリーの腹はどんどん膨らんでいき、客が取れない日が続く。

「なんで!なんで、こいつ!死なないの?!」

 無事にリリーは子供を産んだ。

「不細工」

 誰の子供が分からない男の子をリリーは産んだ。

「要らないんだけど?!」

「馬鹿をお言いでないよ!リリー」

「ふん!育ったらそこそこで売るわ。金になるかしら?」

「あんた……本当に人の子かい?!」

 街角に立つ仲間にすらリリーは言われたが悪びれなかった。

「私は女神なんだから!」

 祈る者はもはや誰もいなかったが。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

with you

あんにん
BL
事故で番を失ったΩが1人のα青年と出会い再び恋をするお話です

馬鹿でかわいい俺だけの魔族

桃瀬わさび
BL
お馬鹿な魔族を手に入れたいと思った勇者の話。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました

芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)

見捨てられ勇者はオーガに溺愛されて新妻になりました

おく
BL
目を覚ましたアーネストがいたのは自分たちパーティを壊滅に追い込んだ恐ろしいオーガの家だった。アーネストはなぜか白いエプロンに身を包んだオーガに朝食をふるまわれる。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

モテる兄貴を持つと……(三人称改訂版)

夏目碧央
BL
 兄、海斗(かいと)と同じ高校に入学した城崎岳斗(きのさきやまと)は、兄がモテるがゆえに様々な苦難に遭う。だが、カッコよくて優しい兄を実は自慢に思っている。兄は弟が大好きで、少々過保護気味。  ある日、岳斗は両親の血液型と自分の血液型がおかしい事に気づく。海斗は「覚えてないのか?」と驚いた様子。岳斗は何を忘れているのか?一体どんな秘密が?

処理中です...