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2 油揚げの信者になった

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「すいません、本当に……」

 油揚げは中央辺りを小さく上下して喋った。かなりホラーでシュールだ。口が無いのに言葉が聞こえるんだ!

「えっと……油揚げ……だよね」

「あ、はい……でももうすぐ消えますから……鞄は弁償出来なさそうです申し訳ない……」

 そうだ、鞄!べったり油揚げの形に油が染み付いている。酷い……!涙が出そうだが、この油揚げ気になる事を言っている。

「ねえ、油揚げ。さっきから消えるって言ってるよね?」

「ああ、私、こう見えても神様だったんです。でも信じる人も1人も居なくなって、もう存在を保てなくなっているんです。すいません」

 よくみると油揚げは縮んできているし、黒いカビみたいなものが大きくなってきている、消えるのは本当のようだ。

「そうなんだ。ねえ、油揚げ。油揚げってどんな神様だったんだい?」

「ふふ、内緒です。最後に話ができて良かった。祟り神になりそうだったんです」

 もう小揚くらいになった油揚げは笑ったようだった。なんだろう、このままこの油揚げをこの世から消すのはいけない気がした。どうしたら、どうしたらこの油揚げを消さずに済むかな?

「油揚げの神様かーーやっぱり稲荷?」

「わっ!」

 ぽぅん、と音がして、小揚は中身が入った。

「……油揚げがお稲荷さんになった!」

「中に寿司飯が入ってる感じがします!」

 お稲荷さんは嬉しかったのか、バランスを崩しただけか知らないけれど、ころん、と横になった。

「駄目だ!まだ油がつくよ、油揚げ!」

「ごめんなさい……」

 多分、私が油揚げの信者になったんだ。こうして私は元油揚げ、今いなり寿司と同居する事になった。

「良し、せっかくいなり寿司になったから、SNSにアップしようー」

 私はお皿を持ってきて、箸でいなり寿司を摘んだ。

「くふ!くふふ、くすぐったい!」

「ほい、笑ういなり寿司、っと」

 カシャー。スマホから無機質なシャッター音がして、あまり美味しくなさそうないなり寿司の写真が撮れた。

「ほら、ツイッツーにアップしたぞ!」

「あ、本当だ。私は今、こんな姿なんですねー」

 目も口も耳もないが、いなり寿司はツイッツーの画面が見えるようだ。

「あ!赤いハートがつきましたよ!」

「イイっすされたか!あはは!誰か食べたかったのかなー?」

 なんだか、元油揚げが美味しそうに見えてきた。

「なあ、なんだかさっきより美味そうにみえる!」

「ふふ!イイっすされたからでしょうか!」

 いなり寿司もなんだか楽しそうだ。良く見ると黒カビも無くなっていたし、テリも出て来てジューシーに見えてくる。おお!良いぞ、良いぞ。

「ねえ、油揚げ。私の名前は宮崎カナ。私は油揚げを何て呼べばいい?」

 油揚げは首……はないけれど、あったなら傾げていただろう。少し考えてから

「油揚げで良いですよ」

 そう答えた。適当過ぎない??まあ良いか。

「油揚げが神様に戻ったら、鞄の油染みをなんとかしてよ!」

「なんとか出来ると良いのですが、もし力が戻ったら出来る限りの事はしたいと思います!」

 期待せずに私は笑った。誰かと仕事以外でこんなに喋ったのは久しぶりだった。
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