上 下
60 / 78
いいえ、メイドです

22 自業自得というもの

しおりを挟む
「では、件の箱を引き上げ、ヘイルズの平原に捨てて参ります」

「ええ、レミ、レラお願いね、気をつけて」

「……」

 ナイトレイは自国の海軍兵がムキムキマッチョに変わっていようが、船の舳先に人魚っぽいものが縛り付けられていようが、海竜っぽい物に鎖をかけて船を引かせているとか……。

「何も、何事もない!頼んだぞ!」

「お任せ下さい!お嬢様の為に頑張りますわ~!」

 そうだ、いずれシーランの王妃となるアルカンジェルの為で良いから頑張って欲しい!心から願った。


「さて、気合入れて行きますわよ」

「ええ」

 シーランの領海内沖には海竜の顎門と呼ばれる大海溝がぱっくりと口を開けている。沈んだ船は二度と戻らないと言われている深海への入り口だが、ここに倒しきれなかった魔王を捨てた勇者が居たのだ、多分。

「流石の私達でも頑張らないといけませんわ。海軍の皆様は船の警備をお願いします」

「まず、鎖とロープを下ろして……潜ります」

「はっ!レラ様!レミ様!」

 ジョルジュ以下海軍全員で敬礼をする。

「魔王の箱が上がって来たら多分魔物が押し寄せます。ジェームズ、お願いしますね」

「ええ、全て余さず食材にしてやりますよ」

「トムもボンドもお願いします」

「お任せください料理長マスターシェフレミ」

 では、行きます。と、レミとレラが海にドボンと飛び込んだ。無論メイド服のままだ。

「お二人がかりでなさる事とは……やはり魔王がいると言う話は本当なのですね」

「お二人がかりでなくてはならないとは!ああ、魔王とはなんと恐ろしい存在なのだろうか」

「流石は世界を滅ぼす魔王……恐ろしいものですね」

 残念な事にこの船には調教された者しか乗り合わせていなかった為、深海にメイド服で向かった2人に疑問を投げかける者はいなかったし、メイド二人と比べられる魔王とは?と首を傾げるものも無かった。
 ただ、作戦を成功させて戻ってくる事しか考えていない者のみだったのである。


「引き上げます!封印の上に結界を張りました!」

「倒しても倒しても大型魔獣がやって来ます!」

「ヘイルズの奥地、草原地帯にぶん投げてしまいましょう!」

「そうしましょう!そうしましょう!」

 ヘイルズ国は自業自得としか言えないのである。



「お嬢様ーー!」

「レミ!レラ!お帰りなさい!」

 その日の夜遅く、船は帰って来た。船を引いていた海竜が行く時より2回りほど大きくなっているとか、舳先に括り付けられていた人魚がぐったりしているとか、聞きたい事は色々あったが、まずは皆の無事を確認した。

「どうでした?」

「やはりヘイルズの封印箱でした。見れば分かる物で、しかもご丁寧に箱の表面に勇者の筆跡がありました」

 魔法で写して来たと言って寄越した紙にナイトレイは目を見張る。そこには300年ほど前のヘイルズの勇者の名前が刻まれていて、しっかりと海竜の顎門に投げ入れる事を許して欲しいと書かれていた。

「『顎門ほどの深海であれば魔王も出てこられぬと信じている、しかしもしシーランに迷惑をかける事があればヘイルズ国の全てをもって償う所存である』と当時の王の署名も刻まれていたんですね」

「はい」

「完璧です」

 二人のメイドは頭を下げる。どうやって引き上げたかは、聞いても仕方のない事だと分かっている。

「今後、シーラン海域の魔物の数は激減する、間違いないですね?」

「呼び寄せていた魔王はヘイルズに返して来ましたから」

 どうやって返したかも聞くのはやめた。国内の事でもいっぱいいっぱいなのに、協力もしていない他国など構っている余裕はない。

「アルカ、労って上げて下さい。ジョルジュ、海兵達もご苦労様でした。まだ忙しくなるでしょうが、今日は休息を」

「ありがとうございます!殿下!」

「……あと、後ろの何かよく分からない山はそちらで何とかしてくれるのですよね……?」

「お任せ下さい、ナイトレイ殿下。つきましては明日から若干肉祭りを開催さしますが、お目溢し頂ければ幸いです」

 帰ってきた船の後ろに何か小山を曳航してきているのは気が付いていた。しかし、見ないふりも慣れた物なのだ。

「……素敵な祭りを期待しております」

 ナイトレイは自室に戻る事にした。荒れた海が本当に元に戻るのか、シーランは昔の賑わいを取り戻せるのか。

 レミとレラの仕事に一番期待していたのは自分なんだと思い返しながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

修羅場を観察していたら巻き込まれました。

夢草 蝶
恋愛
 異様な空気の社交場。  固まる観衆。  呆然とする第三王子。  そして──、その中央でキャットファイトを繰り広げる二人の少女。  片や、名門貴族のご令嬢。  片や、平民ながらに特別な魔力を持つ少女。  その口からは泥棒猫やら性悪女やらと品に欠ける言葉が飛び出す。  しかし、それに混じってヒロインがどうの、悪役令嬢がどうの、乙女ゲームがどうのと聞こえる。  成程。どうやら二人は転生者らしい。  ゲームのシナリオと流れが違うなーって思ってたからこれで納得。  実は私も転生者。  乙女ゲームの展開を面白半分で観察してたらまさかこんなことになるなんて。  でも、そろそろ誰か止めに入ってくれないかなー?  おお! 悪役令嬢の巴投げが決まった! ヒロインが吹っ飛んで──ん? え? あれ?  なんかヒロインがこっちに飛んできたんですけど!?

悪役令嬢に転生したので、すべて無視することにしたのですが……?

りーさん
恋愛
 気がついたら、生まれ変わっていた。自分が死んだ記憶もない。どうやら、悪役令嬢に生まれ変わったみたい。しかも、生まれ変わったタイミングが、学園の入学式の前日で、攻略対象からも嫌われまくってる!?  こうなったら、破滅回避は諦めよう。だって、悪役令嬢は、悪口しか言ってなかったんだから。それだけで、公の場で断罪するような婚約者など、こっちから願い下げだ。  他の攻略対象も、別にお前らは関係ないだろ!って感じなのに、一緒に断罪に参加するんだから!そんな奴らのご機嫌をとるだけ無駄なのよ。 もう攻略対象もヒロインもシナリオも全部無視!やりたいことをやらせてもらうわ!  そうやって無視していたら、なんでか攻略対象がこっちに来るんだけど……? ※恋愛はのんびりになります。タグにあるように、主人公が恋をし出すのは後半です。 1/31 タイトル変更 破滅寸前→ゲーム開始直前

どう頑張っても死亡ルートしかない悪役令嬢に転生したので、一切頑張らないことにしました

小倉みち
恋愛
 7歳の誕生日、突然雷に打たれ、そのショックで前世を思い出した公爵令嬢のレティシア。  前世では夥しいほどの仕事に追われる社畜だった彼女。  唯一の楽しみだった乙女ゲームの新作を発売日当日に買いに行こうとしたその日、交通事故で命を落としたこと。  そして――。  この世界が、その乙女ゲームの設定とそっくりそのままであり、自分自身が悪役令嬢であるレティシアに転生してしまったことを。  この悪役令嬢、自分に関心のない家族を振り向かせるために、死に物狂いで努力し、第一王子の婚約者という地位を勝ち取った。  しかしその第一王子の心がぽっと出の主人公に奪われ、嫉妬に狂い主人公に毒を盛る。  それがバレてしまい、最終的に死刑に処される役となっている。  しかも、第一王子ではなくどの攻略対象ルートでも、必ず主人公を虐め、処刑されてしまう噛ませ犬的キャラクター。  レティシアは考えた。  どれだけ努力をしても、どれだけ頑張っても、最終的に自分は死んでしまう。  ――ということは。  これから先どんな努力もせず、ただの馬鹿な一般令嬢として生きれば、一切攻略対象と関わらなければ、そもそもその土俵に乗ることさえしなければ。  私はこの恐ろしい世界で、生き残ることが出来るのではないだろうか。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

公爵令嬢 メアリの逆襲 ~魔の森に作った湯船が 王子 で溢れて困ってます~

薄味メロン
恋愛
 HOTランキング 1位 (2019.9.18)  お気に入り4000人突破しました。  次世代の王妃と言われていたメアリは、その日、すべての地位を奪われた。  だが、誰も知らなかった。 「荷物よし。魔力よし。決意、よし!」 「出発するわ! 目指すは源泉掛け流し!」  メアリが、追放の準備を整えていたことに。

婚約破棄された侯爵令嬢は、元婚約者の側妃にされる前に悪役令嬢推しの美形従者に隣国へ連れ去られます

葵 遥菜
恋愛
アナベル・ハワード侯爵令嬢は婚約者のイーサン王太子殿下を心から慕い、彼の伴侶になるための勉強にできる限りの時間を費やしていた。二人の仲は順調で、結婚の日取りも決まっていた。 しかし、王立学園に入学したのち、イーサン王太子は真実の愛を見つけたようだった。 お相手はエリーナ・カートレット男爵令嬢。 二人は相思相愛のようなので、アナベルは将来王妃となったのち、彼女が側妃として召し上げられることになるだろうと覚悟した。 「悪役令嬢、アナベル・ハワード! あなたにイーサン様は渡さない――!」 アナベルはエリーナから「悪」だと断じられたことで、自分の存在が二人の邪魔であることを再認識し、エリーナが王妃になる道はないのかと探り始める――。 「エリーナ様を王妃に据えるにはどうしたらいいのかしらね、エリオット?」 「一つだけ方法がございます。それをお教えする代わりに、私と約束をしてください」 「どんな約束でも守るわ」 「もし……万が一、王太子殿下がアナベル様との『婚約を破棄する』とおっしゃったら、私と一緒に隣国ガルディニアへ逃げてください」 これは、悪役令嬢を溺愛する従者が合法的に推しを手に入れる物語である。 ※タイトル通りのご都合主義なお話です。 ※他サイトにも投稿しています。

前世は婚約者に浮気された挙げ句、殺された子爵令嬢です。ところでお父様、私の顔に見覚えはございませんか?

柚木崎 史乃
ファンタジー
子爵令嬢マージョリー・フローレスは、婚約者である公爵令息ギュスターヴ・クロフォードに婚約破棄を告げられた。 理由は、彼がマージョリーよりも愛する相手を見つけたからだという。 「ならば、仕方がない」と諦めて身を引こうとした矢先。マージョリーは突然、何者かの手によって階段から突き落とされ死んでしまう。 だが、マージョリーは今際の際に見てしまった。 ニヤリとほくそ笑むギュスターヴが、自分に『真実』を告げてその場から立ち去るところを。 マージョリーは、心に誓った。「必ず、生まれ変わってこの無念を晴らしてやる」と。 そして、気づけばマージョリーはクロフォード公爵家の長女アメリアとして転生していたのだった。 「今世は復讐のためだけに生きよう」と決心していたアメリアだったが、ひょんなことから居場所を見つけてしまう。 ──もう二度と、自分に幸せなんて訪れないと思っていたのに。 その一方で、アメリアは成長するにつれて自分の顔が段々と前世の自分に近づいてきていることに気づかされる。 けれど、それには思いも寄らない理由があって……? 信頼していた相手に裏切られ殺された令嬢は今世で人の温かさや愛情を知り、過去と決別するために奔走する──。 ※本作品は商業化され、小説配信アプリ「Read2N」にて連載配信されております。そのため、配信されているものとは内容が異なるのでご了承下さい。

処理中です...