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12 あたしはエラローズ(エラ視点)

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 あたしはエラ。平民だからただのエラよ。母さんは街の食堂で働いていたの。ま、ついでに体も売っていたんだけどね。その時出来たのがあたし。

「誰の子種かなんて分かるわけ無いだろ?」

 そうだね、母さんと同じ茶色の髪に青い目だ。顔も母さんそっくり。まあまあ可愛い顔だろ?
 そんな母さんも死に、どうしようか考えている時にやたらカッコいい貴族のおじさんがやって来て、あたしの父親だと名乗った。
 折角だから心当たりも何もないけどその話に乗った。そのままいても母さんと同じ娼婦になるしかない運命だもんね。

 そのカッコいい貴族はリハルト子爵だと言った。

「良く見てごらん、君の瞳の色は薄らと紫がかっている。私の血が流れているんだよ」

「……」

 いや、あたしの目の色は青だ。母さんと同じく真っ青だ。でもそこは

「あ、はい」

 そう答える。どうも春から学園とやらに通って、上位貴族を引っ掛けてこいとの事だった。
 リハルト家の住人は全員あたしを冷たい目でみた。まあそりゃそうだろうな、と思う。冷たいがあたしの兄弟だと言われた人達はみな、美形だった。兄と、弟と妹。特に一つ下のノイシュはお父様だと言うヨシュアにそっくりでお人形さんみたいに綺麗で可愛かった。

 付け焼き刃の淑女教育は厳しかったけど、学園は全寮制で、長期の休み以外は家に帰らなくて良いそうだ。春までの短い時間をなんとかやり過ごし、あたしは学園に足を踏み入れた。


 2年の冬頃、リハルト家に連れ戻されたけど、学園に戻してもらえた。

「エドワードさまぁ~!」

「エラローズ!家の都合でしばらく来れなかったそうだが、変わりないか?」

「ええ、勿論ですぅ」

「そうか、では……」

「はい♡いつもの場所で」

 お父様のご要望通り貴族の中でも一番偉い王子様のハートを射止めたの。あたしはやればできる子なんだわ。

「そういえばエラ。お前の弟のノイシュはどうした?」

「えー知りません」

 ノイシュ。家の地下でも冷たい目だった。顔が可愛いから、迫力があるのよね。私が地下室から出され、学園に戻るときも居なかったわね。リハルト家はお葬式みたいにずーんと沈んでいたのも気になったけど、学園に戻るのが先だったからさっさと帰ってきちゃったのよね。
 それに、あたしが何を聞いても冷たくあしらわれるだけだもんね。

 でももう良いの!学園を卒業したら、エドワード様と結婚して、アタシはお姫様になるんだから!もうリハルト家の人とはおさらばなのよ!

「ノイシュ・リハルトは学園をやめましたよ」

「あら?そうなの?」

 何よ、ノイシュったら賢そうに見えてアタシより馬鹿なの??まあ、あたしも自力じゃテストに合格しないから、こうやって教師にゴマをすってんだけどね。
 ノイシュはやっぱりすごい可愛くて、学園でも人気だった。子爵家の子供として分も弁えているし、勉強も出来たんだって。
 大体の男子生徒はノイシュを婚約者にしたがったよのね。本当すごい人気。ノイシュが突然学園に来なくなったから、私に何故かと声をかけてくる人も多かったわ。

「えー?わかりませぇんーあんまり仲が良くないからぁ~」

「だろうな」

 だろうなって何よ!あたしがノイシュ達と普通に喋ったことはないのは確かだけどさ!学園で顔を合わせても、冷たくて汚い物を見る目で見てくるんだもん!ちょっと可愛いからって最悪よ!
 ノイシュの事を聞いてきた男子に粉をかけて、何人か食ってやったわ!もうノイシュより私の魅力にメロメロでしょ?うふふ!あたしったらノイシュに勝っちゃったんじゃなーい?

 さて、前までうるさくいちゃもんばっかりつけてきてたランシア様も最近はなりを潜めてるし、もうあたしとエドワード様の仲も確定だし、あたしには薔薇色の人生しかないわー!



「は?!な、なにを言って……」

「ですから、婚約破棄は受け入れますわ。そしてエドワード様はわたくしに必要がありませんから、そちらの方に差し上げます。しかし慰謝料はいただきますね?」

「ラ、ランシア?!私を要らないなど、不敬であろう!」

 ランシア様は嫣然と微笑み

「エドワード様は王族籍、貴族籍共に剥奪、どこへなりとも行けば良いと、陛下より書状を賜っておりますわ」

 愕然とエドワード様が膝をつく。は?!どう言う事?意味が分かんない!

「エドワード様が王子様じゃなくなったってこと?!じゃ、じゃああたしはどうすれば?!」

「さあ?平民として二人仲良く暮らして行けば良いのでは?わたくしへの支払いは滞りなく進めてくださいね?」

 は?あたしは平民じゃなくなったのよ!子爵家とはいえ養女になったんだから!

「あ、あたしは平民じゃないわ!リハルト家の娘よ!」

「あら?そんな書類どこにありまして?」

「え……だってお父様が、あたしを養女にって……」

「冬くらいだったかしら?リハルト子爵夫人が我が家に来られましてね?どうも書類を出し忘れていて、と言うお話を聞きましたわ」

 冬?!あのあたしが地下室にしばらく閉じ込められていた時?!

「リハルト子爵の勘違いで血のつながりもない娘を家に連れてきたけれど、どうも違ったらしいと。せめてもの縁で学園にはそのままい続けさせようと言う事になったようですわよ?あら?ご存知なかった?自分の事でしょうに」

 そういえば教師達もあたしの事を「エラ」としか呼ばなくなっていた。「エラローズ・リハルト」じゃなくなっていたの?!

「うそ、じゃあ、あたし達はどうなるの……?」

「さあ?ご自分でお考えになったら宜しいんじゃなくて?」

 パーティーは恙無く終わり、あたしとエドワード様はそのままポイっと外に放られた。

「エラとやら、お前が使っていた学用品、服の全てはランシア様のヴェルクレー家の支援によるものだ。リハルト家からはもはや何の支援も来てはいない。全て引上げさせて貰った。出て行くが良い」

 学園の扉は目の前で閉められた。

「うそ、うそ!どうすれば?!」

「わ、私は、私は……」

 エドワード様もブルブルと震えるだけだ。頼りにならないじゃない!なんなのコイツ!

「エドワード、お前が全てを改めるつもりがあるなら、お前の友人として私は力を貸したい」

「タイアド……お前の言う通りだった!すまない、すまない!」

 エドワード様には親友のタイアド様が手を差し伸べた。立ち上がるエドワード様。そのまま馬車へ乗るらしい。

「え、エドワードさまぁ!」

 あたしも、あたしも連れて行ってくださいませ!

「エラローズ……」

「エドワードさまぁ……」

 あたしをお姫様にしてくれるんでしょう?

「……エラ、元気で」

「は?!」

 目の前で馬車の扉は閉じられた。

「エラまで乗せろと言ったら、流石に蹴飛ばして見捨てる所だったぞ」

「私はこれから、全てを死に物狂いでやり直すんだ。申し訳ないが彼女の世話をしてやる余裕などないよ」

「元々平民の出と聞いている。きっと強かな彼女の事だ、大丈夫だろう」

「は?」

 閉められた馬車の中から聞こえる会話に耳を疑う。

 ポツンと残されるあたし。あたしは一体どうしたら良いの……?!

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