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いいえ、メイドです
39 平和は君の笑顔にかかっているんだ
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この土地を治め始めてから一度だけアルカンジェルが毒を飲まされた事がある。
「あら……何かこのお茶……いつもと違いますわ……」
レミもレラもユーシスが治めている西側の視察に出た時だった。アルカンジェルがそれを飲み込まず、ハンカチにしみ込ませて吐き出したが
「パ……完全回復!!」
侍女の一人だったと思う、真っ青な顔で聖女クラスが行使する聖魔法を使い始めたのは。
「違うわ!完全鑑定麻痺系毒よ!ツキヨシビレタケとビシシ草だわ!」
違う侍女が賢者クラスが扱うと噂の古代語魔法を唱えている。
「完全解毒!!こっちね!」
あの二人ではないメイドまでとんでもない魔法を使い始めたぞ……?!
「王妃様!王妃様!お加減は!?」
「え、ええ。大丈夫よ、ちょっと舌がしびれただけだわ」
「医療診断!お体に異常は見られません!大事を取って横になられてください!」
もう何が何だか分からないが、とにかくアルカンジェルの周りに仕えている女性たちはどうも全員聖女クラスの聖魔法や賢者クラスの古代語魔法も使えるらしい……、な、なんだろうか……嗜み、なんだろうか……?
そしてアルカンジェルの無事が確認されると皆、ほっと胸を撫でおろしてから真っ青どころか真っ白になっている衛兵たちをギリッと睨んだ。
「不審者の侵入を、許しましたね?」「毒物の持ち込みを許しましたね?」
「ひ、ひいいいいい!?ほ、報告、報告だけはご勘弁をおおお!!」
えっと……うん、いや、そうだよな。怖いよな、メイドが。
「私達が申し上げなくても……もう気が付かれていますわ」
城中がゾクリとうすら寒い冷気に縛られた気がする。あ、あああ……こ、これは
〈最近平和だと……油断しましたね……〉〈帰ったら全員……スペシャルキャンプ行きですわよ〉
アルカンジェルと子供達以外の脳裏に直接響く地を這うような双子の声!わ、私も……私もキャンプ行きなのか……ッ!?
「あなた?お顔色が優れないようですが……」
「あ、ああ。君が無事で良かった、大事に至らなくて……と。城の警備を見直す必要があるな、今後こんなことは起こらぬように」
「そうですね。ああ、わたくしでよかったわ。貴方でしたらもっと大変でしたもの」
優しく笑うアルカンジェルはいつまでも美しいなと思いつつ、その程度の毒では私には効かないんだ、何せあのお茶を毎日飲まされているからね……。最近では300倍でも普通に飲めるようになったんだよ……。
「頼むから、自分を大切にしてくれ、アルカンジェル。君に何かあったら私はきっと耐えられないよ」
愛しい妻にもしもの事があればもちろん、とてもつらい。その他にメイドの激しい叱責にも耐えらないと思うんだ。
「ええ、分かりましたわ。二人でこの国を支えていかなければなりませんものね」
「そうだとも」
そのすぐ後に戻ってきたレミとレラが
「お嬢様!ご無事ですかっ!」「お嬢様!やはり二人とも離れるべきではなかった!」
「まあ、二人とも大げさよ。少しぴりっとしたくらいだわ」
なんて和やかな会話を交わしつつも、城の生きとし生けるものは恐怖で身を強張らせる事態に陥ったのだった。
「最近侍女達の姿が見えないようなのですが」
「休暇だと思います」
「衛兵も少ないような気がするわ」
「休暇ですわ。働き過ぎは良くありませんから」
休暇だ。城の人間は交代で地獄のキャンプに送り込まれている。
「わ、私も……明日から視察に出かけてくるよ……」
「まあ、お気をつけてくださいね」
今度のキャンプは西の海から隣の大陸に上陸だった気がするな……。うちのメイド魔王が
「西の方から新たな魔王の気配がする。誰かが次元を割って出て来たようだ……新参者を追い払いましょうか?」
なんて報告があったからソレと組み手をさせられるんだろう……。ああ、辛いとてもつらい。最近は台所にで入るするネズミまで捕まえて、
「いい?この城に侵入者があったら教えるのよ?」「チュッ!」
なんて話をしているのを聞いてしまった……。一体どうなっているんだ?
「あの、あなた。お早くお戻りになってくださいね?」
「ああ、すぐ戻るよ」
「やはりあなたがいないと……寂しいですから」
そっとレミとレラを見ると、とても優しい顔をしている。これは私のキャンプ生活はとても短い物になりそうだ。
「大丈夫、すぐに戻ってくるから、子供達を頼むよ」
「ええ、お任せくださいませ」
大輪のバラのようににこりと笑うアルカンジェル。私は君を幸せに出来ていると思っているよ、どうかその笑顔のままでずっといて欲しい。
この世界の平和の為に!
(終)
「あら……何かこのお茶……いつもと違いますわ……」
レミもレラもユーシスが治めている西側の視察に出た時だった。アルカンジェルがそれを飲み込まず、ハンカチにしみ込ませて吐き出したが
「パ……完全回復!!」
侍女の一人だったと思う、真っ青な顔で聖女クラスが行使する聖魔法を使い始めたのは。
「違うわ!完全鑑定麻痺系毒よ!ツキヨシビレタケとビシシ草だわ!」
違う侍女が賢者クラスが扱うと噂の古代語魔法を唱えている。
「完全解毒!!こっちね!」
あの二人ではないメイドまでとんでもない魔法を使い始めたぞ……?!
「王妃様!王妃様!お加減は!?」
「え、ええ。大丈夫よ、ちょっと舌がしびれただけだわ」
「医療診断!お体に異常は見られません!大事を取って横になられてください!」
もう何が何だか分からないが、とにかくアルカンジェルの周りに仕えている女性たちはどうも全員聖女クラスの聖魔法や賢者クラスの古代語魔法も使えるらしい……、な、なんだろうか……嗜み、なんだろうか……?
そしてアルカンジェルの無事が確認されると皆、ほっと胸を撫でおろしてから真っ青どころか真っ白になっている衛兵たちをギリッと睨んだ。
「不審者の侵入を、許しましたね?」「毒物の持ち込みを許しましたね?」
「ひ、ひいいいいい!?ほ、報告、報告だけはご勘弁をおおお!!」
えっと……うん、いや、そうだよな。怖いよな、メイドが。
「私達が申し上げなくても……もう気が付かれていますわ」
城中がゾクリとうすら寒い冷気に縛られた気がする。あ、あああ……こ、これは
〈最近平和だと……油断しましたね……〉〈帰ったら全員……スペシャルキャンプ行きですわよ〉
アルカンジェルと子供達以外の脳裏に直接響く地を這うような双子の声!わ、私も……私もキャンプ行きなのか……ッ!?
「あなた?お顔色が優れないようですが……」
「あ、ああ。君が無事で良かった、大事に至らなくて……と。城の警備を見直す必要があるな、今後こんなことは起こらぬように」
「そうですね。ああ、わたくしでよかったわ。貴方でしたらもっと大変でしたもの」
優しく笑うアルカンジェルはいつまでも美しいなと思いつつ、その程度の毒では私には効かないんだ、何せあのお茶を毎日飲まされているからね……。最近では300倍でも普通に飲めるようになったんだよ……。
「頼むから、自分を大切にしてくれ、アルカンジェル。君に何かあったら私はきっと耐えられないよ」
愛しい妻にもしもの事があればもちろん、とてもつらい。その他にメイドの激しい叱責にも耐えらないと思うんだ。
「ええ、分かりましたわ。二人でこの国を支えていかなければなりませんものね」
「そうだとも」
そのすぐ後に戻ってきたレミとレラが
「お嬢様!ご無事ですかっ!」「お嬢様!やはり二人とも離れるべきではなかった!」
「まあ、二人とも大げさよ。少しぴりっとしたくらいだわ」
なんて和やかな会話を交わしつつも、城の生きとし生けるものは恐怖で身を強張らせる事態に陥ったのだった。
「最近侍女達の姿が見えないようなのですが」
「休暇だと思います」
「衛兵も少ないような気がするわ」
「休暇ですわ。働き過ぎは良くありませんから」
休暇だ。城の人間は交代で地獄のキャンプに送り込まれている。
「わ、私も……明日から視察に出かけてくるよ……」
「まあ、お気をつけてくださいね」
今度のキャンプは西の海から隣の大陸に上陸だった気がするな……。うちのメイド魔王が
「西の方から新たな魔王の気配がする。誰かが次元を割って出て来たようだ……新参者を追い払いましょうか?」
なんて報告があったからソレと組み手をさせられるんだろう……。ああ、辛いとてもつらい。最近は台所にで入るするネズミまで捕まえて、
「いい?この城に侵入者があったら教えるのよ?」「チュッ!」
なんて話をしているのを聞いてしまった……。一体どうなっているんだ?
「あの、あなた。お早くお戻りになってくださいね?」
「ああ、すぐ戻るよ」
「やはりあなたがいないと……寂しいですから」
そっとレミとレラを見ると、とても優しい顔をしている。これは私のキャンプ生活はとても短い物になりそうだ。
「大丈夫、すぐに戻ってくるから、子供達を頼むよ」
「ええ、お任せくださいませ」
大輪のバラのようににこりと笑うアルカンジェル。私は君を幸せに出来ていると思っているよ、どうかその笑顔のままでずっといて欲しい。
この世界の平和の為に!
(終)
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