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31 「切断公爵」
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眼鏡隊と脳筋隊の行動は早かった。元々一騎当千、変幻自在の切れ者集団なのだ。皇帝カリウスの威を借りてできない事は何一つ無かった。疾風のように押し込んで、全てを捕らえ、全てを押さえ、制圧するのは一瞬だったらしい。
「くそっ!離せ!ワシを誰だと心得る!ワシは陛下の覚えもめでたいザサード公爵だぞ!」
でっぷりと肥えた50絡みの男が後ろ手に縛られ部屋の真ん中に投げ出された。その男をみて皇帝カリウスは不快感から少しだけ眉根を寄せた。この見た目も醜悪な男がデズモンド・ザサード公爵。通称「切断公爵」気狂いの公爵だそうだ。俺も初めてみたよ。
「知らん顔だ。これは私の部下ではない。何故このような醜悪な物が私の部下を名乗っておるのだ」
「ひっ?!わ、私は皇帝陛下の忠実な僕でございます!」
「私の前に一度も顔を出さぬ忠実な僕などいるはずも無かろう」
俺の目から見ても汚いおっさんは変な汗を大量に流しながら、目を泳がせる。必死に言い訳を探している顔だ。
「あ、あの!面会記録!面会記録を見ていただければ!」
「私の記憶を疑うというのか?大した忠義者だな」
そこにすっとアシューレス元宰相が手を挙げた。許す、そう皇帝から声をかけられ、フローラ傭兵団眼鏡部隊隊長が口を開く。
「あ!あ!アシューレス!な、何故お前が!あ、足!手!た、確かに私が奪ったはずなのに?!」
怯えるデズモンドのおっさんを一瞥、鼻で一つ笑ってから、眼鏡を人差し指でクイっとあげた。
「その男に買収された書記官のリストです。そして改ざんされた面会記録簿。すぐに押さえた為、補正の隙を与えませんでした。この記録簿によると、そこの男は一昨日とその前日にも皇帝と直接の会い、長い懇談をした事になっております」
「ほう?」
「この改ざんは陛下が皇帝となられる前から行われており、現存する全ての記録簿は彼らの手により勝手に捏造されている物に相違ありません」
「ば!馬鹿な!そんな事がある訳がないっ!!」
自重で起き上がれないザサードは這いつくばったまま、唾を飛ばして怒鳴りまくる。それをここにいる全員が冷たく見下しながら、別の眼鏡が手を挙げる。許す、皇帝の許可を確認して眼鏡は言う。
「面会記録簿と、皇帝の行動記録簿、戦歴などなどここ10年あまりの事を調べましたが、その面会記録簿の改ざんはあまりに稚拙すぎます。皇帝陛下が戦場で駆けている時に、王城にてその男は謁見し、爵位を授かるという不思議な事を良く起こしております」
「ほう?」
「で!出鱈目を!出鱈目を言うな!わ、ワシは陛下より直々に爵位を授かった!」
「私はお前に会った事などないのだが、お前はどの皇帝に爵位を貰ったのだ?私ではあるまいな?」
ギロリと睨まれ、おっさんはまた縮み上がる。フローラ傭兵団の眼鏡に知能舌戦で勝てる訳がないのに。
また別の眼鏡が手を上げ、許可される。
「そこの醜い男を捉える際に少し失敬して参りました。この男が陛下より授かったという爵位譲渡書ですが、偽造と判断されます」
金縁の美しい豪奢な厚い紙には確かにデズモンド・ザサードを公爵とする旨記され、皇帝の印とサインがされていた。
「ぎ、偽造な訳がなかろう!皇帝印は本物だ!」
喚く男に、眼鏡は冷たい光を反射し、射殺す。
「そう、用紙も印も本物です。しかしサインは違います。このサインは皇帝付き秘書官の筆跡ですからね。陛下がいない隙に勝手に作った様です。このような爵位譲渡書など、一度受け取ってしまえば一目に触れる事などほとんどありませんからね……?」
「な、何故!何故!それを持ち出せるのだ!それは我が家でも最も見つけにくい秘密の場所に隠してあったはず!ま、まさかその譲渡書は偽物だろう!私を陥れる為に作ったのであろう!」
デブの叫びは誰にも届かない。眼鏡の一人が静かにデブに近づき言う。
「そう。あそこは一番みつかりにくく、一番大切な物をしまっておくのに相応しい隠し金庫だ。そんな金庫を元々あの屋敷の主人である私が知らぬ訳があるまい?しかもご丁寧に解除の数字まで以前のままであったから何の苦労もなく開ける事ができたぞ」
「い、以前の主人……?!ひ!アルベルト・ブロウ公爵!!お前は目玉をくり抜いてやったはず!!」
「ええ、とても苦しい思いをさせられましたよ?しかし、いくら私の目玉をくり抜こうと、真実は消せぬものなんですよ」
冷たい、不快、腹立たしさ。怒りも憎しみも内包した笑みはいっそ、聖母の様に暖かさすら感じた。
「くそっ!離せ!ワシを誰だと心得る!ワシは陛下の覚えもめでたいザサード公爵だぞ!」
でっぷりと肥えた50絡みの男が後ろ手に縛られ部屋の真ん中に投げ出された。その男をみて皇帝カリウスは不快感から少しだけ眉根を寄せた。この見た目も醜悪な男がデズモンド・ザサード公爵。通称「切断公爵」気狂いの公爵だそうだ。俺も初めてみたよ。
「知らん顔だ。これは私の部下ではない。何故このような醜悪な物が私の部下を名乗っておるのだ」
「ひっ?!わ、私は皇帝陛下の忠実な僕でございます!」
「私の前に一度も顔を出さぬ忠実な僕などいるはずも無かろう」
俺の目から見ても汚いおっさんは変な汗を大量に流しながら、目を泳がせる。必死に言い訳を探している顔だ。
「あ、あの!面会記録!面会記録を見ていただければ!」
「私の記憶を疑うというのか?大した忠義者だな」
そこにすっとアシューレス元宰相が手を挙げた。許す、そう皇帝から声をかけられ、フローラ傭兵団眼鏡部隊隊長が口を開く。
「あ!あ!アシューレス!な、何故お前が!あ、足!手!た、確かに私が奪ったはずなのに?!」
怯えるデズモンドのおっさんを一瞥、鼻で一つ笑ってから、眼鏡を人差し指でクイっとあげた。
「その男に買収された書記官のリストです。そして改ざんされた面会記録簿。すぐに押さえた為、補正の隙を与えませんでした。この記録簿によると、そこの男は一昨日とその前日にも皇帝と直接の会い、長い懇談をした事になっております」
「ほう?」
「この改ざんは陛下が皇帝となられる前から行われており、現存する全ての記録簿は彼らの手により勝手に捏造されている物に相違ありません」
「ば!馬鹿な!そんな事がある訳がないっ!!」
自重で起き上がれないザサードは這いつくばったまま、唾を飛ばして怒鳴りまくる。それをここにいる全員が冷たく見下しながら、別の眼鏡が手を挙げる。許す、皇帝の許可を確認して眼鏡は言う。
「面会記録簿と、皇帝の行動記録簿、戦歴などなどここ10年あまりの事を調べましたが、その面会記録簿の改ざんはあまりに稚拙すぎます。皇帝陛下が戦場で駆けている時に、王城にてその男は謁見し、爵位を授かるという不思議な事を良く起こしております」
「ほう?」
「で!出鱈目を!出鱈目を言うな!わ、ワシは陛下より直々に爵位を授かった!」
「私はお前に会った事などないのだが、お前はどの皇帝に爵位を貰ったのだ?私ではあるまいな?」
ギロリと睨まれ、おっさんはまた縮み上がる。フローラ傭兵団の眼鏡に知能舌戦で勝てる訳がないのに。
また別の眼鏡が手を上げ、許可される。
「そこの醜い男を捉える際に少し失敬して参りました。この男が陛下より授かったという爵位譲渡書ですが、偽造と判断されます」
金縁の美しい豪奢な厚い紙には確かにデズモンド・ザサードを公爵とする旨記され、皇帝の印とサインがされていた。
「ぎ、偽造な訳がなかろう!皇帝印は本物だ!」
喚く男に、眼鏡は冷たい光を反射し、射殺す。
「そう、用紙も印も本物です。しかしサインは違います。このサインは皇帝付き秘書官の筆跡ですからね。陛下がいない隙に勝手に作った様です。このような爵位譲渡書など、一度受け取ってしまえば一目に触れる事などほとんどありませんからね……?」
「な、何故!何故!それを持ち出せるのだ!それは我が家でも最も見つけにくい秘密の場所に隠してあったはず!ま、まさかその譲渡書は偽物だろう!私を陥れる為に作ったのであろう!」
デブの叫びは誰にも届かない。眼鏡の一人が静かにデブに近づき言う。
「そう。あそこは一番みつかりにくく、一番大切な物をしまっておくのに相応しい隠し金庫だ。そんな金庫を元々あの屋敷の主人である私が知らぬ訳があるまい?しかもご丁寧に解除の数字まで以前のままであったから何の苦労もなく開ける事ができたぞ」
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