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いいえ、メイドです

36 不正は許しません

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 仮屋敷だと聞いたが、そこはヘイルズ王城だった。勿論ヘイルズ王家の者は一人もいないし、ヘイルズの国民も誰一人として見つけることができなかった。

「仮……」

「本当に申し訳ございません」

 シーラン王城より大きくてきれいな城にこれが仮屋敷ならば、今後一体何処に住むつもり何だろう、などと軽く目眩を覚えながら、執務室へ向かう。
 仕事は山積みである事は間違いない。

「ヘイルズ国民は一人も見つかりません。7日ほど辺り一帯を探索しましたが、いないようです」

「同様にヘイルズ王家の血筋の者も」

「み、見える範囲だけ魔物の類を一掃して参りましたぁ!手のひらほどの妖魔も落ちてません、すみません!すみません!!」

「そのあと、結界を少々」

「地形が気に入らないので山を削っておきました」

「街並みも美しくないので少々変更しておきました」


 よく分からない事がよく分かった。

「ではこの地はこれからシーラン領である!」

 なるようになれ!!


「よく聞け!ここから先はシーラン領である!元住んでいた場所ではない!シーランの王に服従する平民のみを通す事になっておる!」

 魔獣の恐怖に怯え、日々逃げ暮らす人々は驚いた。初めは小さかった壁がどんどん迫ってくるのだ。
 その壁は人は勿論物も、特に魔獣の類を弾き飛ばす強力な結界だったから。
 そのうちに小さな門が出来て、門番が立った。そして門番は声高らかにそう言ったのだ。

「あ、あのう……シーランの王様に服従って何をすれば……」

「シーラン国民として税を納め、非道な振る舞いをせず、日々の労働に勤しむと良い」

「ぜ、税は余程お高いのですか……?」

「これくらいだ」

 門番が示した額は元の国の三分のニ程であったから、民達は飛びついた。

「わ、私はシーラン国民になります!」

「そうか、では名前と家族を教えたまえ。そしてこの札を首から掛けて……結界の外に出るなよ、命の保証は出来ん。シーラン王都は元ヘイルズと言う国があった場所だ。住む場所は早い者勝ちになっておるからな。ケンカにならん程度に」

「早い者勝ち?!早く行けば王都の一等地に家を作れるのか!?」

「可能だよ。ただし欲張ると痛い目を見るぞ?」

「急げ!急げーーー!」

 平民とそして商人が飛びついた。どちらにしろ、結界の中は魔獣がいない。外でガタガタ震えて過ごすより、中に入って焚き火を焚き、そこで暖まりながら過ごす方が良い。

 門の前には長蛇の列ができ、当然ながらいざこざも起こった。特に貴族絡みの問題も多かったが、門番は強かった。

「貴族?どこの貴族ですか?滅んだ国の事を言われてもねえ?金?賄賂?そんなはした金でどうするつもりですか??
 あと、入れるのは平民だけですよ。貴族はそうやって権力と金を振りかざすから、厄介だと」

 トラブルはいくつも起きたが、その度に門番は門を閉める。すると早く入りたい平民と無茶を通そうとする貴族の間で戦いが起き、酷い時には命を奪う事もあった。
 それでも、それは徹底された。

「シーランは不正は許しません、そう言う態度から知らしめる必要がありますから」

 勿論、そんな事は起こって欲しくない。しかしこの広すぎて破壊され尽くした大陸を編成し直すには必要な事だった。

「まともな人物を登用しないと」

「厳選しておきました」

「ありがとう」

 一度破壊し尽くされたが故に、膿や病巣は洗い流され、再建はスムーズに運んだ。

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