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59 運命
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「レント、絶対にリーヤを泣かせないでください。不埒者の手からリーヤを守ってください。リーヤを愛してください」
「言われなくても。俺の全力でリーヤを守り、愛すと決めている」
フランはよろりと立ち上がり、レントの前までゆっくり歩いて来た。背はフランが少し低い。
「お願い……します。私は、どうしても国を捨てられない……。私はリーヤを一番にしてやることが出来ない……」
フランは泣いてはいなかったが、言葉は血を吐くようだった。
「分かった」
「お願い、します」
レントの目を見てしっかり言い、そして背を向けた。その背中はとても寂しくて、つい声をかけそうになるけれど、グッと堪えた。
フラン、フラン。俺達はどこですれ違ったのかな?俺は、多分お前の一番で無くても大丈夫だった。
お前が頼むなら貴族の礼儀も覚えたかもしれないし、子供が欲しければ別れもしたかもしれなかった。
全部「だったかも」だけど。
もう俺はお前の背中を静かに見送るレントが好きだ。かなり強引だけれど、俺を抱き上げて甘やかしどこにもやらないと言い切るレントが好きになったんだ。
フランが開けた穴に無理やり入り込んで住み着く傍若無人なライオンが可愛いと思うんだ。
「母さん、俺ね。レントが好きなんだ」
「そうね、母さんも好きよ。ちょっと考えなしで大きな猫みたいだけどね」
「俺、レントの嫁になるよ」
そう。母さんもフランの見えなくなるフランの背中を見送った。
「フランはいい子だわ、いい子過ぎる程に」
「ああ、そうだね」
王子として育ち、愛し愛された国が疲弊していたら、助けたいと願うのが普通だ。しかも長年何も出来ずにいたのに、何か出来る手足が返ってきたんだ。
フランとフランの国を恨む気持ちなんてこれっぽっちもない。
運命、そうだったんだろう?
「リーヤ」
見上げると、隣にレントが立っていた。運命、そうだよな。
「レントは、俺の事が好きなんだな」
「そうだな、相当愛してる」
伸ばされた手に掴まるとそのまま抱き上げられた。
「俺もお前が好きだよ、お前が一番だ」
「ああ、ありがとう」
さよなら、フラン。立派な王様になれよ。俺はフランの未来が明るい事をただ祈るだけだった。
「ごめんね。レン兄ちゃまがリーヤちゃんをとっちゃったんでしょう?」
「……大丈夫ですよ」
とぼとぼと歩くフランは小さな女の子に声をかけられた。
獅子の耳に尻尾。そして今まで剣を交えていた憎らしいあの獅子の獣人にそっくりな少女。
あの男の妹だろう。
「大丈夫じゃないでしょう?泣いた方が良いのよ、お兄ちゃん」
「私はもう大人だからね、あまり泣けないんだ」
「それは嘘よ、お兄ちゃん。悲しい時は大人も子供も泣くのよ。だから泣いて良いのよ」
小さな女の子の大きな言葉に、フランは耐え切る事が出来なかった。
形の良い眉をきゅっと寄せて、フランはポトリと涙を落とす。
「リーヤが、好きだったんだ……闇の中にいた私を……明るい所に引き上げてくれた、リーヤが」
「リーヤ兄ちゃまは優しいものね」
「拾ってくれただけで嬉しかった。隣にいる事を許して、笑ってくれるだけで良かったんだ……それなのに私は」
建物の壁に背をつけ、ズルズルとしゃがみ込む。
「欲が出たんだ。あの裏表のない笑顔に私を刻みつけて、ずっとずっと心に止まりたい、そう思った……」
欲。それを捨てて、命だけを繋いで来たフランにリーヤが戻してやったものは手足だけではなかった。
「もう会うはずもないと思ったリーヤ。それなのにまさか皇帝の息子として、貴族としてまた出会った。嬉しかった……でもリーヤは皇帝の息子だ。ただの敗国の生き残りが親しく口を聞いてはいけないと思ったんだ……。リーヤはそんな事一欠片も思っていなかったのに、私は自分の常識をあの子にぶつけたんだ」
「言われなくても。俺の全力でリーヤを守り、愛すと決めている」
フランはよろりと立ち上がり、レントの前までゆっくり歩いて来た。背はフランが少し低い。
「お願い……します。私は、どうしても国を捨てられない……。私はリーヤを一番にしてやることが出来ない……」
フランは泣いてはいなかったが、言葉は血を吐くようだった。
「分かった」
「お願い、します」
レントの目を見てしっかり言い、そして背を向けた。その背中はとても寂しくて、つい声をかけそうになるけれど、グッと堪えた。
フラン、フラン。俺達はどこですれ違ったのかな?俺は、多分お前の一番で無くても大丈夫だった。
お前が頼むなら貴族の礼儀も覚えたかもしれないし、子供が欲しければ別れもしたかもしれなかった。
全部「だったかも」だけど。
もう俺はお前の背中を静かに見送るレントが好きだ。かなり強引だけれど、俺を抱き上げて甘やかしどこにもやらないと言い切るレントが好きになったんだ。
フランが開けた穴に無理やり入り込んで住み着く傍若無人なライオンが可愛いと思うんだ。
「母さん、俺ね。レントが好きなんだ」
「そうね、母さんも好きよ。ちょっと考えなしで大きな猫みたいだけどね」
「俺、レントの嫁になるよ」
そう。母さんもフランの見えなくなるフランの背中を見送った。
「フランはいい子だわ、いい子過ぎる程に」
「ああ、そうだね」
王子として育ち、愛し愛された国が疲弊していたら、助けたいと願うのが普通だ。しかも長年何も出来ずにいたのに、何か出来る手足が返ってきたんだ。
フランとフランの国を恨む気持ちなんてこれっぽっちもない。
運命、そうだったんだろう?
「リーヤ」
見上げると、隣にレントが立っていた。運命、そうだよな。
「レントは、俺の事が好きなんだな」
「そうだな、相当愛してる」
伸ばされた手に掴まるとそのまま抱き上げられた。
「俺もお前が好きだよ、お前が一番だ」
「ああ、ありがとう」
さよなら、フラン。立派な王様になれよ。俺はフランの未来が明るい事をただ祈るだけだった。
「ごめんね。レン兄ちゃまがリーヤちゃんをとっちゃったんでしょう?」
「……大丈夫ですよ」
とぼとぼと歩くフランは小さな女の子に声をかけられた。
獅子の耳に尻尾。そして今まで剣を交えていた憎らしいあの獅子の獣人にそっくりな少女。
あの男の妹だろう。
「大丈夫じゃないでしょう?泣いた方が良いのよ、お兄ちゃん」
「私はもう大人だからね、あまり泣けないんだ」
「それは嘘よ、お兄ちゃん。悲しい時は大人も子供も泣くのよ。だから泣いて良いのよ」
小さな女の子の大きな言葉に、フランは耐え切る事が出来なかった。
形の良い眉をきゅっと寄せて、フランはポトリと涙を落とす。
「リーヤが、好きだったんだ……闇の中にいた私を……明るい所に引き上げてくれた、リーヤが」
「リーヤ兄ちゃまは優しいものね」
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「もう会うはずもないと思ったリーヤ。それなのにまさか皇帝の息子として、貴族としてまた出会った。嬉しかった……でもリーヤは皇帝の息子だ。ただの敗国の生き残りが親しく口を聞いてはいけないと思ったんだ……。リーヤはそんな事一欠片も思っていなかったのに、私は自分の常識をあの子にぶつけたんだ」
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