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44 私は唇をかみしめるしかなかった(フラン視点)

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「も、申し訳!!申し訳ございません!!エリスリーヤ姫が!リーヤが攫われました!!」

 その一報は閃光より早く王城を駆け巡った。

「鳥です!鳥獣人です!」

「西へ飛ぶ影を見たもの多数」「袋を抱えていたとか」「人が入るくらいあった」「それです」

「親書が3日前に」「エリスリーヤ姫の奇跡を」「怪我が酷いと」「間違いない」

「特番、出ろ」「1番から3番まで行け!」「弓と魔法で撃ち落とすことも必要かもしれん」

「交渉は我々に任せて思いっきりやってください」「獣人国・クォンツとの開戦やむなし」

 あり得ない速度で、武人たちが飛び出していく。リーヤが攫われたと伝えられてから10分もたっていないだろう。普通なら決定までに何時間もかかって、部隊が動き出すまでに1日は要するはずなのに、いくら大切なリーヤとはいえここまで素早く国が動けるのは凄いを通り越して恐ろしい。


「リーヤが……」

 私は唇をかみしめるしかなかった。あの時リーヤの所から消えた私達は元ユバル国の傍で、情勢を伺い情報を集めていた。私達はデズモンドに捕まっていた期間が長かったため、ユバルがどうなったのか、そこから知る必要があったからだ。
 リーヤが治してくれた体は良く動き、まさか手足が無くなっていたなんて思わせないほど快調だった。

「リーヤ……」

 あの時、リーヤは私を許してくれたのだろうか。優しいリーヤ、ただ何も言わず抱きしめてくれたリーヤに酷い事をして、私達は出て来た……それでも私はユバルの王族の血を引いているのだから、やらなければならない事がある。国と国民を守る責務があるのだ。

 酷くやせ細ったユバルは、驚くことに復興の兆しを見せていた。帝国の支配にありながら、帝国領地に対して寛大な措置を取り始めたのだ。最初は捨て置かれていると思ったのだが、次第にまともな役人がやってきて、人々を取りまとめてゆく。

「王族や、それに準ずるものがいれば一度中央まで来てもらいたい」

 そんな呼びかけまでしている……これは信用できるのか?それでも私達は慎重に行動した。そしてある時からそれは「王族」から「フラン王子」「ライード」「レフィリー」と我々個人名に変わっていた。私達が生きてそしてここに居ると確信して呼び掛けているように感じた。
 最初にライードが接触を試み、そして知った。中央が変わったのだと、そしてリーヤが皇帝の息子でデズモンドの被害者たちを治しているのだと。

「デズモンドの被害者を捜しております。リーヤ様が治してくださるのです。それと領主となるべき王族を全国で。ユバル国はフラン様、貴方を推したい。一度中央に出向いてもらえませんか?」

 私達はその役人の言葉を信じて皇帝の城へ足を運んだ。リーヤに会いたかった、それもある。リーヤ、リーヤ。皇帝の息子だったのか。確かにフローラ様には貴族の気品があった。リーヤもきれいな顔立ちをしていたな……。

「フラン様……」

「リーヤは私の事をどう思うのだろうな……そして私はリーヤに会ったら何と言えばいいのだろう」

 謝ればいいのか……それとも怒ればいいのか……どうしたらいいか分からないまま、皇帝と面会の日がやってきてしまった。



 そして私は、一番してはいけない事をしてしまった。私の顔をみてリーヤは笑った、喜んでくれていた。そしてぐしゃりと悲しみに潰れた。「母さん」リーヤはこの場で一番頼れる人を一人連れ、いなくなる。

「……もうお帰りになって結構です、元ユバル国王子フラン様。追って伝えます。ユバル領をよろしくお願いします」

 皇帝に仕えているという宰相がそう無機質な声で伝えて来た。当の皇帝も相当機嫌を崩している……リーヤは皆に愛されているんだな。

 私は言われた通り皇帝の前から辞し、城の廊下を歩いている。後ろにはライードとレフィリーが付いてきている。

「私は……リーヤをまた傷つけた」

 二人は何も言わなかった。

「リーヤは皇帝の息子として、幸せに暮らしているのではなかったのか……また私の我がままにつき合わせ振り回す事など、してはいけない事ではなかったのか……?」

 長い廊下には我々しかいない。かつん、かつんと足音だけが響く。どこかから捨てられ、胸が張り裂けそうな子供のように泣く声が聞こえている気がする。

「……私は、あの子に好きだと伝えて、抱きしめても良かったのだろうか」

 あの子が取り戻してくれた足を止め、あの子が取り戻してくれた手を見る。この手に抱きしめて良かったのだろうか。荒れたユバルに一緒に来てくれと言っても良かったのだろうか。

「……謝りたいな」

「そうですね」「そのほうがよろしいでしょう」


 そして私はまた失敗をしたのだ。その日のうちにリーヤを頭を下げて捜し、会いに行けばよかったのに、私達は一度滞在先の宿に戻ってしまったのだ。そしてリーヤに会えなくなった。取り次ぎを頼んでもリーヤは一向に現れない。
 そしてやっとエリスリーヤ姫として現れたら……話す間もなく拉致されてしまった。

「ライード!レフィリー!私達もリーヤを捜しましょう!」

「ええ!勿論ですとも」「当然です!」

 リーヤ、リーヤ。私の愛しい人。どうか無事でいて。私は天を祈りながら走り出し、馬の手綱を取ったのだ。

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