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動物に異様に好かれる手

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 ちやほやされるという言葉をシロウは痛いほど知った。

「シロウ~シロウ~ごはん一緒にたべよ~シロウ~シロウ~」

 カリカリ、カリカリ……。

「あ!リオルド様!駄目ですよ。レジール様のお部屋の扉をひっかいちゃ!あーあ、またレジール様に叱られますよ!」

「だってぇ~シロウがいつまでも寝てて起きてこないんだもん~。レジールおじさまも起きないし~ぼく、シロウと遊びたいの~!」

「そりゃシロウ様は起きられませんし、お外も無理だと思いますよ……」

 メイドはぼそりと呟いたがリオルドの耳には入ったようだ。

「えー!どうして?どうして??」

「そ、それは昨日明け方まで……むにゃむにゃ……あ!多分午後からなら大丈夫……かも?しれませんから、お勉強を先に終わらせておいた方が良いのではないでしょうか?おやつを一緒に召し上がれるか聞いておきますので」

「えー!!おやつの時間までまだまだ遠いよ~!」

「その時間にお勉強が終わってなければ遊べませんけれど、どうします?」

「それやだ!ぼく、お勉強してくる!」

 たっとリオルドは駆け出し、メイドはやれやれとため息をついた。

「毎日コレは少し……可哀想な気がしますね」

 誰が?シロウがである。

「午後には起きられるかしら……?」



「シロウ」

「……ん」

 目を覚ますといつも日が高い。それでもシロウは満足している。起きた時、どこもけがをしていない事。一人じゃなく守ってくれる存在が隣にいる事。微笑んでくれること。撫でてくれる事。

 手を伸ばせば暖かく抱きしめてくれること。

「昨日も無理をさせたか?」

 存外柔らかい股関節はそんなに痛くなかったし、違和感もそんなにない。受け入れるのに慣れた体なのだから。

「ううん、してほしいから。いいの」

「そうか」

 いつも通り抱えられ、備え付けられた風呂で洗われる。体の隅々までじっくりねっぷり愛される。

「少し、肉がついてきたな。薄いのもいいが、もう少しあってもいい」

「ごはん、美味しいから……」

 この世界に落ちてきてからやっと美味しい物を食べたとシロウは言った。

「今まで何を食ってたんだ?」

「分からない……何の味もしなくて、とりあえず噛んで飲み込んでた」

 たくさん皿に盛っても、ほんの少しだけスプーンですくって食べる。固形物より液体を好んでいるのは歯が折れたままだからなのかもしれない。無理に食べさせることはせずに、柔らかい物や果物をレジールはシロウに食べさせる。

「美味しい」

「そうか」

 つがいにエサをやるのはとても楽しい。レジールは初めての感覚にうっそりと笑んだ。シロウは人間だから、つがいではなくて伴侶で、エサではなくて食事なのだが。何かを食べるたびに少し驚き、美味しいともぐもぐ口を動かしているだけで自尊心と愛情が満たされて行く。
 少しずつ浮いた骨が見えなくなって、抱き心地が良くなってくる。栄養不足でカサカサだった肌と髪も艶が出てくる。
 淡い色の金髪を手に取ると不思議そうな顔をされた。

「伸ばせ。飾りの玉をつけよう。俺の目の色と同じ紫の玉を買ってやるから、ずっとつけるんだ」

「……分かった、大事にする」

「それで良い」

 まだ細い腕を引いて、腕の中に閉じ込める。

「ねえ、何も出来ない」

「何かしたいのか?」

 尋ね返せば、うーん?と考え込む。何かするより、体を治す事を優先して欲しいとレジールはシロウに何もさせない。

「うーん?ブラシかけようかな?」

「それは気持ち良いが、俺の毛並みが整い過ぎて、義姉上から凄い目で睨まれるんだが?」

 シロウがしょっちゅうレジールにブラシをかけるので、今や国一番の毛並みの持ち主で、女性達から煙たがられている。

「じゃあ王妃様にブラシをかけに行ってくるよ」

「それは駄目だ。シロウは俺の所にいなきゃいけない。そうでなくてもリオルドのわがままに付き合わされるんだからな」

 泣いて喚いて

「シロウと遊ばなきゃやだやだーーー!」

 と、転げ回る子供には流石のレジールも強くは言えない。

「別に俺はリオルド様と遊ぶの嫌いじゃないよ?」

「俺が嫌なんだよ!」

 がお!とわざとらしく鳴いて押し倒し、べろりと首筋を舐め上げる。

「くすぐったい!」

 他の獣人に噛まれてぼろぼろにされた跡も少しずつ回復していっていた。


 

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