上 下
62 / 80
動物に異様に好かれる手

62

しおりを挟む
「死ね!死ねぇ!」

「断る」

 ざんっ!伸びた爪がまた少し闇を抉り取り、魔王になったゼリアはぐらりと傾いた。

 ゼリアの周りは瘴気が満ちていて、そばにいるだけで病んで行くのに、レジールは平気な顔で切りかかってくる。

「なんだ?!障壁か!」

「お前にいうべき事はないな!」

 ゼリアの目にも闇を弾く緑の壁が見え隠れする。

「あいつか!あの奴隷!」

 後ろにあのレオニーが懐いていた奴隷の男が見える。守られながらひょこひょこと顔を出し、何かを唱える。それはゼリアの邪魔をするものだ。

「まずはお前を黙らせる!」

「レンテドールっ!」

 目障りな男が闇を裂く。

「大丈夫だ、問題ない」

 あの奴隷を庇うように、立ち塞がる。

「シロウを狙ってんじゃねーよ!」

「ぎゃっ!」

 目の前の男に深々と切り裂かれた。痛い、痛いなんてなんて酷い。

「痛い!痛いよ!」

「おめーに殺された奴らも同じ事言ったろうな!ほら、お前の後ろの奴等も同じ事言ってるぜ!」

 振り返ると、闇に囚われたままの王と王妃、そして第一王子が叫んでいた。

「痛い…!痛い!」

「ゼリア……なんて事を……!」

「憎い……お前がぁ……!」

「ひっ!」

 私はそれから離れようとした。でもこれから離れるには目の前の男に近づかねばならない。
 目の前の男は怒っていて、また私を攻撃してくる。

「わ、私は、私は悪くない!」

「ああん?!悪いだろーが!お前、何人殺したんだよ!ここに来るまで人がいなかったぞ?!全部お前がやったんだろ?!」

 私が……?そういえば、生きている物を殺せと誰かに命令したような。誰が?誰に……?

 し、知らない!私は知らない!


「レンテドール様、あの魔王何か変です」

「よく分からないが、レジール殿との話が明確になって来ているな」

 シロウは頷いた。

「さっきまで、真っ黒な塊だったんです。何もない、真っ黒な。今、少しだけ違う物があるような気がして」

「闇に呑まれていた元の人間が裂かれて顔を出したか?」

「そう、かもしれません」

 もっと闇を切り裂けば!

「レジール様、お願いします!」

「ふ、やはり愛しい者の声が一番力になるな」

 ニヤリと笑うレジールに、ゼリアは声を上げる。

「愛しい?あいつ奴隷で男だろう?!愛しいってなんだよ、おかしいだろう!」

「俺が誰を愛そうとお前には関係ない。口を挟むな、ひよっこが!」

 牙を剥き、爪を光らせるレジールにゼリアは後退りする。

「し、しかもあいつ人間だろ!お前獣の癖になんで!」

「俺がシロウを愛したんだ人間だとか獣人だとか、どうでもいいんだよ、うるせぇな!」

「どうでも良くないよ!だって母上が言ったんだ!獣人は汚らしい、人間より下の生き物だから、生きている意味がないって!虐めて良いんだって!」

「はん」

 レジール様は小指を頭の上の耳をほじった。

しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

馬鹿でかわいい俺だけの魔族

桃瀬わさび
BL
お馬鹿な魔族を手に入れたいと思った勇者の話。

馬鹿犬は高嶺の花を諦めない

phyr
BL
死にかけで放り出されていたところを拾ってくれたのが、俺の師匠。今まで出会ったどんな人間よりも強くて格好良くて、綺麗で優しい人だ。だからどんなに犬扱いされても、例え師匠にその気がなくても、絶対に俺がこの人を手に入れる。 家も名前もなかった弟子が、血筋も名声も一級品の師匠に焦がれて求めて、手に入れるお話。 ※このお話はムーンライトノベルズ様にも掲載しています。  第9回BL小説大賞にもエントリー済み。

平凡ハイスペックのマイペース少年!〜王道学園風〜

ミクリ21
BL
竜城 梓という平凡な見た目のハイスペック高校生の話です。 王道学園物が元ネタで、とにかくコメディに走る物語を心掛けています! ※作者の遊び心を詰め込んだ作品になります。 ※現在連載中止中で、途中までしかないです。

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

無能扱いの聖職者は聖女代理に選ばれました

芳一
BL
無能扱いを受けていた聖職者が、聖女代理として瘴気に塗れた地に赴き諦めたものを色々と取り戻していく話。(あらすじ修正あり)***4話に描写のミスがあったので修正させて頂きました(10月11日)

見捨てられ勇者はオーガに溺愛されて新妻になりました

おく
BL
目を覚ましたアーネストがいたのは自分たちパーティを壊滅に追い込んだ恐ろしいオーガの家だった。アーネストはなぜか白いエプロンに身を包んだオーガに朝食をふるまわれる。

社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈

めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。 しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈ 記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。 しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。 異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆! 推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!

王子様と魔法は取り扱いが難しい

南方まいこ
BL
とある舞踏会に出席したレジェ、そこで幼馴染に出会い、挨拶を交わしたのが運の尽き、おかしな魔道具が陳列する室内へと潜入し、うっかり触れた魔具の魔法が発動してしまう。 特殊な魔法がかかったレジェは、みるみるうちに体が縮み、十歳前後の身体になってしまい、元に戻る方法を探し始めるが、ちょっとした誤解から、幼馴染の行動がおかしな方向へ、更には過保護な執事も加わり、色々と面倒なことに――。 ※濃縮版

処理中です...