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4 世話の焼けるいなり寿司

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 朝起きてスマホを手にツイッツーを見てみる。尻尾の生えたいなり寿司にはイイっすが17個あり、リツイッツーが10回、そしてコメントが一つ増えている。


美味そう


 ハハハ!やったな油揚げ人気だよ!なんだか呼ばれている気がして冷蔵庫を開けると

「さささささむいです……カナさん……」

 油揚げがカタカタ震えていた。心なしか顔色が悪そうだが、あのお揚げ色なのでよくわからない。青くなったいなり寿司、絶対美味しくなさそうです。

「だから冷蔵庫は寒いんだって」

「でも腐りたくないです!」

 うーん、油揚げだからなあ……。面倒なことはあとで考えよう。今日は土曜日だし、私はテレビをつけてコーヒーを入れる。

「なー油揚げ。なんか飲む?お湯とか?」

「油抜きされちゃいますからー!あ、私今いなり寿司でした。すし飯がバラバラになりそうなのでいりませんよ」

「そうだな!」

 そういえばこのいなり寿司、ちょこっと動けるようになってるぞ。

「あ!よく見たらマメみたいな足があります。歩けますよ」

 ぽてぽて、そんな擬音が似合いそうだった。

「おお!足が生えた記念だ。写真だ、アップだ!」

 カシャーと機械音が響き、私はまた写真をアップする。

「足とか生えました、っと」

 すぐに赤いハートのイイっすが何個か付き、リツイッツーしてくれた人がいる。


 何で足を作ったんだろう?


 なるほど、この人は私がこのいなり寿司を作ってアップしてると思っているんだな。普通はそう思うよな。だがうちのいなり寿司は自分で勝手にバージョンアップしているんだ。私はどうやったかなんてさっぱりわからない。

「なー油揚げ。お前の豆みたいな足は何で出来てるんだろうなー」

 振り返ると油揚げは横倒しにひっくり返って手足をぱたぱたさせながらもがいていた。

「……油揚げ。お前しゃべれるんだから、早く助けを呼びなよ。お前の手足じゃ自力で戻れないよ」

「面目ない……久しぶりに自力で歩けたのが嬉しくて、つい調子に乗りました」

 いなり寿司を箸で摘んで、少し大きなカレー皿の上に置いた。

「手で触ると雑菌が付くからなぁ」

「丁寧に扱ってくれてありがとう、カナさん」

 油揚げはごまの目を細めて、私の方を向いて尻尾を振った。

「可愛いな、動画にしてみよっかな?」

「ではこのお皿の中を歩いてみますね」

 油揚げは短い謎の手足を動かしてゆっくり皿を一周した。

「うん、良い。アップしてみよう」

「誰か見てくれますかね?なんだか知らない人に見られるなんて、少し恥ずかしいですね!」

 私と油揚げはツイッツーに歩くいなり寿司をアップした。

 ぽんぽんといつもの?いなり寿司好きがイイっすを押してくれた。


何これ?コマ撮り?おもしろーい


 コメントがぽんとついた。

「普通に撮影したなんて誰も気が付かないよね」

「そうですねー何せ今の私はいなり寿司ですから!」

食い物で遊ぶな!……だが可愛い、いなり寿司買ってくる

「油揚げ、どこかでいなり寿司が消費されてるぞ」

「わ、私は食べないでくださいね、カナさん」

「食べないよ!お前昨日カビ生えてたじゃん!そういえばカビはどうしたの?体調悪くない?」

 油揚げは首?体?を捻って自分の寸胴ボディを確認し

「消えたみたいです!神通力が消してくれたんでしょう」

 そう、嬉しそうに言った。

「じゃあ冷蔵庫に入れなくても腐らないかもしれないな!」

「やったーー!」

 ぴょんと跳ねて着地に失敗し、横倒しになった。

「カナさーん助けてー」

 世話のやけるいなり寿司だ。



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